第112話 もうひとつの旅立ち


「『っしゃァァァ!成功だァァァァ!』」


 ちっ、イフリートのやつ被せやがって。


 ――ジュゥゥ


 そんなことを思っていると、ディアナに殴られたところが炎で覆われていく。


 数秒もすると、空いた穴は塞がり、元どうりになった。なったのだが


「くっ、なんだこれ……」


 この技、恐ろしく燃費が悪い。オレの魔力量が少ないからかもしれないが、もう疲れた。


『安心するがいい』


 イフリートがそういうと魔力が回復してくる感じがする。


『なんだよこれ、魔力が回復するぞ』


『同化である。空気中の魔素を効率よく体内に還元することで魔力が回復するのだ』


 精霊って便利な種族だな。ちなみにあとから聞いた話だが、アニキは同化を使えるらしい。やっぱり、腹立つな。


 そんなことを考えていると、ライトとジークの兄貴が来た時のことを思い出す。


「そういえばあんたら何やってたんだ?なんでここに来たんだよ」


 精霊憑依を解除し、ふたりに問う。


「何って、これを見てください」


 そう言ってライトが指をさした先にはデカ目の木箱があった。


「そんなんあるの知ってるよ、あれの中身が気になったんだよ」


「あれば普通の毒薬草と麻痺毒の草ですね」


「はぁ?毒薬草?なんでそんなもん持ってるんだよ」


 いや、ほんとに意味わかんねぇぞ。毒草なんて城内に持ち込むもんじゃねって。


「もちろん、免疫強化のためです。あぁ、飲む時は薄めて飲んでますよ。死んでしまいますから」


 ライトが爆弾を投下する。


「「なっ……」」


 その場にいたライトとジーク以外の全員が驚きの声を漏らす。


「そのことは親父は知ってるのかよ!?」


「えぇ、父上から許可は頂きましたよ」


 まじか。そんなん全然しらなかった。


「ってか、なんで親父は許可しだんだよ!?」


「……知らないんですか?ベルン義兄にい様が殺された時、毒を使われた形跡があったんです。だから、僕達は毒を使われても支障が無いよう、こうして免疫を鍛えているんですよ」


 まさかの事だ。ベルンの兄貴に毒を使った形跡があるのすら知らなかった。兄貴が交戦した際、敵の賊を数人殺めたことは知っているが、それでも力及ばず殺された、としか聞いていない。


「そうだったのかよ……。そのことアニキは?」


「兄さんは知らないはずです。あぁ、ベルン義兄にい様に毒が使われた形跡があるのは知っていると思いますが、僕たちがこんこと始めたのは最近ですから」


 これまた初耳。アニキは毒のこと知っていたのか。


「なら、オレも――」

「無理です。ボク達はいま、水と毒1:1の割合で飲んでます。レントが飲める濃度ではないです。1から自分でやってください。あぁ、10倍希釈でもボクらは1度死にかけました」


 オレの言葉を遮り、ジークの兄貴は言葉を続け、そのまま去る。


「……知ってたか?アイツらがあんなことしてるの」


「いえ」

「初耳っス」


 だよなぁ。アニキも知らないらしいし。でもアニキがこのことを知れば自分もやるとか言い出しそうだよなぁ。


 そんな、悶々とした一日を過ごし、オレは考えることを放棄し、静かに眠ることにした。


 ◇

 ――翌朝


「寝みぃ」


「そんなこと言ってないで、早く行きますよ」


 翌早朝、オレはライト達に連れられて東門へやってきていた。ビブリア聖王国はツワイト皇国のさらに東にある国だ。


 ツワイトの東にはエルフたちが住まう妖精の森があるのだが、極限まで迂回して森を避けるようにしてビブリアへ向かう。馬車での行軍になるが、下手すれば1ヶ月を超える行軍になるそうだ。


 前に姉貴がスタークに帰ってきた時は特級馬というものを使い、出来るだけ早く移動していたらしいので数週間で移動していたらしいが、今回は馬車を使い、大人数の行軍になるのでそれなりの時間がかかるのだ。


「ライト様、寂しくなりますわ。お早いお戻りをお待ちしております」


「あぁ、なるべく早く帰れるように頑張るから待っててね」


 そう言ってライトとエレオノーラ嬢がハグをする。


 けっ、イチャイチャしやがって。帰ってきてからたっぷりと愛を育みやがれ。


「行くぞ、ライト」


 少し頭に来たオレはライトを呼び、行動を急かす。


「うん。それじゃあ、待っててねエレン」


「はいっ」


 エレオノーラ嬢の頭を撫でてからオレたちの元へやってくるライト。


「お熱いことで」

「婚約者がいるのはいいですね。ボクも早く見つけなければ」


「ふふっ、さぁ行きましょう。多くの方を待たせています」


「ああ」

「そうですね」


 ライトの言葉に返事をし、既に準備を終えている者たちのところへ急ぐ。



「悪い、またせた」

「「お待たせしました」」


 オレたちの声が重なる。


「いえいえ、たった今来たばかりです。それより、向かいましょうか」


 そう言ってオレたちを先導するのはシュヴァルツ公爵家当主サマなんだとか。


 たしかアニキがシュヴァルツのとこの一人息子と友達になったとか話していたな。まぁ、オレたちと面識はないが、一応挨拶だけはしておくか。


「レオンハルト・フォン・スタークだ。このふたりの護衛を任されている」


 オレはそう言いながら兄貴とライトの肩を叩く。


「ジークハルト・フォン・スタークです。この話し方はデフォルトですのでお気になさらず。父上からは見聞を広めよと言われています」


「ラインハルト・フォン・スタークです。兄さんほど優秀ではありませんが、精一杯頑張るつもりです。よろしくお願いします」


 ……なんというか性格が出る挨拶だな。まあいいけど。


「それじゃあ行くか!」


 ◇


 ――3日後


「アニキのやつは上手くやってるか?」


「リュートのことですし、上手くやっているでしょう」


「なんからもう城に帰っていそうです」


 オレたちは馬車に揺られながらそんなことを話していた。すると


 ――ガン!


 馬車が急に止まり、オレたちは座っていながらバランスを崩す。


「ちっ、なんだよ!とりあえずオレは外を見てくる」




「なっ」


 一人馬車を降りたオレは前を見るなり驚きの声を上げた。


「オークの群れ……とアニキ!?」


※あとがき

更新遅れました。ごめんなさい。近況ノート更新しました。

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