第134話 ド忘れってあるよね


「それじゃあ、俺は父上に話さなきゃいけないことあるから行くけど、2人はどーする?」


 例のごとく、正面から帰ってきた俺らは顔パスで城内に入った。


「我は戻るぞ。王の元へ行ってもやることなど無いのでな」


「私はリュートくんに着いてくよ」


 戻ると言ったアルは、自分の住処に戻るのではなく、アルに与えられた城内の部屋のひとつに戻るという意味だ。シャルはまぁ、付いてくるだろうな。


「そっか。ヴォルはどうする?」


「キュゥン」


 ヴォルはアルの上に乗りながら頭をバシバシと叩いている。おそらくアルに付いていくという意思表明だろう。アルの部屋にはヴォルの兄弟もいるしな。


「そっか。じゃあまた後でな」


「うむ」


 突き当たりを俺たちは右へ、アルたちは左へ行く。


「というか、お義父様に話すことって何かあるっけ?」


「いや、結構あるじゃん」


 父上の執務室へ向かう途中にシャルが言い出す。


「え? たとえば?」


「今回、聖王国の保管庫に忍び込み、神器を奪ったのは王国の仕業、ジークとレントに公爵令嬢の婚約者ができた、とかな」


「あぁ、なるほど。そういのも報告しなきゃいけないんだ」


「まぁ、放っておいても、勝手に情報が耳に入るだろけど、早めに知っておくことに悪いことはない。後、馬車を改造したことも伝えなきゃいけないしね」


「へぇー」と、少し興味無さそうに返事するシャルに「じゃあなんで付いて来たねん」という厳しめのツッコミはしないでおく。


 そうこうしているうちに父上の執務室へやってきた。


 ――コンコン


「リュークハルトです」


「入れ」


「失礼します」


 ――ガチャ


「余が想定していたよりも遅い帰りだったが、なにかトラブルでもあったのか? それにスーナーの娘も一緒であったか」


 想定より遅い? どれだけ早く帰ることを想定してたんだよ。父上に一瞬気にかけられたシャルは軽く会釈をした。


「いえ、特にトラブルなどは」


「そうか。それで、アポ無しで訪問したからには何かしら良い報告があるのだろうな」


「えぇ、まあ」


 なんか、すごい嫌味な言い方だなぁ。確かにアポ無しなのは悪かったけどさ、そこまで言うことじゃ無いよね。


「では申せ」


「はい、えっとまず、レントとジークに聖王国で婚約者が出来ました。両方とも公爵令嬢です。ちなみに2人とも連れて帰ってくる予定ですので、パーティーは豪勢にした方がいいかと」


 まぁ、まずはインパクトがでかいやつから。


「そうか。他はあるのか?」


 父上は書類に目を通しながら耳だけこちらに傾けている様子だ。


「聖王国の神器を奪ったのは王国である可能性が高いことが判明しました。また、聖王国の上層部に王国からの間者がいると考え、釘も刺しておきました」


「ふむ。では王国の方はひとまず放置で良いか。その間に国力をあげるとしよう。他にはあるか?」


「大きなところはもうないですかね……。あ、聖王国の特産物であるゴーレムの作り方を教わったので、改造してより強いゴーレムを作りました」


 あ。やべ。これは言わない方が良かったやつか?


「ほう? それは一度この国に戻り鍛治工房に入り浸っていた事と関係するか?」


 ほーら、やらかしたーー! 絶対に怒られるやん! どこの関所も通らず、門も通らず、城に入ったら怒られるよ。


「は、はい。申し訳ございません」


「ふむ。まぁ、その顔を見るに反省はしているようだな。次は容赦しない」


 書類を見ながらちらりとこちらを見て言う父上。ひぃ、怖い怖い。


「は、はい!」


「まあ、このくらいにしておくか。とりあえず、聖王国との繋がりも強くなったようだし、あとは本当に国力をあげることに尽力できそうであるな」


「あ、あの~」


「なんだ、まだなにかあるのか?」


 なんか綺麗に〆ようとしていたので、声をかけてしまった。


「行きに馬車を改造してしまって。とりあえずこのことだけは報告しておきます」


「………」


「………?」


 え? なんも言わないの? 無視?


「……、はっはっはっ、そのような些細なことも報告するか! そもそも余が最初に言ったことを思い出してみよ」


「最初に言ったこと……?」


 え、なんて言ってたっけ。「入れ」は最初すぎるか。あれ? 緊張しすぎて覚えてねぇよ!


「想定より遅い帰り、ですね」


「あ」


 そんなこと言ってたな。確かに。あぁ、言ってたわ! なんで想定より遅いとか言ったんだ?


「お義父様は、リュートくんが馬車を改造するのを想定していたんじゃない?」


「リュートよ、お主よりスーナーの娘の方が頭がキレるのではないか?」


 父上はそう言って笑う。


「そうかもしれないですね。でも、馬車を改造したことを予想したからって想定より遅いは言い過ぎじゃないですか」


「言いすぎでは無い。リュートよ、お前は何で帰ってきた?」


「え、普通に空飛んで帰ってきましたけど」


 何言ってんだ? この人。空飛ぶのが最速だろ。


「それが最速の手段だったのか?」


 いや、それ以外何があるねん。


「最速、では無いですね」


「え、シャル?」


「はぁ。お主はどうやって鍛治工房へ行ったのだ」


「どうって、転移……あ」


「ほら~」

「はぁ」


 シャルからなんで気づかないのよー、と言わんばかりの「ほら~」を貰い、父上からは呆れの「はぁ」を貰った。


「いや、普通に忘れてました。次からは気をつけます」


「別に責めている訳では無い。こうして早く戻ってくれただけでも余としては楽になる。余裕を持ってパーティーの準備ができるのでな。ただまぁ、早ければ早いほど、助かるという話だ。気にするな」


「は、はい!」


 その後聖王国であったことを色々話し、執務室を退出した。


 それこらレントたちが帰ってきたのは10日後の話だった。それも聖王国を出発した時よりもはるかに人数を多くして。

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