第126話 人は見かけによらない


 ――聖都宮殿


「あれれ。もう暗いじゃん」


 宮殿に転移してきた俺の第一声はこれだ。俺用に割り当てられた客間に戻ってきたのだが、窓から見える外はとても暗かった。まぁ当然だろう。何せ8時間弱もゴーレム制作していたのだから。お昼とかは親方が適当に持ってきてくれたパンを食べていたし、お腹がすいたとかは特にない。


「おいアニキ、おせーぞ」


 気配でわかったのか、レントがすぐに俺の部屋までやってきた。


「ごめんごめん。それで、パーティーは?」


「まだ始まってないが、そろそろ始まるぞ」


 聞けば、俺待ちらしかった。普通に申し訳ない。


「正装には……着替えてるな。俺も着替えなきゃ」


 俺は宮廷魔法師団の制服に着替え、ローブを羽織る。もちろん、普通の正装も持ってきてはいるが、今回の俺は主役ではない。護衛としてやってきているのだ。よって、俺の服装はすぐに戦闘できるものが求められる。

 実際、レントも宮廷魔法師団の青ベースの制服に、第10魔法師団長ツェーンの色であるオレンジ色のローブを羽織っているが、絶妙に似合っていない。


「それじゃあ、会場まで案内してくれ」


「おう」


 俺たちは客間から出てパーティーの会場を目指す。


 目指すとは言ったものの、この宮殿内にあるし、1階にある客間から階段を上がった2階に会場があるらしい。


 ……のだが、それっぽい扉を見つけたのにレントはそこには行かず、違う部屋に入っていった。


 そこにはライト、ジーク、シャル、エレオノーラ、ディアナ、シルフィード、アルにヴォルがいた。


「遅かったですね、兄さん」

「随分と時間がかかったようですね」

「もう! リュートくん遅い!」

「……」

「ようやくッスか」

「お疲れ様です」

「遅いでは無いか。まぁ、構わんが」

「キュウン!」


 みんながみんな声をかけてくれる。


「それで、何をしていたんですか? リュート」


「ちょっと、本格的にゴーレムを作っていてな」


「ま、またウチと戦うなんてことは……?」


「まだやらせねぇよ。まだまだ発展途上だからな」


、ッスか」


 まぁ、実際ゴーレムの動きが良くなったら手加減して貰ってディアナとやらせるつもりではあった。


「あぁ。さっき完成したばかりだからな。動きがまだぎこちない」


「兄さんの口ぶりからすると、ゴーレムは成長するんですか?」


「するわけなからう。あれはプログラム設定された動きに従って動くだけじゃ。我も昨日簡易なゴーレムを作ったのじゃが、魔法陣の内容的に成長することは無いのじゃ。しかし……彼奴ならそんな常識吹っ飛ばしてすごいことをしてくれると思うがの」


「まあ、リュートですしね。平気や顔してボク達の常識を壊しますよ」


 いや、別にそんなつもりはないんだけどね。ただ、発想力の勝利みたいなもんなんだよなぁ。


「そんで?わざわざ今日一日だけで急いで仕上げたってことはお披露目でもするのか?」


 こういう時鋭いのはレントだ。よく人を観察しているし、そういうので、察しが良くなったりするのだろう。


「まあね。ミリティアと約束もしてるしな」


「約束? 我がいた時はしていなかったじゃろう?」


「あの後作ったゴーレムを見せて欲しいって言われてな。帝国の凄さを見せるためにもパーティーでドカンとやるともアリかなと」


「ま、良いんじゃねーの?アニキだけじゃなくてジークの兄貴とライトの株も上がるようにした方がいいと思うぜ」


 どこまで周りに配慮するんだ、こいつ。そんなキャラだったっけ? 人は見かけによらないな。


「あぁ。ライトとジークの案だとか言っとけばなんとかなるだろ」


 この功績を全てジークとライトに渡してしまうという作戦だ。


「でもリュートの功績を貰う訳には……」


「いいんだよ。これは俺のためにもなる。これをお披露目して俺の功績にでもなったら俺を皇帝に、という声が上がる。お前達は俺のために、俺はお前たちのために、持ちつ持たれつ、だ」


「そうですか。ではここはリュートに頼りましょうか」


「そうですね、頼みます兄さん」


「おう」


 ここはレントに救われた形になった。


「そんじゃ行こうぜ、アニキ。この国の貴族とその子供たちはもう会場で待っているぞ」


 ――ドン!


「リュート達! 行くわよ!」


 そろそろ行こうかと思っていたところにフェメニーナがどデカい音を立ててドアを開けた。


「ちょっとニーナ、はしたないよ」


「アウナくん遅い!」


「ニーナが速いだけだよ。それよりリュートくん戻ってきてくれたみたいだね」


 俺が外出するのをアウスナット様も知っていたのだが、俺は直で客間に転移してきてしまったから、宮殿内ではまだ俺は帰ってきてないと思われているだろう。


「ごめんなさい、門から入ればよかったですね」


「いーよいーよ、宮殿内の者には僕から言って置いたから」


 うん、普通に申し訳ない。ちゃんと正面から入れば良かった。てか、そもそも出る時も通ってないプラマイゼロじゃね?


「そうですか。お手数お掛けしました。次からは気を付けます」


「うん。それじゃあ行こうか」


 アウスナット様、フェメニーナを先頭に俺たちは部屋を出て会場へ向かう。向かうとは言ってももう目と鼻の先だが。


「俺たちが最初に入ります。こういうのは偉い人が最後って決まっているので」


 もしここが帝国だったらアウスナット様たちを前に行かせたが、ここは聖王国。この場においては聖王国側の人間の方が位が高いと俺は思っている。


「そうかい? それじゃあお言葉に甘えて」


 アウスナット様が道の端に捌け、俺とシャルを先頭にレント、シルフィード、ディアナ、エレオノーラ、ジークにライト、アルとその上にヴォルという布陣で入る。その後ろにはアウスナット様とフェメニーナ義姉ねえ様。


「開けるよ」


「うん!」


 謁見とは違い、いつも誰かが控えている訳では無いので、俺とシャルで両開きのドアを押してあげる。


 ――ギィィィィ


 その瞬間、ザワザワしていた会場が一瞬で静かになった。


※あとがき

こんにちは。本当はこれを昨日投稿する予定でしたが、予約投稿ができていなくて投稿出来ませんでした。ごめんなさい。

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