第118話 変わらぬ姉


「それじゃあ、まずは保管庫に案内してもらつてもよろしいでしょうか」


 俺たち乗組員は馬車から降りてそのまま案内人について行く。御者たちは馬車を仕舞いに行った。そしてライトはそのまま神器が盗まれた保管庫への案内を急かす。


「かしこまりました。っと、その前に。私はセドリックと申します。なにか分からないことがあれば、なんなりと私へお申し付けください」


 当然ライトたちと来ているので、俺も保管庫に行くのだが、老執事が自身の名をセドリックと名乗る。


「セドリックさん。そういえばお名前を聞いていなかったですね。それじゃあ改めて保管庫への案内お願いしま―」


「リューーーーートーーー!」


 ライトが改めてセドリックにお願いをしていると遠くから声が聞こえた。


「またですか」

「はぁ。またかよ」

「姉貴のお気に入りだもんなアニキ」

「ブラコンな義姉ねえさんですから……」


 そんなことを俺たちが言っていると、どんどんと足音がでかくなってくる。


「みんなーー!会いたかったよぉーー!!」


 そう言って俺たち4人を一気に抱きしめるフェメニーナ義姉ねえさん。


「お久しぶりです。義姉ねえさん。しかし、次期聖母候補がこんなところで何をしているんですか?」


 開口一番、おそらく1番殺傷能力の高いであろう言葉を投げかける。


「リュ、リュートまでそんなこと言うの!?」


「どうせ、勉強とかサボってここに来たんでしょ?」


「うっ」


 図星なのか、義姉ねえさんは声を漏らす。


「それに、今回俺は護衛としてやってきました。今回の主役はライト達です。絡むならあちらにしてください」


「そうなの!?」


「はい。俺は俺でやること終わって着いてきてるだけです」


「知ってるか?アニキのやつ、魔王ボコボコにして帰ってきたらしいぜ?」


「え!?ほんとに!?」


 まぁ、ここまで情報がまだ回ってきていないだけだろうな。


「まぁね。これなら王国との戦争に終止符を打つ予定」


「へぇ、それはすごい。ようやく帝国も本気を出すのかい?」


 ひょいっ、と義姉ねえさんの背中から現れたのはアウスナットさん。


「お久しぶりです。アウスナットさん」


「うん、久しぶりリュートくん。聞いたよ、帝国の闘技大会で優勝したんだって?いやぁ、レントくんとの決勝戦、見たかったなぁ!」


「やめてくれ……。あん時は力の差を見せつけられた」




「到着しましたよ」


 そんなこんなで、足をとめず、口も止めずにいると、保管庫に着いたらしい。場所的には宮殿の地下にある。そして俺たちが地下を進み、突き当たりに保管庫の入口がある。


「……魔法班、形跡は?」


 今回はライトが指揮を執るらしく、魔法の研究者に声をかける。すると、そのものらは懐から何かを出し……


「ありますね……。殺意の籠った魔力の残滓がありますよ」


 彼らが使っているのは魔道具。俺が作ったものではなく、大昔からある物。いわゆるロストテクノロジーってやつ。


「そうですか……。セドリックさん、事件の後ここで魔法を使いましたか?」


「使っておりませぬ。この事件が起こった時、この場所は完全に警備されておりました。激しい戦闘音を聞き、駆けつけると壊れた保管庫と警らの死体が……」


「そうですか……。小国がそれ相応の戦力を確保できるとも思いませんし、どこかの大国の線が濃厚ですね……。魔力の残滓があるという事は獣王国の可能性はなしでいいでしょう。やはり王国の可能性が捨てきれません」


 頑張って考察するライトだが、獣王国を除外するのはナンセンスと言ったところ。傭兵なりなんなりを雇えば、魔力の残滓くらい残せるし、魔法を使いない獣人をまっさきに除外させる罠の可能性も捨てていることになる。それから王国は最近怪しい動きをしている。ライトもそのことを知っているのか、やはり王国を睨んでいるようだ。


「仮に王国が黒幕だったとしたら今国に戻っている最中か、到着したかくらいでしょうか」


「既に到着しているだろうな。今回の俺たちの行軍は遅すぎた。全員が馬に跨り無理のない程度に頑張れり、魔法で馬疲れを癒せば1ヶ月かからないんじゃないか?できるよな?アニキ」


 横からジークとレントも話に加わるが、何故か俺にもとばっちりが来る。


「出来るだろうな。ただの回復魔法士を数人連れるたけで、行軍スピードは格段に上がる」


「いやはや、すぐに王国が黒幕だとたどり着くねぇ、リュートくん。僕達も最近王国が黒幕なんじゃないかと思い始めてね」


「俺たちは最近、王国の動きが怪しいという情報を持っていたので。必然的に王国が怪しいと思っちゃうんですよ」


「なるほどねぇ。それより、そろそろお昼ご飯にしないかい?魔法の解析などは後でできるだろう?帝国から遥々来てもらってもてなしもしないのは嫌だからね」


 その言葉を受け、俺はライトを見る。ライトはどうすればいいか助けを求める目をしているが俺は2歩ほど下がり、回答権が俺にないことを示すと、ゆっくりもライトが口を開く。


「それでは、お言葉に甘えましょうか。まずはご飯を食べ、それから色々と動きましょう。セドリックさん、お願いします」


「はい!」

「かしこまりました」


 着いてきた者たちはライトの言葉に返事をし、セドリックも了承してくれた。


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