第122話 ゴーレムと閃き


「ではまずゴーレム、……いや、ゴーレム擬きだったか?あれの動力源は魔石だ」


「うん、まぁ、そうだろうな」


 実際、予想していたことだ。魔法で動かしていないのであれば、魔道具かそれに似たなにかか。


「……。知っていたのか?」


「いや?なんとなく予想していただけだ。さぁ、続きを教えてくれ」


「ま、まぁいいが。ゴーレムの骨格は土魔法使いが作ったものだ。無論、鉄やその他の金属を加工し、作っても問題ない。そして、ゴーレムの核となる部分、まぁ頭部や胸部と言ったところに、魔法陣を描き、魔石を埋め込む。たったこれだけだ」


「なるほど、じゃあその魔法陣というのを教えて貰えるんだよな?」


 それがなきゃ何も出来ないしな。


「あぁ。これだ」


 そう言って、ミリティアは尻ポケットから1枚の紙を出して俺に手渡す。


 ふーん、7層設計の魔法陣か。帝国では国に使える魔道具士のほとんどが6層設計までの魔法陣しか作れないことを考えると普通に難易度の高い付与魔法って事か。


 なんで俺が魔法陣に関して詳しいかって?付与魔法を扱うに当たって、魔法陣のことは一通り頭に叩き込んでいる。まぁ、文字型付与魔法の方が扱いやすいから魔法陣の出番はないが。


 それに……へぇ、そう言う仕組みね。物質の魔物化。つまりゴーレムの骨格となる金属や土を魔物化し、意思を持たせる。無論、制御するためのコマンドも設定されているが、その発想はなかった。


「ちなみに、ゴーレム一体の戦力はどれくらいなんだ?」


「そうだな……、あそこに訓練しているものたちが居るだろう?あいつら10人でかかってもゴーレムに勝てるか勝てないか、くらいだな」


「なるほど」


 つまり一体で人間10人分前後の働きをしてくれるって事か。


 それに見たところこのゴーレムは近接戦だけでなく、ある程度の魔法を扱えるらしい。ねこだまし程度であるが、火球ファイアボールを出したり、その他諸々付与できるっぽい。


「ふむ、たしかにこの程度のものであれば、下手なゴーレムを作るより戦力になるのぅ」


「だよなぁ。んーーーー」


 アルの考えに賛同しつつ、ゴーレムの強化方法を考える。このゴーレムの耐久力とかは骨格になる物質によって大きく変化されそうだな。例えば、鉄なんかよりミスリルとかの方が魔道率が高いし、軽いからゴーレムの動き自体早くなりそうだし、普通に強くなりそう。


 それに注目すべきは、やはり、魔物化というもの。


「……あ」


「なんじゃ、なにか思いついたのかの?」

「どうしたの?リュートくん」


「あー、いや。ちょっと待ってくれ」


 それだけ言って、俺は異空間収納から紙とペンを出す。そして土魔法でその場に机を作り出す。


 ――シュッ、シュッ、


 紙に設計図のようなものを描き始めた俺の周りをシャルたちが囲み、覗き見する。


「これは……なに?」

「人型なのは間違いないのう」

「なにかの設計図ッスか?」


 ものの数分で描き終えた俺は机を崩し、元に戻し、ペンを仕舞い、紙を手に持つ。


「5分……いや、10分で帰る」


 そう言って俺は転移を発動した。


 ◇

 ――帝城内にある鍛治工房


「親方ぁぁぁ!」


「うるせぇええ!聞こえてるわァ!誰だァァ!」


 大声で親方を呼ぶと怒りを露にした親方がズカズカと俺の方へ歩み寄る。


「俺だよ、俺」


「わ、若ぁ!?なんでまたこんな所に。聖王国まで行ったんじゃ?」


「用があって帰ってきた」


 そう、俺が来たのは帝都の城内にある鍛治工房。


「用だァ?そんな重要なものなのか?」


「あぁ、これを見てくれ」


 そう言って俺は先程描いた紙を出す。


「これは……、人型のなんだ?」


「俺はこの形をしたゴーレムを作りたい」


「……、ゴーレムって、聖王国にあるあれか?」


「多分そう」


 鍛冶師の間では有名なのか、親方はゴーレム擬きのことを知っていた。


「それにしても、なんだこりゃあ」


 親方が見ているのは人の絵ではない。簡単なフィギュアを解体したような絵を見せている。

 要は、頭、胸部、肩から肘までのパーツを左右、肘から手首までのパーツを左右、手のひらと指のパーツを左右、腰から足の付け根までのパーツ、腿から膝までのパーツを左右、膝から足先までのパーツを左右。その全てを球体関節にしている。


 手の指は付け根と関節2つ分も作ると面倒なので、指の付け根と真ん中辺りにひとつ関節をつけている。つまり、32個のパーツに別れた人型人形だ。


「この丸いのは球体関節と言って……」


 そう言いながら俺は見やすい氷魔法で球体関節の素晴らしさを説明した。


「なるほど……。それでこれを?どうするんだ?」


「これをミスリルで作って欲しい」


 現状、俺が使える最上級の金属はミスリルだ。


「……期限は?」


「明後日の朝!」


 怪訝そうに見る親方を正面に俺は満面の笑みで答える。狼狽えたら負けだ。


「……大きさは?」


「だいたい170cmくらい!」


 うん、ここは元気よく答える方がいいだろう。


「……まぁ、できなくはないが……」


 よし。言質取りました。


「――ありがとう!それじゃあ!」


 ◇

 ――聖都宮殿の訓練場


 食い気味に返事して、速攻で帰ってきた。


「お、随分の早かったのう」


「あぁ。親方に骨格部分のお願いをしていた」


「こ、骨格部分て、あんなに関節を作っているとゴーレムが体を動かすことにリソースを割きすぎて戦力になどならんぞ!」


 まぁ、そうだろうね。


「まぁ、見てなって。この国のゴーレムなんかより全然すごいものを見せてあげるから」


 それだけ言ってこの件の話題を切る。


「さ、それよりみんなでゴーレム作ってみようよ」


「うちには魔法の才能はないっス」


「ディアナには特別な役割がある」


「な、なんスか!?」


 うん、その期待した目やめて?


「俺たちが作ったゴーレムと戦って、レビューを聞きたい」


「分かったッス!」


 うん、いい子だ。






 ◇


 ――数時間後


「ご、ごめんなさいっス」


 俺、アル、シャルが作ったゴーレムを粉々にしたディアナが謝る。まぁ今回作ったのはゴーレム作りを体験するためにものすごく簡略化されたゴーレムだったし、手加減してても粉々になるのは仕方ない。


 それよりもゴーレムの作り方のイメージができただけで俺的には御の字だった。

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