第128話 婚約者~ジークの場合~

 side:Ryukhardtリュークハルト vonフォン Arlandoオーランド


 うん、レントの方は上手くいってるみたいだね。


「レオンハルト様の方は順調そうね」


「あぁ」


「リュートくんが言っていた、公爵令嬢と仲良くなれたみたいで安心だねっ」


「そうだね。でも問題は……」


 そう言いながら俺はジークの方を見る。


「ジークハルト様……って、リュートくん! 何あれ!」


 ジークの方を見ると、子息達は散り、令嬢達がまさか列を成してジークと一対一で話している。握手会とかみたいに時間を設けているらしく、時間になるとシルフィードが間に入っている。


「あれはなんというか……、合理的なのか?」


 確かにあれなら争いは起きにくいだろうし、内気な子もちゃんと話せる機会があるし、いい案なのかもしれない。


 ◇


 side:Sieghardtジークハルト vonフォン Starkスターク


 もう!なんでみんなボクを置いていくんだ!


 リュートはシャーロット嬢とイチャイチャしてるし、ライトもエレオノーラ嬢とよろしくやってるし!

 レントに至ってはナンパしてるじゃん! 「オレは護衛だから」とか言ってたクセに!そうやってその他大勢のあまり魅力を感じない子達を全員こっちに押し付けやがって!


「え、えーと、ちょっといいかな?」


 ボクが声を発すると、頑張って自分を売っていた子達が静かになる。


「ボクは一応婚約者を探しに来たんだけど――」


「――それなら私が!」

「いや、わたしが!」


「あぁ! もう! うるさいよ! 今はボクが喋ってますよね? 君たちはボクより偉いんですか? 偉くないですよね。えぇ。最後まで人の話を聞いてください」


 つい、怒鳴って本音が漏れてしまった。そして、また静かになる。レントもリュートもライトもこちらを気にしている素振りはない。


「はぁ。最初からそれをやってください。いいですか? こうやって全員が話しかけてきてもボクは誰一人の声も聞き取れません。いいですか? まずはあなた」


 ボクはそう言って目の前のいた女性を指さす。


「次はあなた。次は……いや、めんどくさいので、各自で1列に並んでもらってもいいですか? あぁ、ボクは心が広い方が好みです。あと男性の方は遠慮して欲しいですね。一応婚約者を探しに来ているので」


 そういうと男の子達は散り、女の子たちは並び出す。ボクが「心が広い人が好み」と言ったからか、みんな前を譲り始める。うんうん、やればできるじゃないですか。


 ……というか、ボクが指名した人以外並んでいない、というか前を譲りすぎて3人目以降は譲り合っている状態。ここまでするのも考えものですがね。


「あら? 譲り合っているなら私が入るわ? いいでしょう?」


 3人目を譲り合っていると間から1人割り込んできた。譲り合っていた数人は何も言えなくなり結局4人目以降は適当に並んだっぽい。


「では君からですね」


「は、はい!」


 正直興味無いし、こんなめんどくさい事に脳のリソースを割くのはもったいないですね……。リュートに教えてもらった並列思考で有意義なことを考えつつ、前の女の子の話を聞いている振りをしておく。まぁ、一応家名は聞いておいて、爵位とその家の情報を脳の引き出しから引っ張り出す。パーティーの前にフェメニーナ姉様に聞いておいて良かった。ちなみにシルフィードさんには時間が来たら間に入ってもらうようにしている。


 時間が来て強制的に離された子達はまた列の最後尾に並んでいる。


「初めまして。ジークハルト殿下? わたくし、三公がひとつハーゾッグ公爵家が長女エリザベス・フォン・ハーゾッグと申しますわ。親しい者からはリズと呼ばれていますわ」


 本命のご登場、ですね。エリザベスさんはボクよりひとつ上の8歳にして起業しかなり稼いでいるらしい。その才を帝国のために使って欲しいものです。そう思ったボクは並列思考を止め、エリザベスさんの声に耳を傾ける。


 エリザベスさん……ハーゾッグ嬢は金髪縦ロールのいかにもお嬢様といった容姿。その綺麗な青の瞳とおっとりした目からは想像できないほど厳しいと噂だ。しかし、その才能は本物。


「初めまして、ハーゾッグ嬢。この度はお会いできて光栄です。よろしければこの後お時間頂けますか?」


「ふふっ、構いませんわ?」


「キィィ! 結局家柄なの!?」

「顔よ、顔!」

「まぁ、わかってはいたけれどね。才色兼備のお姫様が選ばれるのは必然よ。私たちはそこそこいい家のそこそこいい顔の男が限度だわ」


「ありがとうございます。しかし、一応彼女らの対応を1周しなければならないので、少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」


「ええ、構わないわ。でもやるべく早くしてちょうだい?」


 ちょっと気の強い女の子は苦手だなぁと思いつつ、了承する。こういう他人を寄せ付けないような気の強い人が自分にだけ見せる甘い表情などを見るのが好きなんですよね。

 さて、どのようにして手懐けましょうか。


 並列思考でそんなことを考えながら他の令嬢たちの相手をしていると、20分程度で全員分回ったので、近くにいたハーゾッグ嬢に向き直る。


「おまたせ致しました」


「ふんっ、遅いわね」


「申し訳ございません。これでもあなたの事を思い他の方たちと話す時間を少なくしたのですが……」


「ま、まぁ? 今回は良いけれど。とりあえず父上の所へ案内するわ」


 あぁ、そういえばこの国の習慣で女性は婚約者を決めたらすぐに父親の元へ連れていくみたいなものがあったなと思い出す。

 怖い方じゃなければいいけどなぁ、なんて思いなが、ボクはハーゾッグ嬢に手を引かれ、ハーゾッグ公爵の元へ向かった。

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