第123話 やっぱり市場は良いよね
「進捗は?」
「完璧です。という昨日到着後すぐに行った段階で大体のことは掴めていましたよ」
「そうか」
そう言いながら俺は朝食を食べる。昨日、ゴーレムをディアナが粉々にして以降、聖王国の兵士の方たちと稽古をしていたのだが、やはり実力的には帝国よりも下であった。軍の人数も帝国に遠く及ばないのだが、懐柔しておくに越したことはない。
俺が恐れるのは皇国と結託して帝国に攻め入るとか、連合王国又は王国、もしくはその両方と同盟を結び帝国を挟み撃ちにするとか。その場合は皇国に救援を要請するが、最悪の場合はその全てが重なった時。つまり皇国と聖王国、連合王国に王国が帝国を敵にした場合。全力で戦えば負けないことも無いかもしれないが、たとえそうであっても戦いたくはない。
皇国とは友好的な関係ではあるが、絶対ではないので、可能性はひとつでも消しておきたいのだ。
「兄さんの方はどうですか?」
「ぼちぼちと言ったところだな。明日の夜に俺たちの歓迎とお前たちの嫁探しのためのパーティーがあるのだか聞いているか?」
「えぇ、まあ」
「ていうか、それって絶対ではないよね。良い人がいなかったら残念って感じでもいいんでしょ?」
どうやらライトとジークにも話は行っているようだった。ジークに至っては最初から乗り気では無いらしい。
「まぁ別にいいと思うぞ、父上もこの国のトップである聖王陛下も自由恋愛を推奨しているしな」
もしここで婚約者を見つけられなければ、皇国なり連合王国なりから縁談の話が来るだろうな。
「まぁ、ぼちぼち探してみますけどね。と、言うかリュートはボクたちを出汁に何を得たのですか?」
あー、それ聞いちゃう?
「まぁ、それは明日のパーティーの時に披露する。……あぁ、俺は明日は一日中外出する予定があるからそのつもりで頼む」
親方からゴーレムのパーツを受け取ったあとはそれを組みたててゴーレムにしなきゃいけないからな。
「まぁ、わかりました。ボクたちもやらなければいけないことは終わっていますし、今日も保管庫に足を運びますが、消化試合みたいなモノです」
消化試合て。大まかな調査を終え、この後は詳細を詰めるだけらしいのだが、その後にまた調査書なり報告書なりを書かなきゃいけないらしいから今日は早めに切り上げてそういうのを書くらしい。いやー、偉いね。
「リュートくん、今日はやることないの?」
「あぁ。……街に出て買い物でもするか」
何かを求めるような表情をしていたので、まぁ消去法的に買い物に行きたかったのだろう。俺は空気を読める男なのだ。
「うん! じゃあ食べ終わったら早速行こ!」
「ああ」
◇
――聖都城下町
「……なんというか、こういうところはどこも変わらないんだな」
「もう!そういうこと思っても言わないの!」
前言撤回。俺は空気を読めない男です。たしかに思っても言っちゃいけないよな。
「ごめんなさい。まぁまずは市場にでも行こうか」
「うん!」
市場は安いものが多い。品が悪いとかじゃなくて趣味で物を作ってる人とか駆け出しの商人が物を売っていたり、駆け出しの鍛冶師とかが自分の商品を売っていたりする。
こういうところに掘り出し物が多いのだ。人も物も。現にインジナーという優秀な錬金術師兼鍛冶師を迎えることが出来たわけだし。
「ふぅーん、まあまあだな」
俺は鑑定を発動させながらシャルと歩く。鑑定は本当に優秀で物の品質とかを調べることも出来るのだ。ランクはF~S。やはりと言うべきか何を鑑定してもランクの基準は同じらしい。Cランクのものが多いし、駆け出しの者が多いので、B.Aランク相当の物は全然ない、というかゼロ。
――チリン、チリン
「――ッ」
「どうしたの?」
今のは、風鈴……?
完全に季節外れだが、難易度の高いガラス細工を扱うやつがいるのか?
「少し見たいものがある。いいか?」
「うん、良いよ!」
シャルの許可が降りたので音がした方へ急ぐ。
そして、そこには
――チリン、チリン、チリン、チリン
大量の風鈴があった。風鈴と言えば夏の風物詩だ。それにこんなに量があるということはこの世界の人間はこれの素晴らしさを理解しないのか?
「店主、この品はご自身で作られたのか?」
風鈴を売っているであろう店の店主、細身で長身の若い青年に話しかける。
「いえ、これは和の国から取り寄せたものになりますね」
彼から詳しい話を聞くと、店主の実家はかなりの豪商らしく、父が和の国に行った際、この風鈴――この世界でも風鈴と呼ぶらしい――に惹かれ、大量に購入したはいいが、この世界の多くの人はこの品に興味を示さないんだとか。
うん、風鈴て中国発祥じゃなかったっけ?絶対初代勇者の仕業だよな。ちなみに和の国では一家にひとつは風鈴を持っているらしい。いい機会なので、ありったけの品を買い取った。今度いつ手に入るか分からないからね。
その後はシャルの欲しいものを買ったりして一日が過ぎだ。
◇
――翌朝
「親方ぁ~!取りに来た!」
翌朝、聖王国で朝食を食べた俺はすぐに親方の元へ訪れたのだった。
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