第137話 財宝とお仕置き

 ここにある金目のものを全部持って帰ってもオレ達の元に残るのはほんの2.3割程度か?


 賊から回収したものは全部公的機関に渡して持ち主探しをしなきゃいけねぇし、持ち主が見つからなくても役所の奴らが、持ち主が見つかったからなどと回収者に嘘をつき、自分の懐にしまう。

 分かりきっているから渡したくはねぇんだよなぁ。


「これを使いましょう」


「なんだ? それ」


 この宝をどうしようか迷っているとシルフィードが小さい麻袋を出した。


「リュークハルト殿下から頂いたものです。空間魔法系の付与がされていまして、これの見た目以上のモノが入ります」


「はーん」


 アニキが使ってる、あれか。空間が歪んだと思ったらそこから色々取り出すあれを魔道具にしたのか。やるなぁ。


「だが、盗賊退治しましたーつって、じゃあ、そいつらが持っていた金目のものを提出しろと言われたらどうするんだよ」


「少し程度、くれてやりましょう。全体の1割にも満たない量を提出すればいいじゃないですか。そうすれば残りの9割は私たちのものです」


「よし、いい案だ。全部詰めるぞ」


 そして、ひとつの麻袋に大量の財宝を詰め込んた。もしこれを馬車に詰めるのであれば、馬車を3台用意する必要があるだろうな。


「これはどのように山分け致しますか?」


「そうだなぁ、オレとお前、ディアナとグティの4人で山分けでいいだろう。実際戦闘に参加したのはオレたち4人だけだ」


「それだと、第2殿下と第5殿下に怒られませんか?」


「兄貴とライトなら許可してくれるだろうよ。あとは全員で口裏を合わせる必要があるな。とりあえず賊達に、お前らは全く財宝を持っていなかったと言わせる。それだけでいいか」


 よし、じゃあこの部屋に用はないし、戻るか。


 オレたちは、もう用済みになって必要なくなった隠し部屋から出て元の場所へ戻る。


 すると、グティ達に助け出されたであろう6人の人間がいた。


 女が5人に男が1人。女はみんな顔が良く、1人を除いてスタイルもいい。男の方もかなりの美形。だがオレと同じくらいの子供だ。顔が良いから奴隷落ちさせられそうになったんだろうな。


 大丈夫だ、これから盗賊の方が奴隷になるから。


「これで全員か?」


「はい、そのようです」


 グティは囚われの身となっていた人達に他に人がいないか聞いてくれていたらしい。流石だな。


 それなのに助けてもらったヤツらの半分はグティに良くない感情を持っているようだな。


 まぁまだ聖王国内だし、アルビノであるグティに差別意識を持っているやつがいても何ら不思議はないのだが、助けて貰っておいて、それは違うんじゃないか?


「そうか。ありがとう、助かったぞ」


 オレはそう言ってグティの頭を撫でる。


 すると耳まで赤くして俯いてしまった。

 まぁ、本国では差別を受けてこいつの親父も影て甘やかすことは出来ても大々的に愛することは出来なかっただろうし、褒められることに慣れていないのだろう。

 これからは存分に甘やかしてやろう。ただ、精神年齢が高そうだから喜ぶかどうかわからんが。


「よしっ、行くぞー」


「あっ」


 グティを撫でる手を止めると物足りなさそうな声上げた。よし、聞こえなかった事にしよう。


 ◇


 ってことで、兄貴達がいるところまで戻ってきたのだが、囚われた人達こいつらが乗れるほど馬車に余りが無ぇ。


「すまないが、みんなギリギリまでぎゅうぎゅうになって貰えないだろうか! 帰ったら必ず詫びる! 」


 アニキみたいに拡声魔法なんて使えねぇから、でかい声を出す。


 とりあえず、アニキとアル、シャーロット嬢がいないからその分の空きがあるし、今まで余裕を持って座っていた役人達に少し余裕がなるなるだけだ。そんで、空いた馬車にこいつらを入れるだけ。



「っし、ただいまー」


 そしてオレたちは、元々オレたちが乗っていた馬車に戻る。


「おかえり、レント。問題はなかったかい?」


「あぁ、ただ、かなり財宝があったんだが……」


「それは、戦った4人で山分けすると良いよ。ボクたちは守ってもらった立場だからね」


 兄貴の言葉にライトも頷く。


「あぁ、ありがとう」



「グティさん、お顔が赤いようですけど、体調でも崩しました?」


「エリザベスさん……。大丈夫です。ご心配をおかけしてごめんなさい」


「ふんっ、別に心配なんてしてないから良いけれど」


 ハーゾッグ嬢は聖王国の人間なのにグティに対して差別意識が無いようだ。まぁ、こいつは人間を能力で見てそうだしな。


「じゃあ、出発するが、多分、引き摺られる賊達が騒ぐかもしれないが、気にしないでくれ」


「もし騒いだらレントがなんとかしてくれるんだろう?」


「まぁ、あまりにもうるさければ」


 そういうと、兄貴は満足したように微笑んだ。


 ◇

 ――30分後


「いでぇぇぇ!」

「止めてくれぇ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「あ、あ、あ、死ぬ」


「うるせぇな」


「行くっスか?」


 馬車が動き出したくらいからうるさかったが、今はさらにうるさくなりやがった。


「あぁ」


 ――ガチャ


「すまない、止めてくれ」


 馬車のドアを少し開けて御者に言うと馬車が止まる。オレたちが最前を走っているので、後方車両も止まり始め、引き摺られていた賊たちは静かになった。


「よし、行くぞ」


「はいっス」


 そう言って再びドアを開けて外に出る。


「じゃあオレはこっちから行く」


「それじゃあワタシはあっちからッスね」


 オレはそのまま進み、ディアナは右側に回り込み進み始める。


「この縄を早く解いてくれ!」

「やっと解放する気になったか!」

「早く解放してくれ!」


 オレたちの顔を見た賊達は解放してくれると勘違いして、早く解放しろと要求する。


「あぁ、辛そうだから現実から解放してやる、よッ」


 そう言って1人の鳩尾を全力で殴る。


「オゴッ」


 そいつは嘔吐し、気を失う。ディアナと合わせてこれをあと60人分やるのはめんどくさいが、快適に帰るためには必要なことだ。


「アガッ」

「ウッ」

「ひぃぃ、助けッ――」


「ふぅ、終わったか。早く戻るぞ」


「はいっス」


 そうして戻ったは良いものの、その後定期的に賊達に《お仕置き》をするはめになった。


 だが、3日もすれば、満身創痍になって死にかけの奴らは声を上げる気力も無くなり、静かに引きずられてくれた。



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