第7章 聖王国編
第111話 精霊憑依・炎
side: Leonhard Von Stark
アニキが魔国へ向かったであろう時から数時間後。俺たちの生活に変化はない。正確には何時間だったのか知らない。起きたら既にアニキはいないし、シャル嬢は既に城にいて、ヴォルとあそんでいたのだ。
アニキがいないのにシャル嬢は城へやってきて、お留守番役のヴォルとシンシアの面倒を見てくれている。
「アニキがいる訳でもないのになんで、ここまでしてくれるんだ?アニキにお願いされたわけでもないだろ?」
現在進行形で目の前でシンシアと遊んでいるシャル嬢に問う。
「そうですね、彼はあまり多くを私に要求しません。心のどこかにある要求も口に出していないはずです。おそらく遠慮しているのでしょう。私はそういうのを察して、行動するべきなのです」
「なんというか、ちゃんとアニキのこと考えてんだな。こう、、婚約者って感じで、心と心が通じあってる感じ?まぁ、なんかあれば言ってくれ、ライトでもいいし、ジークの兄貴でもいい。誰でも相談に乗ってくれるはずだ」
自分でも何を言っているか分からないがアニキとこいつにはそのようなものを感じる。
「ふふっ、ありがとうございます。ですが、やりたくてやっていることですので、お気になさらず。でも……何かあれば、頼りにするかもしれませんね。その時はお願い致します」
そう言ってシャル嬢はオレに頭を下げる。そういうのをして欲しかった訳じゃないんだけどなぁ。
「頭をあげてくれ。あんたに頭を下げさせたなんてアニキに知られれば、殺されちまう」
「ふふっ、それもそうですね」
そう言って再びシンシアの世話を開始したシャル嬢を一瞥し、オレは訓練場へ行く。
「来い、イフリート」
「ようやくか、主よ」
イフリートを呼ぶと、やっと呼んでくれた?、みたいな感じを出しながら登場した。
「いや、うん。別に呼ぶ前に出てきてくれても良かったんだが」
「そうはいかんのだ!演出と言うのは重要でな?……まぁ、その辺は精霊王の契約者に聞くがいい。あの方は演出をきちんと理解しているからな」
すげぇな、アニキ。イフリートに気に入られてるよ。って違う違う。
「お前を呼び出したのはちゃんと理由があるんだ、聞いてくれ」
「お?急に真剣な顔して、どうしたのだ主よ。話などいくらでも聞くぞ」
「そうか。なら話は早い。精霊憑依の強化を行いたい」
「……なに?」
驚くのも当然だろう。今回、オレがやりたいのは精霊憑依の少し進化したバージョン。まぁ、精霊憑依・改とでもな名付けるか。
アニキがよく図書館に向かうので、オレも最近、図書館に行ってみた。読む本は剣術に関する書物のみ。しかし、興味本位で見た精霊に関する書物にオレが知らない精霊憑依があったのだ。
精霊憑依とは名前通り、契約者に精霊が憑依するというものだ。この時の戦力は契約者+精霊よりも大きくると言う。つまり、1+1=2ではなく1+1=3にも4にもなるということ、らしい。このことをアニキに聞いた時は本気でぶん殴ろうとした。1+1=2だろ。何がどうなれば3にも4にもなるんだ。
しかし、まぁ。言いたいことはわかる。合体することによって個の力同士が融合して+αで何かしら良い現象が起こり、強くなる。そういうことなのだろう。
アニキいわく、精霊憑依にも相性というのがあるらしく、もしもオレが水の大精霊なんかと契約していれば、多分相性が良くなかったらしい。逆に、イフリートとは最高の相性らしく、先程の+αの値がでかいのだとか。
まぁ、ここまでが精霊憑依の前提。今回オレが目指すのはそのさらに上だ。
精霊憑依・改は図書館の書物に書いてあっただけで、実際に使えるのかすら怪しい。だが、書いてあったということは何かしら
精霊憑依・改の説明をすると、まず、身体が実体ではなくなる。より精霊に近づき、半精神生命体のような感じになるそうだ。つまり、魔力を伴わない物理攻撃が無効になるということ。
人の身でその域まで達して良いものか気になるが、やれるのならやってみたい。
その旨を全てイフリートに話す。
「……たしかに我と主の相性の良さなら可能であろうが……その技は身体に負担がかかる故あまりやりたくない」
イフリートの口調的に精霊憑依・改は存在するらしいし、やったことあるっぽいぞ。
「その口ぶりからすると、精霊憑依・改は存在するんだな?アニキに追いつくためだ。力を貸して欲しい」
オレはそう言いながら頭を下げる。
「あ、頭を下げるでない!やろう!やろうではないか、精霊憑依・改!」
「っし!」
喜んだのも束の間。精霊憑依・改、鬼ムズい。
「失敗すると身体にかかる負担はすごいことになるであろう」イフリートからの忠告を受けていたのだが、構わず進めた結果、オレの身体はボロボロだ。
「はぁ、はぁ。む、難しくないか?」
「我と主の心が通じあっていれば簡単なのだがなぁ。主、何を考え、この技を完成させようとしている?」
「あ?んなもん、アニキに勝つためだよ」
「我も同じだ。なぜだ?」
「……ていうか、お前精霊憑依・改やったことあるのかよ」
オレは1番の疑問をぶつけてやった。
「………」
「沈黙は肯定と捉えるぞ」
「わ、我は聞いたことしかないのだ。前の前の精霊王様がやったことがあるらしく、周知させていたのだ。我はその話を聞いただけで……」
なるほど、知識はあるが、やり方が分からないのか。
「じゃあ、方向性を変えよう。2人ともアニキのことを思っても成功しなかった。じゃあ、他の人を考えるなり、やり方を変えよう」
「わ、分かった」
つっても、どーするか。何が同じ目標を設定するか?ほかの者を目標にするなり、ある一定のラインを目標にするなり……。
「よし、お前は打倒精霊王、オレは打倒アニキを掲げてみようか」
「それだと2人の意思はバラバラなのではないか?」
「それもそうだが、……」
「リュートと精霊王が合体した、リュート精霊王精霊憑依バージョンで考えてみればいいじゃないか」
「兄貴!」
後ろから声がしたと思えば、ジークの兄貴とライトが後ろにたっていた。その後ろにはディアナとシルフィードが控えていた。
「む、いい案だな」
「よし、それじゃあ、やるぞ、イフリート!」
「おう!」
「「精霊憑依!」」
いや、お前は言わんでええねん。しかし、次の瞬間、イフリートとの精霊憑依の感覚になる。
「……いつもと変わらねぇじゃねえか。なんだこれ」
オレは手を握ったり、開いたりして確認する。
『主よ、目をつぶりイメージせよ。我と主が彼奴らに勝つ姿を』
イフリートの言葉でオレは目をつぶる。オレたちが勝つ姿。あのアニキたちに。
――ブワァァァン
「なっ、」
「これは……!」
「なんという魔力」
「すごいッス!」
4人の声が聞こえたと思い目を変えると目の前には炎が立ち上っていた。
「な、なんだこれ」
前後左右全てが炎に包まれて……。炎の竜巻の中心にいるようだ。
「あ、兄貴!ライト!シルフィードにディアナ!いるか!?」
炎の渦はほんとに半径1mも無いくらいのもので、目の前にいたであろう兄貴たちの姿すら、おそらくこの炎の向こう側のはずだ。
「えぇ、いますよ。ですが、今は自分の力のコントロールをしなさい」
ジークの兄貴から言われ、再び目を閉じる。
………キタッ!!
オレの中の何かがかわり、目を開く。すると目の前にあった炎の渦はその範囲を狭め、本当に目の前、オレの顔に触れそうなところで、炎は霧散した。
「せ、成功したのか?」
「どこか今までとは違う雰囲気ですね」
「兄さんに近づいたのでは?」
「すごいです!」
「すごいッス!」
おそらく成功だろう。ならば試すことはひとつ。
「ディアナ、本気の一発をくれ」
精霊憑依・改は精霊同様、物理攻撃を無効化する。つまり……。
――パシュッ
ディアナが殴ったところに穴が開き、そのまわりに炎が現れる。
きた、成功だ。
「なっ」
「これは……っ」
「たしかにすごいことですね」
「き、効かない、?」
「『っしゃァァァ!成功だァァァァ!』」
こうして精霊憑依・改……いや、精霊憑依・炎が完成した。
◇
※あとがき
ごめんなさい、寝過ごしてしまい、いつもどうりの時間に投稿出来ませんでした。
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