第116話 アルの知識

 軽く買い物などを済ました俺たちは馬が休む厩舎のようなものがあるので、そこへ戻ってきた。


「馬の調子は?」


「りょ、良好です」


「そうか。馬たちはお前らにとって、相棒なんだろう?次からは変なことをするなよ」


「は、はい!」


 厩舎に戻ってきて、速攻で御者達に釘を刺す。


「それじゃあ行こうか」


 馬車の準備が出来、全員が乗ることができたのでそのまま出発する。ちなみに時間に遅れた者はいなかった。これは大変喜ばしいことだが、ここらで1人2人犠牲になってもらって、遅れたらほんとに置いて行くことを思い知らせたかったが、遅れる者が居ないに越したことはない。


 ◇


 その後は何事もなく、シズン小国を抜け、無事にツワイトまでやってきた。まぁ、ここがゴールなんじゃなくて、通過点なんだが。


「多分、ツワイトに入ったな」


「ほんと?でもここからが長いよねぇ」


「そうだな」


「しかし、なぜ人間は友誼を結んでいる国に行くのでさえ、わざわざ相手に許可をとるのじゃ?」


 シャルとツワイトに入ったことの話をしていると、横からアルがやってきた。その頭には未だにヴォルが乗っている。


「友誼を結んでいるとはいえ、元は敵同士だったんだ。その国の皇族が色々引き連れて自国にやってきたなら、相手は警戒するし、ちゃんともてなさなきゃいけない。その準備を相手にさせるためにも事前に知らせておく必要があるんだ」


 まぁ、簡単に言えば、そちらの国を通りつけたいです、軍事的圧力をかけるつもりはないですが、戦う準備をしておいても大丈夫ですよ、と言った感じで相手が受け取るとする。国単位で用意された軍隊に小隊規模の、それも戦いの心得の無いものたち多数で勝てるわけが無い。友好国であっても警戒はしておいて下さいねと言った意味で、相手に許可を貰うのだ。

 本当にめんどくさい。


「人間とはめんどくさいものだな」


「お前たちドラゴンのように個の力でなんとかする種族じゃないんだ。集まって集団の力で何かを成す種族故の特徴だな」


「お主のような例外もいるが、な」


 それを言われてしまったら何も言えない。しかも、俺は今、人族じゃないしな。


「まぁ、国を興し、それを支えることは大変なんだ。特に皇帝なんかはな。だから俺は皇帝になりたくないんだよ」


「で、あるな。お主は皇帝と言う動けない立場になるより、ある程度動けて色々なことに融通が効く高い立場の人間になるべきじゃな」


「わかってる。父上も俺もそのことは良く理解しているから、俺は今辺境伯の地位についているんだ」


 将来は辺境を護りながら国からの依頼を受け、各地に飛び回るようなことになりそうだ。そのためには早くシャルとの子供を作り、鍛え、辺境を任せられるくらいにはしたいと思っている。


「そのためには強い赤ちゃんを産まなきゃね!」


「お主らの子供なら強い子が出来上がりそうであるな」


 シャルがフンスッと言った感じで意気込むとアルが横から言う。


「そうなんですか?」


「あぁ。もちろんとも。まずはお主、その魔力量と魔力の質はおそらく最上級のものであろう。お主が飼っている精霊王もその影響で今までの精霊王の強さとは一線を画しているのじゃ」


 お主と言いながら俺を指さし、説明するアル。


「へぇ。そんなすごいんだ。俺」


「あぁ。次にお主じゃ。魔力の質、量共にリュークハルトには及ばぬが人族としては最上位のものじゃ。魔法使いとしての練度もなかなかじゃな。そういったわけで、お主らが子作りする頃には2人ともい感じに育つ故、子供も質のいい者が生まれるじゃろうな」


 次はシャルの説明をするアル。


「へぇ、なるほどね」


 そして、アルの説明からわかる通り子供には親の魔力の質や量によって色々と影響されやすく、親が魔法使いなら魔法使いの素質を持った子供が産まれるとか。そしてアルの言っていた魔力の質。これは鍛えることが出来るので、同じ2人の子供でも若い頃に作った子供と数年後にでき、自身の魔力の質と量が鍛えられた頃に作った子供とでは大きく才能が異なるとか。


 父上や母上は昔は魔法使いとして活躍していたので、ライトやジーク、レントまで魔法の才能がある。アル曰く俺の場合は突然変異なんだとか。前にアイが、リュークハルトの魂と霧島瑠人の魂の融合によって何かが起きたと言っていた。


 ◇


 そんなことを話しながらその後は半月もかからないくらい、10日ほどでビブリアまで到着した。ちなみに、道中で、馬専用の疲れを軽減させる魔道具を馬に付けさせ、少しスピードをあげた状態でビブリアまで急いだため、予定より大幅に早く到着できた。


 道中何も無かったかと聞かれれば、ハイとは答えられない。途中、盗賊にあったり、街道沿いにある森の奥に賊たちのアジトらしきものを見つけたりしたら捕まえて全員の首を落とし、金品を奪い、近くの街にて、そいつらの首を差し出せば、指名手配犯だったりして小遣い稼ぎをしていた。魔物などはあまり現れなかった。出てきてもウルフ系の魔物で、護衛の騎士団に任せていた。


『えー、一応ビブリアに入りました。ここから聖都まであと少しです。頑張りましょう』


 拡声魔法で下の者たちに聞こえるよう、言う。すると、何故か歓声が上がる。多分馬車の旅で疲れたんだろうな。結構ケツ痛くなるし。


 そんなことを思いながら俺たちは聖都―ビブリア聖王国の首都―へ向かったのだった。

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