第106話 魔族の今後


「では、今後は魔国は帝国の下につくということでよろしいですかな?」


「……はい」


 魔王と決闘を終え、今は謁見の間という名の会議室に来ている。


 謁見の間とか言っていた場所は、やはりと言うべきか、会議室だったのだ。他国とあまり関わりがないのに加え、幹部が常に同じメンツなため、新たな幹部を迎えるためだけに謁見の間をつくるのも……ということらしい。


 そして、今はスーナーさんを筆頭に、連れてきた官僚(外交官)達で魔国の幹部と条約について話し合っているところだ。


 この場では、俺は主役では無いため、スーナーさんの後ろに控えている。もちろん魔人化し、精霊憑依している。なめられないよう、威圧しているのだ。アルも人化したままなのだが、感じる圧が龍のそれ。


「そ、それで、こちらが飲み込む条件は……?」


 口調も見た目も貴族のおぼっちゃまで、そこに1本の角としっぽが生えていた魔王だが、口調が明らかに変わった。それはもう、弱者のそれだ。


「うーん、そうですねぇ、うちの殿下のおかげでそちらはなんでも言うことを聞いてくれるのでしょう?そう言われると迷うものですなぁ?」


「「「………」」」


 スーナーさんの煽りに魔国の人間たちはシーンとしてしまっている。


「ねぇ、俺必要ない?帰ろうか?」


「いえ、いてください。いなくなったらこいつら強気になると思うので」


 いる必要ないと思った俺は帰ることを提案したが、却下されてしまった。


 まぁ、俺の圧で、魔王とその幹部達は完全に萎縮して反抗できてないもんな。


 ちなみに、魔王さん、土ドームで自分の攻撃が目の前で爆発した際、右腕がなくなってて、今もそのままなんだよね。絶対に治さないけどね。でも、魔王は腕を失っても自然に生えてくるらしい。強すぎる。


「と、言ってもこの国に要求することはあまりないんですよね……。気候的にも位置的にも」


 それはそうだ。この気温だし、国の一部を貰ったところで、やることは無い。それにあまりにも遠すぎるため、やることがあっても費用がかかりすぎる。奪った土地を別荘地にして貴族に売り出しても多分売れない。


 不平等条約の鉄板、領事裁判権や関税自主権もおそらく意味をなさない。

 うちの国の人間がこの国に来ることはまず無いし、この国と交易することもおそらくない。でもまぁ、将来的なことも考えて、その辺を要求するのもありっちゃあり。


 あとはまぁ軍事的なことだな。父上は王国との戦争に本腰を入れるらしいし、今のままだとジリ貧だから全力で攻め落とすとか言ってた。その際、魔族からの戦力提供というのはとてもでかい。

 もちろん、俺よりははるかに弱いが、人族を屠るくらいは簡単だろう。


 まぁ、好戦的な魔族のことだ、人族を一方的にボコボコにできるなんて知れば、嬉しくてたまらなくなるだろう。


 それにしてもスーナーさん、それでいいのか。外交官だろ、あんた。


「じゃあ、俺から。我が帝国は隣の王国との戦争に終止符を打ちたいと考えている。もちろん、俺一人で終戦まで持ち込むことは可能だが、最善手とは言えない。こちらの戦力はとても強いが、向こうも中々良い人材を揃えている。そこで、君たち魔族の手を借りたい。うちの国に魔族が味方すると知れば、我が国に歯向かう国も無くなるだろう」


「それは構わないです。ですが、帝国にはあなたしか戦力がいないのですか?」


「いや、言っただろ?こちらも戦力は十分にある。しかし、全員を出動させる訳にはいかないのだよ」


 魔王からの質問に正直に答える。王国の有力者というのはシュレイヒトさんレベルの人間が数人程度。シュレイヒトさんレベルが1人程度なら第3魔法師団長ドライのワンダー・スタームがやってくれるが、4.5人いるのだ。これはとても厄介なことだ。


「そうですか。それではその件は承諾しましょう」


 最初とは全然態度の違う魔王だが、今の方が素らしい。今までのは頑張って強そうな魔王を演じていたのだとか。


「それは感謝する。あとは……」


「ッ、まだあるのですか?」


「うん、だって負けた方は勝った方の言うことを聞くんだろ?最初は、一つだけって話だったが、結局、何個でもいい、で落ち着いたやん」


「そうですか、まぁ、いいです」


「うんうん、それでいいんだよ。そんで、現在帝国は街を発展させたく思っている。しかし人間というのは非力なものでな、力持ちな魔族に協力して欲しいんだよ」


 帝都のスラムについて父上と話し合ったことがある。もういっそ、スラムの人間たちが職を持ち、家を持てるような環境を作ろうと。そのための家づくりから始めようとしているのだ。


「わかりました」


「とりあえずはこんなものでいいだろう。また何かあれば来る。……あぁあと」


「まだなにかあるのですか?」


「不満か?」


「い、いえ」


 今回は徹底的に恐怖外交すると決めているのだ。少し圧をかければ萎縮する。強さき重きを置く魔族は扱いやすくて助かる。


「南の獣王国に圧を掛けてくれ。少しでいい」


 そう、現在、獣王国の動向が怪しいのだ。


「あ、えっと、あの国の動向のことですか?」


「……?なぜ知っている?」


「あの国にはスパイを送り込んでいるのですが、その影響かと」


 へぇ、面白いことやってんな。


「スパイ?なんのために」


「貴国と戦うために少しでも情報をと思ったのですが、集まる前に我慢できなくて喧嘩を売ってしまい……」


 やっぱりアホだなこいつ。情報得ようとして、着々と進んで行ったのに、情報が集まる前に喧嘩売るとか。


「なるほどな……。まぁ面白そうだし、スパイはそのままで。圧の方はいいや」


「はい!わかりました!」


「よしっ、そんじゃ帰るぞー」


「「「はっ」」」


 俺たちが魔国に、魔王城に居た時間わずか数時間。圧倒的時短。


「じゃあ、何かあったらまた来る!」


「は、はい」


 何かあれば、この国に丸投げするとしよう。


「もしもし、今から戻ると父上に伝えて欲しい。返事は不要だ」


 シャルに伝え、俺たち一行は帝国へ戻る。




「あの~私たち要らなかったですよね?」


「うん。要らなかったし、帰る時もスピード緩めなきゃいけないから、デメリットしかないね」


 帰りにハーマンシュミット伯爵が聞いてきたので、正直に答えてあげた。


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