第117話 到着
「やっと、ちゃんとした都市に行けるね~!」
そう呟いたのはシャル。確かに、皇国を通った時は端っこの方を通ったので、特別なもてなしを受けることも無く、軽くお忍び状態だったので、その街の領主などから接待を受けるなんてこともなかった。
「そうだな。これまで頑張った分、聖都では沢山もてなされると思うぞ」
「ほんと?やったぁ~」
生来の貴族。それも公爵生まれ。この質素すぎる生活が続く旅に少し耐えられないのだろう。とても喜んでいる。
今回同行している文官や考古学者、魔法の研究者なども貴族出身の者が多いため、とても喜んでいる。
ところで、何故か考古学者がいるのかって?俺知らん。今回の目的は聖都にある神器が何者かによって盗まれたのでその調査。たったそれだけなのに、何故か考古学者たちは着いてくるなんて言い始めたので、同行させた。おそらく、色々と歴史的な建物などが多い聖王国に来たかっただけだろう。
魔法の研究者が来ている理由は、今回神器が盗まれた際、魔法を使った形跡があるかないかとか、あるならどんな魔法を使ったとか調べるために同行しているらしい。
「全く。人間は脆弱じゃな」
「お前は今まで野生のドラゴンとして生きてたからだろ。大きな家があり、美味しい食事が出て、ふかふかのベッドで寝るのが普通の貴族にはキツい旅なんだよ。まぁ、流石にこれは失望レベルで脆弱だが」
「そうであるな」
そんなことをアルと話していると、聖都が見えてくる。高さ10mくらいにいる俺達から見てようやく見えるような位置にあるので、下にいる人たちには多分まだ見えないだろう。あと10kmくらい先かな。まぁ今日中には着くだろう。
◇
――1時間後
「意外と早かったな」
聖都が見えた御者たちは喜んで一気に馬のスピードをあげた。まぁ、馬に余力があったし、あと4~5km位のところでやり始めたので、咎めることはしなかった。
そして現在は門の行列に並んでいる。
俺とアル、ヴォル、シルフィードにディアナは下に降り、馬車の上に乗っている。飛んだままだとなんか言われそうだし、馬車の中に乗るのもめんどくさいので、とりあえず馬車のうえにのったのだ。
そして待つこと数十分。ようやく俺たちの番がやってきた。ちなみに、俺たちは1番前の馬車の上に乗っているので、一番最初に入場できる。
「上に乗ってる方たちは……護衛ですね。馬車の中を確認させてください」
「はい」
門番の言葉に答える御者。そして門番の横には石で出来た兵がある。これはゴーレムか?動く気配はないが、魔力を感じる。おそらく何かあればこいつを起動させ、応戦するのだろう。
――コンコンコン、ガチャ
「あ、こんにちは~」
門番はそのままドアを開け、中を確認する。まぁ中には人しか居ないが。
「はい、大丈夫です。ようこそ、聖都へ!」
ちゃんと許可を貰えた俺たちはそのまま中へ入っていく。俺たちが目指すは門を入って目の前の通りにある宮殿。
宮殿までは一本道で、行けるのでそのまま前へ進む。……色々な人に見られているな。
「王の住処まで一直線とは、いささか不用心ではありませんか?」
「まぁ、この形にはメリットもデメリットもあるな」
シルフィードが漏らした言葉に反応する。
「メリット?そんなものがあるのですか?」
「あぁ。シルフィードが言ってるのはもし敵が攻めてきたら一直線で進むから逃げるまで時間稼ぎができないと言うことだろ?」
「はい」
「逆も然りだ。一直線なら、王は迷うことなく逃げることができる。まぁ、バレたら終わりだが」
俺的には入り組んだ構造の方がいいと思っている。しかしそのためには王は常日頃から城下に足を運び地形を理解する必要がある。
「確かに……。入口にいたゴーレムのようなものを使用すれば、王の生存率は高まりそうですね」
王が門を出てすぐ、ゴーレムを起動させ、門の前に立たせればそれなりに時間を稼ぐことができそうだ。まぁ、ゴーレムの力量にもよるが。
「人間は不便じゃな。空を飛べば簡単に行くと言うのに。全く……」
「俺やお前のように飛べるやつが少ないから、飛ぶことのアドバンテージがデカくなるんだ。ほんとは箒だってほかの師団にあげたくなかったよ。俺のアイデンティティが失われちゃうじゃないか」
「お主のその人間くさいところ嫌いじゃないぞ」
「そりゃどーも」
実際、我が国の魔法士達が空を飛べる魔道具を使用し始めたとなると、他国から売ってくれなど、沢山言われるのだ。俺はそれがめんどくさいので、父上にお願いしてそれ系の注文は受けないようにしてもらっている。
「……」
「なんでこんな街ゆく人達が俺たちを見るんだよ」
「馬車があるのに上に乗ってるいる者が珍しいからじゃろうな」
…………。
「確かに。でもまぁ――」
俺は後ろを振り返る
「――あと少しで宮殿だし、後続も着いてきているし、もういいや」
「で、あるな」
そうして俺は少し恥ずかしい思いをしながら、「早く宮殿に着いてくれ!」と思っているとようやく宮殿にたどり着いた。
「お早い到着ですね。スターク帝国のみなさまですか?」
俺たちの前に現れたのはかなり年の行った執事。
「「「「………」」」」
――スタッ、ダダダダダダ
俺たちの後ろにある馬車からライト、ジーク、レントが現れて急いで走ってくる。
「申し遅れました。スターク帝国第2皇子ジークハルト・フォン・スタークです」
「第4皇子兼護衛レオンハルト以下同文」
「第5皇子ラインハルト・フォン・スタークです。敬語なのはデフォルトです」
次々に自己紹介していった3人。
「ジークハルト様にレオンハルト様、ラインハルト様ですな」
「はい。あとリュート、挨拶しないのかい?」
今回は護衛としてあとから着いてきたので名乗るつもりはなかったが、ジークに言われたらやるしかない。
「リュークハルト・フォン・オーランドだ。元第3皇子だが、今は独立して辺境伯位を陛下より賜っている。今回は俺を無視してこいつら3人とやってくれ」
馬車からおり、軽く自己紹介してからまた馬車の上に戻る。
「あなたがリュークハルト様でしたか……かしこまりました。それではようこそ、ビブリア聖王国へ!」
そうして歓迎された俺たちは宮殿内へ入っていった。
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