第109話 シュレイヒト、飛び立つ
俺が解散の号令をかけると全員帰っていく。官僚たちは団員達に箒に乗せてもらい、家まで送って貰うのだろう。
「さて、どーやって帰る?ってか、シャルとシュレイヒトさんは
「馬車よ。でも御者の人にそのまま帰っていいって伝えちゃった」
「それじゃあちょっと距離あるけど、歩いて帰る?」
馬車をそのまま帰してしまったのなら仕方ない。歩くしかないだろう。
「んーん。飛んで帰ろ?」
「飛んで帰るって、俺は飛べるし、シュレイヒトさんは箒があるからいいけど、シャルはどーすんの?シュレイヒトさんは多分慣れてないから乗るのは危ないぞ」
「うん、知ってるよ。だから」
そう言ってシャルは俺に向かって、両手を広げて待機する。多分抱っこして帰ろってことなんだろうけど、ここまでシャルの思いどうりになるのは嫌だな。なら、やることは一択。
「キャッ」
俺はシャルの後ろに回り、膝裏に右手、腰よりやや上の位置に左手を添え、持ち上げる。所謂お姫様抱っこだ。
キャッ、と言っていたシャルだが、瞬時に俺の首に腕を回し、んふふー、と満足気に笑う。
……ここまで読まれてた?さすがにスムーズすぎるし、満足気に笑うところ?頭がこんがらがってなんにも出来なくなるのが普通では?あれ?
そう思い、シャルの顔を見ると……
「私の勝ちだねっ」
「あぁ、負けてしまった」
こんなかわいい子に負けるなら本望だ。
「それじゃ、シュレイヒトさん、行きましょうか」
「は、はい!」
そう言って、シュレイヒトさんは箒に跨り、「上、上、飛べ」と口にしていた。でも、そんなに意志をこめると……
――ビュゥゥン!
シュレイヒトさんを乗せた箒は空高くへ飛んで行った。
「あーあ。やっぱこうなるか。シャル、ちょっとスピード出すからちゃんと掴まってて」
「うん!」
俺の首へ回す腕の強さが増したのを確認し、俺も上空へ行く。
「シュレイヒトさん!下!下に降りてきて!」
「キャーーー!」
あーこれ、聞こえてないパターンだ。
そう思った瞬間、シュレイヒトさんがスピードを落とす。
「あ、制御できたかな?」
「止まったね」
「「……あ」」
フラグ回収。止まったと思ったら一気に下降し始めた。え?なんで?上がりすぎたから下がろう理論?
「これ、やばいんじゃね?」
「落ちたらシュレイヒトさん痛そうだね」
まぁ、とりあえず、思考加速しよう。
俺は引き伸ばされた時間の中で考える。思考加速のおかげでめちゃめちゃ考え事ができる。
シュレイヒトさんは俺の約50m上。多分今はシュレイヒトさんの真下に位置取りできている。
重力系の魔法をかけるか?いや、質量が変わったところで、落ちるスピードは変わらないはずだ。
地面が落ちる前にシュレイヒトさんの数センチ下に床を作って衝突させる?んー、もう既にかなりのスピードだし、無理だな。というか、逆さまで落ちている。
じゃあ次は……
そうやって、何度も考えるが良い策は浮かばない。そして気づけばシュレイヒトさんは目の前まで迫っていた。シャルは目の前のシュレイヒトさんを凝視し、一瞬俺の方も見る。
時間が無い。……うん、あれで行こう。
俺は再びシュレイヒトと距離をとるためにシュレイヒトさんの下10mくらいに転移し、思考加速を解除する。
「あれ?」
急に景色が変わったことに驚いたシャルが声を上げる。
そして俺は足首を少し曲げ、つま先をやや上にした状態で右足を前につきだす。
逆さまに落ちてるシュレイヒトさんの背中を俺の足の甲が捉える。このままでは俺の足とシュレイヒトさんの背中に多大なダメージが入るため、そのまま俺はシュレイヒトさんの速度より少し遅めで下降を開始する。
「シュレイヒトさん!箒に魔力を通すのをやめてください!」
「ッッ!はい!」
俺が叫ぶと、驚いた顔をしたシュレイヒトさんが箒への魔力供給をシャットダウンさせる。
すると、シュレイヒトさんのスピードが落ちる。
当然だ。今までは箒の力でかなりのスピードで下降していたのだが、今はシュレイヒトさんの自重だけでの下降だ。
俺の足の甲にシュレイヒトさんを乗せながら、徐々にスピードを緩め、地面スレスレで止まった。
そこでシュレイヒトさんの足が地面に着いたので、そのまま背中を持ち上げてあげれば、シュレイヒトさんは立ち上がる。
「フゥ、危なかったですね。俺が、一旦説明してからもう1回乗りましょう」
「は、はい」
「ではまず、この箒は持ち主の意志の元動くと言いましたが、それだけで制御するのは難しいです。なので最初は声に出しながら操作しましょう」
「はい」
そう、この箒なかなかのジャジャ馬なのだ。
「じゃ、俺の言ったことを真似してください」
「はい!」
「少し上」
「少し上」
そういうと箒が上がり始め、シュレイヒトさんの足が地面から離れる。
「もう少し上」
「もう少し上」
もう少し上を何回か繰り返すと上空20mくらいの所までやってきた。
「このくらいでいいでしょう」
「このくらいでいいでしょう」
「それは言わなくていいです」
「あ、はい」
「あはは!シュレイヒトさん天然!」
シュレイヒトさんの面白い一面が見れたとこで、前に進み始める。
「少し前進」
「少し前進」
するとゆっくりとシュレイヒトさんが前へ進み始める。時速20kmと言ったところだろうか。少し速めな気もするが、ここは上空。障害物は何もないので、少しスピードを出してもなにかにぶつかる心配もないのだ。
「うん、いいですね。そのスピードを維持したまま進みましょうか」
「は、はい」
そのまま、歩けば1時間弱はかかるであろう城までの距離を俺たちは10分程度でたどり着いたのだった。
◇
※あとがき
こんにちは。さっき気づいたのですが、魔王戦の前に作った手袋、魔王戦で使ってないですよね。まぁ、使う必要がなかった、で通そうと思います。その旨を伝える文も追加しておきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます