第110話 事の顛末


「この魔道具凄いですね」


 城の上空まで飛んできて、そのまま下降している最中にシュレイヒトさんが言う。


「こういう時間の短縮のために作ったので」


「えぇ、本当にすごいです。慣れない私がゆっくりのペースで来ても歩くよりも全然速いです」


「ふふん、すごいでしょ?」


「はい!」


 なぜシャルが得意げなのか知らないが、褒めてもらえるのは素直に嬉しい。


「他の団員や、他師団に配ったやつよりも扱いが難しい分、使いこなせれば、圧倒的な能力の高さに驚かされますよ」


「それは、使いこなすのが楽しみになってきました。これから毎日練習します!」


 扱いが難しいとは言ったが、これを使える人は、そうそういない。今のシュレイヒトさんレベルで使える人すらいないだろう。


 他の団員や他師団に配ったものは《上昇》《維持》《魔溜》が付与されただけ。つまり魔力を流せば上昇し、ある程度のところで維持に切り替えればいいだけなのに対し、俺専用、今はシュレイヒトさん専用だが、そいつは色々と付与したので、自分の意思で上昇下降、前後左右に行ける。


 何が言いたいのかと言うと、他の人が使っているのは魔力を流すだけで良いのに対し、シュレイヒトさんのは考えながら使う必要があるのだ。

 空中戦闘に向いているのは圧倒的に前者。脳にかかる情報処理の負担が少ないが、後者は箒を動かすのと魔法の使用など、いくつかの事を同時にやる必要がある。


 現にシュレイヒトさんは箒に乗りながら喋ることができていた。他の人はそう上手くは行かないだろう。


 ではなぜ俺がシュレイヒトさんにこれを渡したか。彼女の二つ名は「マルチ少女」だ。いくつかのことを同時にこなすことが出来る。もちろん魔法もだ。俺と同じように1人で複合魔法を発動させることができるのだ。

 それは彼女の脳の情報処理能力が高いからだろう。


 シュレイヒトさんが空中戦でこの箒に乗ってビュンビュン移動しながら魔法を放ち、敵を倒す姿を見るのはそう遠くない未来かもしれない。


 ――スタッ


 そんなことを考えていると地面に足がつくところだった。


「それじゃあ、行きますか。父上がどこにいるか知ってます?」


「陛下なら執務室にいらっしゃいましたよ」


「ありがとう」


 着地後、父上の所在をシュレイヒトさんに聞く。


「で、殿下。それに第4魔法師団長フィーア様、ヴァイス公爵令嬢……!今空から?」


 城門の前に降り立ったのでもちろんそこにいる兵士と遭遇する。その者は驚きを隠せないようだ。


「あぁ、空から来たよ。入ってもいい?」


「ど、どうぞ!お入りください!」


 門の前にたっていた兵士さんは端っこの方まで行き、俺たちの道を開ける。


「やっぱり皇子って顔パスだよねぇ。私、1人で来る時いつも書類に色々書いてるのに」


「まぁな。シャルだって、公爵邸にはいる時は顔パスだろ?同じだ」


「なるほど!」


 でもまぁ、たしかに。顔パスで城に入れるのはすごいことだ。この身分に感謝せねば。


 ◇

 ――コンコン


「リュークハルトです」


「入いれ」


 ――ガチャ


 父上の執務室の前で、ノックし、いつもどうり名乗るとこれまたいつもどうり、入れとのことだ。


「随分と速い帰還だな」


 開口一番、父上からの言葉は帰還が速すぎるとの事だ。


「スピード重視ですので」


「そうであるか。それで、どうであった?」


「はい、魔国とは、まぁ、良好な関係を築けそうですね」


「誠か」


 驚く父上に今回の事の顛末を話した。


 魔王城に入り、そうそうに魔王から挑発されたこと。それに乗り、魔王をボコボコにしたこと。条約に関しても色々と話した。

 関税自主権が魔国側にはないことなど。これはいつか魔国がこの国を上回る技術を手にしてもどの国よりも安くその技術を得るためだ。まぁ、保険だな。

 不平等条約で有名な領事裁判権については触れておかない。帝国側の人間が魔国に行くことはあまりないだろうし、そこで犯罪を犯したのならば、魔国側で処理して欲しいからだ。他国で犯罪を犯す者を庇うのは嫌だし、そんな奴がいると、今後他国との交渉の場で支障をきたすからだ。


 それから王国との戦争時、戦力の供給や、街づくりの際の人員の供給など約束したことも父上に話す。


「なんと……。上出来だ。リュークハルト」


「ありがとうございます。まぁ今回はアルがいたというのもでかいでしょう。彼女がいたから、魔王も変に口答えせずにこちらの要望を飲み込んだので………って、アルは?」


「リュートくんが解散の合図をして、シュレイヒトさんに箒の乗り方をレクチャーしている間に1人で城の方に飛んでってたよ?」


 まじか。多分、ヴォルや他の子供たちと早く戯れたかったのだろう。


「そうか。父上、アルは魔王との交渉の場において、居るだけで効果を発揮します。今回の件を受け、褒美を与えるのもいいかもしれません」


「そうか。では、検討する。それで、外交官達の活躍はどうであった?」


 ……それを聞くかぁ。正直に話すか?それとも取り繕うか?使えなかったスーナーさんはシャルの実父だし……。


「正直、いない方が助かりましたね。俺とアルだけで事足りました。なんなら少し邪魔だなと」


「スピード重視、か」


「はい」


 理解が早くて助かる。あの人たちがいなければ帰ってくるのはもう1日ほど速かっただろうに。


「相分かった。今日はもうい。戻れ」


「はっ」


 父上から帰ってもいいよと言われたのでシャルとシュレイヒトさんを連れて執務質を出た。


「リュートくんごめんねぇ?お父さん、使い物にならなくて」


「仕方ないよ、魔国相手に何を要求すればいいのかなんて分からんしな。まぁ思いついたらあとからなんでも追加で要求するつもりだけどね」


「お、鬼すぎる」

「殿下とは敵対しなうようにします」


 少し変な扱いをされたが、仕方ないのでそのまま俺とシャルは俺の部屋へ、シュレイヒトさんはクリヒカイト邸に帰った。


 こうして俺の魔国遠征は幕を閉じた。

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