第139話 カプディーブ


「はい! ただいま向かいます!」


 そうして、待つこと数分、ヘンデュラーが商館から出てきた。


 相変わらず、奴隷商人とは思えぬ端正な顔立ちと、緑色の伸びた髪、モノクルを着けて、正装であろうスーツっぽい格好のヘンデュラーが出てきた。


「久しぶりだな。俺のことは覚えているか?」


「……。リュークハルト殿下?」


 おぉ、覚えてくれていたらしい。


「そうだ。実は今回は購入ではなくてな、買取をして欲しくて来たんだ」


「あ、……は、はい。その後ろにいる方々ですか?」


「あぁ。盗賊だ。犯罪奴隷を扱えるのは国から許された奴隷商人だけなんだろ? 俺の知り合いにそんなやつはお前しかおらん」


「それは、とても光栄です……」


「そうか。てか、さっきからなんなんだその態度は? 前はもっとハキハキ喋ってただろ。ちゃんと喋れよ」


「申し訳ございません。ですが、後ろの方々は……」


 そう言いながら俺の後ろにある檻に入った賊たちを指さす。


「だから盗賊だって言ってるだろ」


「はい、ですが、彼らは最近勢力を伸ばしつつある『カプディーブ』ですよね?」


「『カプディーブ』? なんだそれ。おい、お前らそんな名前の盗賊団なのか?」


「「「はい! そうです!」」」


 らしい。それにしても、カプディーブ、ね。聞いた事ないな。そんなに有名なチームなのか?


「とりあえず、そのカプディーブとかいうやつのことを詳しく聞いてもいいか?」


「はい、大丈夫なのですが、中で話しませんか? ここだと目立つので……」


「ああ、そうだな。そうしよう」


 ◇


 そして、ヘンデュラーに案内されて奴隷商内にやってきた。ちなみに賊たちはあのまま外に置いておくのも迷惑なので、1人ずつ出して、氷魔法で手錠を作り、檻から解放した。


 俺とヘンデュラーが話している間に、ヘンデュラーが専属で雇っている鑑定士に賊たちの状態や年齢などから買取金額を査定してもらっている。


 ちなみに、通された応接間にはシャルとディアナもいる。


「それで? カプディーブとやらのことを詳しく教えてくれ」


「はい、カプディーブは、皇国と聖王国の丁度国境の辺りを拠点にしている賊です。トップの人間は気性が荒いらしく、金目のものを持っているであろう馬車は片っ端から漁り、見た目のいい女子供を連れ去り、自分たちで堪能した後、売りさばきます。本当にクズの集団と言っても過言ではないでしょう」


 なるほどな。しかし、皇族である俺の元にその情報が来ていないということは、いくつか理由が考えられるが……


「その、カプディーブという盗賊団はいつ頃から勢力を伸ばし始めたか知っているか?」


「確か数ヶ月ほど前ですね。私の元に情報が来たのが2ヶ月ほど前ですので、その前から勢力を伸ばしていると考えられます」


 なるほど。それなら、俺たちが遠征中に急に勢力を伸ばしたという線は消えたわけだ。

 他にあるとすれば、こいつらの拠点が皇国と聖王国の間とのことだから、遠い場所の賊の情報なんて必要ないと思われ伝えていないか。

 この程度の勢力の賊は脅威に値しないと思われたのか。

 まぁ、そんなのどうでもいいか。


「そうか。ありがとう。そろそろ査定が終わる頃ではないか?」


「そうですね。しかし、カプディーブを捕らえられたのはいいのですが、肝心の頭がいませんでしたね」


 ――ガタッ


 立ち上がろうと椅子からたったのだが、ヘンデュラーの一言で、勢いよく立ってしまい、椅子が倒れた。


「あれで全員じゃないのか?」


 もしかしてまだ終わってないのか?



 ◇

 side: Leonhardレオンハルト Vonフォン Starkスターク


「帰りはのびのびと馬車を使えるな」


「そうですね。しかし、部下の方々は徒歩で帰られましたよね。馬車で送らなくて良かったのですか?」


 下っ端の奴らが、その場で解散となったので、いくつかの馬車が空き、オレたちは馬車のスペースを広めにとる事ができた。


「あぁ、心配ない。あいつらは見習いみたいなもんだ。今回は視察の際の行動などを身につけさせるために呼んだらしい。だから上に報告なんてできるような立場でもないし、あのまま解散にしたってわけだ」


「そうなのですね。話は変わりますが、囚われていた女性の方々は盗賊達に手を出せれていない様子でしたが、本当に手を出されていないと思いますか?」


 あぁ、その事か。確かに衣類は剥がされて質素な布切れをまとっていたが、誰も手を出された形跡はなかった。


「お前、なにか知ってるか?」


 オレはオレの向かいに座るオレと同じくらいの年の男に話しかける。

 この馬車にはオレとグティ、シルフィードに囚われていたオレと同じくらいの年の男が乗っている。


「あ、いやその……」


「焦る必要は無い。ゆっくりでいい。知っていることを話してくれ」


「は、はい」


 こいつから聞いたことは至極簡単な事だった。

 賊たちは『親分』……まぁ、頭だよな。そいつが、女を味わう前に味見しちゃいけないらしかった。

 もし仮に味見したらバレて殺されるとか。

 その、『親分』とやらは外出中で、盗賊たちが女を味わうまで時間がかかるから、みんなで捕まえた女たちを輪姦まわそうとした時、『親分』が帰ってきた。

 待たされまくった挙句、『親分』のお下がりしか使えない賊たちは頭に来て全員で『親分』に斬りかかった。

 そんで、『親分』を殺したはいいが、自分たちも満身創痍なので、一旦休むことに。

 そんで、そろそろみんなで輪姦まわそうって時にオレたちの馬車を見つけて大多数は外に出ていった。

 そして中に残った者たちで先にやってしまおうかと言う時にオレたちが現れ、なんとかなったらしい。


「英雄だな、こりゃ」


「彼女たちからすれば、私たちは救世主以外の何者でもないですね」


「そうですね」


 そうこうしているうちに城に着いたので、この話は切り上げ、親父に報告しに行くか。


※あとがき

こんにちは。ルーシーです。本当はこの作品をカクヨムコン9に応募予定でしたが、昔の私がMFブックス10周年記念小説コンテストに応募していたらしく、カクヨムコン9に応募出来ないらしいので、そちらの選考が終わり次第、カクヨムコン9に切り替えます。

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