第115話 小国での出来事
「そろそろ帝国領から出るぞ」
「そうだね」
俺が片手に持った地図をシャルが一緒に覗き込む。
帝国領から出たと言ってもすぐにツワイト皇国に入る訳では無い。この世界にはスターク、ツワイト、タイシェン、ラステン、獣王国、ビブリアに大エルフ国の7大国がある。大国があれば当然小国もあるわけで。
小国は全て、どこかの大国に属している。そろそろ帝国領から出ると言うことは次に通る小国はツワイトに属する小国というわけだ。
今回通るのはシズン小国。小国の中でも上位の国だ。武力、国力、人口、面積。どれをとっても小国の中ではピカイチ。それでも大国には及ばないのだが。
今回シズン小国を横断するにあたって、ツワイト側には既に許可は得ている。ちなみに、シズン小国は東西に100km、南北に500kmくらいの国だ。ツワイトとスタークに挟まれている。東西に100km程だが、いちばん狭い距離の日本海側から太平洋側までの距離が100km位だった記憶がある。
「シズン小国にはなにか特産品みたいなのはあるの?」
「シズン小国はダンジョンを中心に広がった村が街になり国となった国だ。ダンジョンに生息する魔物の素材などが多いな」
「へぇ、魔物の素材ね。リュートくんが好きそうなものばかりだね」
「まぁな。でも今回は俺が主役の旅じゃないからな。帰ってから転移でここに来るよ」
この国には他にもミノタウロスのダンジョンというものがあり、ミノタウロスをボスとした牛系の魔物が多く住まうダンジョンがある。ここの牛肉は絶品らしいので、今度来た時はがっぽり貰って帰るとしよう。
「そっか~その時私も連れてきてね」
買い物だけすると思っているシャルは連れてきて欲しいと言うが、ダンジョンにも行くと言ったらどうするのだろうか?
「ここのダンジョンにも興味があるのだが、それでもいいか?」
「うん、いいよ。私自身戦う力を手に入れつつあるけど、何かあればリュートくんが助けてくれるでしょ?」
「まあな」
どうやらシャルの方が1枚上手だったらしい。完全に読まれていた。
「すいませーん!」
そんなこんなでシズン小国を横断中、3つ目の街の手前で、下の方から声が聞こえた。ちなみに1つ目2つ目の街は完全にスルーした。
仕方が無いので、1度下に降りる。
声の主は行軍に着いてきている御者で、こちらに相談があるとの事だ。
「実は……」
御者曰く、荷が軽くなり、馬も御者も少し調子に乗って、速度を上げすぎたところ、馬が疲れてしまい、少し休憩が欲しいそうだ。
全く、この国で休憩をとるつもりは無かったのだが、どの馬も疲れているのを見ると、少し休憩が必要なのかもしれない。
「それじゃあ、次の街で数時間ほど休憩をとりましょう。乗組員達は自由時間で。あんたたち御者組は馬の世話だ。なぜだかわかるよな?分からないなら教えてやるが……」
「い、いえ!承知しました!」
「まぁいい。とりあえず、お前らは意識が低すぎる。次からは出てきた魔物等は全て護衛のものたちに回すものとする」
そう、今回、道中でであった魔物や賊の類は俺とアルで片付けていた。時々レントが力を貸してくれたりしたが、基本的に護衛達の出番はなかった。そのせいで討伐がスムーズに行き過ぎて、馬車のスピードを緩める必要もなく、進んだため、かなりスピードが上がったのだ。
そしてようやく街につき、馬を預けられる場所にやってきた。
「みんな、ここはまだシズン小国だ。御者達がへましたせいで、一旦ここで休憩をとる。各々好きなように行動してくれ。宿をとって数時間寝ていてもいい。期限は夕焼けになる前。遅れたものは置いていくものとする。また御者リーダーには伝えたが、お前たちはここに居残って、馬の世話だ」
「やっと休憩かぁ」
「ようやくだな!」
「なんで俺たちまで馬の世話を!?」
俺の言葉に馬車に乗ってた組は休憩に喜び、御者組は不満の声を漏らす。
「貴様らの怠慢、意識の低さが招いた事態だ。休憩がないのは当たり前だろう?文句あるのか?」
そう言いながら御者組に睨みをきかす。
「な、ないです」
「そう。それじゃあ、シャル行こうか」
静かになった御者組を尻目にシャルと買い物をすることにする。
◇
「ほんとに良かったの?」
「何が?」
「御者さんたちのこと」
この街の市場を見ているとシャルがそんなことを言う。多分、御者達も息抜きが必要なんじゃないかという意図を持ってのとこだろう。
「いいんだよ。これくらいしなきゃ次も同じことするだろうからね。あっ、おじさん串焼き2本ください」
「あいよ!銅貨1枚ね!」
「はい」
串焼き2本で銅貨1枚は普通に安い。ダンジョンが沢山あるので肉の供給が間に合っているのか。その分他の物価が高いなんてこともあるが、肉系が安いなら十分だろ。
「ん、美味いな」
「美味しいね!」
ただ、塩を振っただけの串焼きだが、普通に美味しい。やはり魔物の肉は前世の肉と比べて美味いのだ。魔物の肉の美味しさが普通に感じるであろうシャルも美味しいと言っていることからここの肉はうまいことがわかる。
「って、あれライトじゃね?」
俺たちの目の前には市場にて、髪飾りをエレオノーラにつけているライトの姿があった。
「イチャイチャしてるね~」
「そうだな。シャルも何かいるか?」
「いいの?」
そう言ってパァっと笑うシャル。
「あぁいいぞ」
「やった!行こ行こ!」
そのまま俺の腕を掴んで装飾品があるゾーンへ俺を引っ張る。そこでは俺もシャルに髪飾りを買ってあげた。
その後は色々と回ったが、そろそろ時間ということで俺たちは馬が休んでいるところへ戻ったのだった。
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