第108話 帰還

side:Ryukhardt von Stark


――30分前


「魔族を絶滅させなくて良かったのか?」


帰宅途中、アルから物騒な発言が飛ぶ。


「聞いてただろ?魔族には使い道がある。まぁ、使い道がなければ滅ぼしていたかもな」


「くくっ、最高じゃ。じゃが、使い道がなくとも、お主は魔族との共存を選んでいたと思うがのぉ」


「そうか?別にそんな甘いことしないと思うがな」


「まあい」


それだけ言ってアルは先頭の方へ飛んで行った。なんだったんだ、一体。


「団長……そろそろ休憩をした方が良いかと」


先頭を飛んでいたアングラックが俺の元まで、スピードを下げてきた。


「そうだな。もう30分弱飛んでるからな」


30分弱というのはかなり短い時間だ。しかし、このは魔国領。なれない環境、魔素の質が違いすぎる環境で飛び続けるのはかなり消費が激しい。


ここは仕方ないか。


「みんなー!休憩を挟む!一旦下降してくれ!」


「「お、ぉぉぉぉ」」


元気の無い団員たちはその場で下降を始める。


「水魔法を使える者は水を出してくれ!火魔法を使える者は焚き火の準備!」


ローブを着ていても魔力節約のために温度調節の機能を使っていない団員もいる。そして魔国はとても寒いため、焚き火が必要なのだ。




「中々良い練度であるな」


「アル」


現場監督のように、周りを見ながら指示を飛ばしていた俺の元へアルがやってくる。


「じゃが、我は早く帰りたいのじゃ」


「仕方ないだろ、俺らのスピードに着いてこれるやつがいないから遅いヤツのスピードに合わせているんだよ」


「違うのじゃ。飛んで帰る必要がどこにある?お主はもっと便利な魔法があるじゃろ?」


「……あ」


転移魔法の存在を思い出した俺にアルが"ニッ"と笑う。


「あるじゃろ?心当たり。確かあの魔法は1度行ったことのある場所にしか行けないんじゃったな。だから、魔王の元へは飛んで行った。しかし帰りはどうじゃ?」


「……そーだよな。みんな!一旦集まってくれ!」


「「「ハッ」」」


テキパキと準備をしていた団員たちを集める。


「作業中の物はそのままでいい。魔王が気づけば後で片付けるだろう。とりあえずみんな俺に触れてくれ!触れられないやつは俺に触れてるやつに触れてくれ!」


俺は魔王のように空間ごと転移することもできるが、ここから帝都までの距離はさすがに難しい。なので、俺に触れている者、またはその者に触れている者を対象に転移することにした。


「それじゃあ、転移するけど忘れ物ないか?」


「「「ハッ、ありません!」」」


「よし、それじゃあ、転移!」


――帝都北門


「「「「おぉぉ」」」」


転移すると、団員、官僚たちかは声が漏れる。


「なーんで、気づかなかっ――シャル?」


なーんで気づかなかったんだろう、そう言おうとすると、目の前にはシャル、そしてシュレイヒトさん?


「私の勝ちですね、シュレイヒトさん」


何か賭けをしていたのかシャルが勝ったらしい。


「なんでこんなところにいるんだ、シャル、それにシュレイヒトさん」


「なぜって、お出迎えよ。シュレイヒトさんは私の護衛としてね」


「そっか。わざわざありがとうございます、シュレイヒトさん」


「い、いえいえ、私は陛下のお言葉に従っただけですから……」


陛下?あぁ、俺がここに来ることをシャルが予想していた。→父上に言うが、1人では危ないので、護衛をつけた。→その護衛がシュレイヒトさんだった。


「そうですか。今度なにか奢りますね」


「大丈夫ですよ、今日は暇してただけなので」


「確か、第4魔法師団フィーアって今日は休暇でしたよね、貴重なお時間を頂いたんです、何か礼をしなければ。……そうだ、これをどうぞ」


そう言って、俺は俺専用の箒を渡す。


「これは……?」


「魔道具の箒です。一応全魔法師団に10個ずつくらい寄付したんですけど、性能がいいとはいえなくてですね。これはシュレイヒトさん専用の箒にしてください」


そう、父上に言われて一応全魔法師団に渡しているのだが、上昇の能力しか付与していないので、前後左右への移動は自分で風魔法なりなんなりを使うしかないので、風魔法を使えない人は使えないのだ。


だが、俺のやつは乗っている者の意思により勝手に進んだり左右に曲がったりできる。そしてなんと言っても所有者設定ができるのだ。


「《リュークハルトが命ずる。汝、これよりシュレイヒト・フォン・クリヒカイトのモノとなれ》それじゃ、魔力を通してください」


所有者変更は全所有者の言霊で変えれる。そして新しい所有者が魔力を通せば完了だ。シュレイヒトさんは言霊魔法を使えないと思うので、誰かに無理やり取られることはないだろう。


この箒は所有者以外の言うことは聞かないので、正真正銘シュレイヒトさんのものとなった。


「あ、ありがとうございます!師団の方に届いたものを試運転してみたのですが、中々上手くいかなくて……。これさえあれば私も空中戦ができます!」


嬉しそうに箒を抱きしめるシュレイヒトさん。


「いえいえ、シュレイヒトさんに喜んでもらえて何よりです」


じーーー


「な、なんだよ、シャル」


「リュートくん、帰るって連絡くれたあとすぐに切っちゃって全然お話出来なかった」


「お、おう?」


確かに早く帰るために電話念話をすぐ切ってしまったが、気に食わなかったのか?てか、拗ねてる?


「もっとお話したいから早く帰ろ?」


「お、おう。それじゃあ、みんなここで解散で。俺は父上に報告とか色々やっとくから、各自帰ってくれ」


「「「ハッ」」」


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