第132話 以心伝心


「うちのゴーレムの勝ちでいいか?」


「あ、あぁ。我らの負けだ」


 ミリティアはあっさりと負けを認めた。


 じゃあ俺がやることはひとつだな。


「ここに王国からの間者がいるのはわかっているッ! 名乗り出ろ、とは言わない。素早くこのことを自分の上司に伝えるといい。帝国には手を出さない方が良いと、な。あぁ、あと聖王国に次手を出したらどうなるか分からないとも伝えておくといい」


 それだけ言ってゴーレム改1号くんに近寄る。


「よくやった。期待以上の成績だ。これからは、より強くなれ」


 そう言ってゴーレム改1号の腰あたりをバシバシと叩く。


『御意』


 それだけ思念が伝わると俺はゴーレム改を異空間収納へしまった。


 実際、戦っていくうちにかなり動きが良くなっていた。俺やレントと模擬戦をすればその動きを吸収しながらも滑らかな動きになるだろう。これは楽しみすぎる。


「リュークハルト殿、感謝する」


 部下達に壊れたゴーレムを片付けをさせているミリティアがこちらへやってきた。


「なんのことだ?」


 俺はとぼけながらニヤリと笑う。


「わかっているだろうに。まぁ感謝は伝えた。それでは」


「あぁ」


 そう言ってミリティアは俺に背を向け会場を去る。


「ねね、リュートくん、どういうこと? なんでリュートくんが感謝されるの?」


「ああ、それはな」


 俺はなぜミリティアが俺に感謝をしたのかシャルに教えた。


 まずミリティアとしては王国に舐められたままでは終われない。そのためには俺たち帝国の力が必要不可欠。そんなことは俺からすれば知ったこっちゃないが、俺はゴーレム改1号の強さを見せつけ抑止力としたかった。

 しかし、切り出し方がなかった。そこへミリティアからゴーレム同士の戦いを申し込まれた。おそらくミリティア自信勝てれば、帝国に勝った、負ければおそらく俺が庇う、と言ったようにどちらに転んでもどうにかなるという考えに至り俺にゴーレム同士の戦いを申し込んだ。


 それを察した俺は全力で叩き潰させた。それだけで俺たちが脅威だということが王国からの間者に伝わる。そして帝国、そして聖王国に手を出すとその牙がお前らに向くよ、と丁寧に教えたことで、王国はそう易々と聖王国に手を出せなくなった。


 事前の打ち合わせなしでここまで理解し合えた俺たちの勝利といったところか。と、言うわけでなぜミリティアから感謝されたのかをシャルに懇切丁寧に教えた。



「ふーん」


「どうしたんだ?」


「リュートくんと、あの人は事前の打ち合わせなしで通じあってたんだ?」


 ああ、嫉妬してるのか?


「醜いことで嫉妬するのはやめんか。あれくらい分かるものには分かる」


 呆れたように横から口を入れてきたのはアル。


「で、でも」


「やかましい。こいつの妻として生きるならでかい器量を持て」


「そ、そうよね、こんなことでいちいち心配してたらリュートくんに迷惑かけちゃうわね」


「うむ。分かればいいのじゃ。して、リュークハルトよ、この手柄を兄弟にやるのではなかったか?」


「あぁ」


 いや、忘れてたわけじゃないよ? 言うタイミングがなかっただけ。そう。忘れてたわけじゃない。


『えぇ、聖王国の皆さん。改めてましてリュークハルトです。今回ゴーレムを作りました。元々作るつもりはなかったんですけど、我が弟であるラインハルトからゴーレムについて助言を頂いたので、作った次第です』


 うん、前半部分以外ぜーんぶ嘘。俺は拡声魔法を使って演説を始める。

 これでライトを支持する人が増えれば良い。ここでライトの支持を得て、同じことを帝国でもやって、帝国でもライトの指示得る。


『こちらをご覧ください』


 俺は異空間収納にしまったゴーレム改1号を再び取り出す。


『こいつは一体のゴーレムではありません。約30体のゴーレムが集合したゴーレムの集合体です』


 うーん、いまいちピント来ていないらしい。


『ここも一体のゴーレム、ここもここも。全ての部位が一体のゴーレムとなっています。そんで、ここが核。魔石はエンペラーウルフを使っていて、ほかのところにはウルフの上位種の魔石を使っています』


 みんなの反応は………。あれ? 理解されてないぞ。


「そ、その~、胸部の核となるゴーレムを上位種としてほかのゴーレムを統率している、ゴーレムの群れ、という理解でよろしかったでしょうか?」


『そう! あってます! ゴーレムの群れを形成し、核となるキングが指示を出し、ほかの部位がノータイムで遂行し始める。群れとして成長し続けるので、今後はもっと強くなります。あぁ、王国からの間者の方、こいつもっと強くなるからね。そこもよろしく』


 いや~、理解してくれてそれを説明してくれる人がいて助かった。


『他になにかある人はいますか?』


 そうすると何人かが手を上げる。


『えっと、じゃあ、あなた』


 俺はいちばん近くにいた老人を指す。


「このゴーレムの魔法陣を教えていただくことは可能ですかな?」

『無理です。次』


 食い気味で答えてしまった。


「卑怯だぞ! 我々はゴーレムの作り方を教えてやったのに」

「礼儀も知らんのか」

「我々がゴーレムの作り方を教えてらやなければ作れなかったと言うのに」


『あ~不満の声が上がってますね。そもそもゴーレム自体この国の特産物みたいなもので、聖王国のものとして知られていますが、ゴーレムの作り方を知っている人は別に他のところにもいます。別にここで聞かなくても他のところで聞けば教えてくれる人だっていますよね。でも俺の作ったゴーレムは違う。俺しか知らないし、俺以外には作れないほど難しい。教えたところでこの国の技師が作れるとも思えないし、他国に流出するのは避けたい。そこまで考えて発言しろ』


「……」

「……」


 あ、やべ。つい、やっちまった。


「リュートくん、言い過ぎ」


「わかってるって。何も考えないやつが多いから、つい」


「つい、じゃない! お義父様に言うからね!」


「はい……」


 あぁ。帰ったらO・HA・NA・SHIが待ってるのか。


『ほかの質問は受け付けません。次からは有料でーす』


 それだけ言って俺はシャルとともに会場を後にした。アル達はまだパーティーを楽しむらしい。

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