第138話 帰国その2

 side:Ryukhardtリュークハルト vonフォン Arlandoオーランド


「失礼します。ジークハルト殿下、レオンハルト殿下、ラインハルト殿下がお戻りになりました」


 お、ようやくか。


 伝えに来てくれたメイドに一言礼を言って、一緒にいたシャルを連れていく。


「思ったより少しだけ遅かったね」


「まぁ、何かしらトラブルでもあったんだろ」


 今回は趣向を変えて馬に乗りながらレントたちを迎えに行っている。


 最近は普通に馬車に乗ったり空を飛んだりしてて、乗馬をしていなかったからな。


「そういえば、魔王領から帰ってくる時は空間魔法のこと思い出したのに今回はそのままド忘れしたままって言ってたよね」


「あー、まぁな」


 これには深くは無いが、深い理由があるのだ。


「どーして?」


 やはり聞いてくるか……。10日も前のことなんだから今更掘り返さなくてもいいのに。


「シャルと一緒に空の旅をするってことで頭がいっぱいで他のことなんて考えられなかったんだ」


 まぁ、煩悩だな。途中で空間魔法のことは思い出していたが、シャルと一緒にいることが楽しくて、言い出せなかっただけだ。ただ、そんな本音を赤裸々に語るのは恥ずかしいので、暴露はしない。


「そ、そう……」


 自分から聞いてきたのに耳まで赤くして俯いてしまったシャル。そうなるなら最初から聞かなければ良かったのにと思っていると、レントたちが帰ってきた東門へ到着した。


「お、いるじゃん……って、なんか死体引き摺ってね?」


「いや、ちょっと動いてるし、死んでるわけではなさそうだよ」


 そう言って、「ほらっ」と、シャルが指さした方にはぴくぴくと動いてる人の姿があった。


「ちょっと急ごうか。このままじゃ死ぬぞ」


 歩いていた馬を走らせ、レントが乗っているであろう1番豪華な馬車に来た。


「おい、レント! 中にいるんだろ? 馬車に括り付けられている奴らのことを話せ」


 そういうと、馬車の扉が開き、レントだけが出てくる。


「悪い、またせた。馬車に括り付けたヤツらは途中で壊滅させた盗賊だ。ただ、ずっと引き摺って来たから、下手したら死にそうなんだ。アニキの回復魔法で治してくれ」


 何を言い始めるかと思えば、非常に意味のわからないことを言い始めた。盗賊? 死にそう? 俺ならその場で全員殺すぞ。わざわざ連れてきた理由はなんだ?



「なぜ俺がそんなことする必要がある? 今すぐ殺そう」


「いや、奴隷商に売ろうと思ってな、オレたちが世話んなった奴隷商がいるだろ?」


 あー、確かエスカラーボ・ヘンデュラーだったか。


「あいつか。しかし……」


 見た感じ、若いヤツらだけで構成されている訳では無い。むしろ武人としてピークのすぎた30代の人間が多い。年の行った男の奴隷は需要が低く、値段も低い。悪意のあるやつが買えば、簡単に極悪集団が完成されちまう。

 へンデュラーのやつが、変なやつに奴隷を売るとは考えにくいが、何があるか分からないし……。


「多分、リュートくんが心配しているようなことにはならないよ」


「シャル、?」


「どうせ、悪い人が、格安で元盗賊の奴隷を買ったら……なんて考えてるんでしょ?」


 まじか、そこまで読まれるもんなのか?


「ま、まあ」


「盗賊は犯罪奴隷扱いになって、誰かに売られることはないの。売られることは無いっていうのは語弊があるけれど、犯罪奴隷は国や貴族が買って、鉱山に勤めさせるか、雑用を押し付けるかとか、換えの効く肉体労働者として買われるの」


 奴隷だから、どんな扱いをしてもいいしね、とつけ加えて、シャルが説明してくれた。


「なるほど、シャルが言うならそうなのかもな。じゃあ、こいつらを回復するから、縄を解いてくれ」


「おう」


 レントが俺の指示に従い、縄で繋がれていた盗賊たちを解放する。


 俺は開放された盗賊たちの傷を癒し、鳩尾に全力パンチを加え、気を失わさせる。


 全快した盗賊に暴れられても困るからな。


 盗賊たちの回復はものの数分で終わった。


 そして、俺は土魔法を使って、車輪付きの牢獄を用意した。そこに60人程の盗賊をぶち込んだ。


 その間に、聖王国に行っていた使節団のみんなは馬車から降り、下っ端たちはその場で解散、上の人間たちは報告が有るので、城まで行くという形になった。俺は、レントと共に奴隷商に向かおうとしたのだが、レントは婚約者を父上に紹介しなければいけないので、シャルと、帰ってきたディアナを連れて奴隷商に行くことにした。


「ただいまっス殿下、シャーロット様!」


「あぁ、おかえり、護衛ご苦労さん」

「おかえり、ディアナちゃん」


 俺が車輪付きの牢獄を引き、その上にディアナとシャルが座った状態で奴隷商に向かうことにした。


 当然と言うべきか、大人数を収容している檻を引き摺る子供と、檻の上に座って楽しく談笑する少女2人の姿は異質すぎて、周りからめちゃめちゃ視線を集めた。


 だが、そんなん気にしてちゃ皇子なんてやってらんないので、気にせず、奴隷商を目指した。


「すいませーん! ヘンデュラーさんいますかー!!」


 こうして、約3年ぶりに奴隷商へやってきたのだった。

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