第105話 あっけない終わり

「お前の魔法じゃ俺の魔道具を打ち破ることすらできない。さぁ、どこからでもかかってこい。勝負開始だ」



「貴様……、なめやがって……!!」


 少し煽りすぎてしまったのか、魔王は怒ってしまったようだ。そんな時……


『リュートくん?聞こえる?』


 シャルから通信が来た。首から提げているペンダントがリンクしているので、いつでも話ができるのだが、ペンダントから音声が漏れるのではなく、使用者へ念話のような形で聞こえてくる。


 ちなみに、魔溜で魔力を溜めていないと、相手側に自分の通信が届かないのだ。


「聞こえてるよ。でも今、魔王と戦うから少し待っててもらえる?」


 この魔道具のいい所は念話で話すことも出来るが、こちらが喋ったことがまるまる向こう側に伝えるようにすることができることだ。


『うん、わかったー!じゃあね!』


「はーい」


 魔王と戦うと言っても全く動じないシャル。それどころか応援までしてくれた。


「貴様、誰と話していたのだ?」


「んー?内緒だよ、ばーか。てめぇに誰が教えるか」


 これも煽りの一種。魔道具に音声認識をつけたのはこれが理由。こうやって、魔王の集中を削ぐことで、より簡単に勝利を手に入れることが出来る。


「ちっ」


「いーから、早くかかってこいよ。それとも、自分の攻撃に効果がないことに気づいたか?」


「うるせぇ!」


 そう言うと、魔王は両手のひらをその場で上に向ける。


 すると、ふたつの大きな火球ファイアボールが現れる。半径5mは下らないだろう。


 そして、次の一瞬でその火球が小さくなる。こちらは半径10cmほど。


 この技は俺もよく使う技だ。とてつもない量の魔力を使い生成した魔法を圧縮して、より強力な魔法を作る。


「死ねぇ!」


 そう言って、魔王はふたつの火球を俺目掛け、発射する。


 驚くほど、単調な攻撃に内心ほくそ笑んでこちらも応戦する。


「土壁」


 簡単な詠唱と共に、現れるは巨大な土壁。


 壁と言っても、魔王を囲うように作ったドーム型の土壁だ。大きさは半径2mほど。


 ―――ドォォォォン!


 土壁の中で何かが爆発する音。


 魔王が放った強力な火球は俺の土壁と衝突し、爆発したのだ。当然、魔王はその爆発をモロに食らっているだろう。


「水」


 今度は土壁よりもでかい水を作り出す。一辺10m程の立方体を土壁包むように作り出す。すると、地面に付いていた土壁は地面から剥がれ、立方体の中央へ浮いていく。


「解除」


 そして土壁を解除する。この、一言だけで使う魔法はただのマイブームだ。口に出すだけでイメージしやすいし、何しろ長々とした詠唱を必要としないから、多分1番効率がいい。


「――ッッ!!」


 気がつくと水の中にいた魔王は驚く顔をしながら何かを訴える。おそらく、そのまま水を飲み込んでしまったのだろう。可哀想に。


 そしてこの水は特別な水であり、普通の水よりもはるかに密度が小さい。するとどうなるか。魔王の体は下へと沈んで行く。


 しかし、必死に泳ぐことで、少しずつだが、上に登っているではないか。


加重グラビティ


 あと少しで水から顔を出せるといったところで、魔王に加重を掛ける。これにより、また、一番下まで沈んでいってしまった。


 既に魔王の顔は真っ赤になり、そろそろ限界のようだった。しかし、それだけで助けてやる義理はない。


「土槍」


 土魔法で作った槍を1本ずつゆっくりとしたスピードで魔王の元へ向ける。魔王は必死に避けるが、避けた先にも槍が来る。


 勘弁してくれと懇願してくるような顔を向けてくるが、知らん。俺に喧嘩を売ったのはお前だ。


 10分ほど魔王と遊んでいると、ブクブクと、口から泡を出し、気絶してしまった。


 水の中だが、特別性の水のため、浮いてくることも無く、水の中で地面にゆっくりと倒れる。


「……解除」


 次の瞬間には水は全て綺麗に消えていた。


 いやぁ、よく10分も持ったな。てか、風魔法か何かで自分を覆う何かを作り、空気を確保するくらいはしてくれると思ったのだが、予想以上に焦っていたらしい。自力で抜け出すしか頭にはなかったようだ。


 そして、俺は魔王の元へ近寄り……


 ――ズゥゥゥン!


 気絶し、寝転がる魔王の鳩尾にかかと落としを決め込む。


「ガッ――カハッカハッ、オエッ」


 苦しそうな声を上げた後、口から飲んでしまった水を吐き出し、嗚咽を漏らす。


「俺はまだ実力の3割も出していないが、まだ、やるか?もちろんハッタリだと思ってくれても構わないが、やるからには本気でやるぞ?」


「こ、降参するわけないだr――」


「――《魔人化》《精霊憑依》」


「僕の負けです、許してください、ごめんなさい」


 俺の威圧を受け取ってくれた魔王はその場で負けを認めた。そういえば、手袋、使うまでもなかったな。魔王のことを少し過大評価していたようだ。


「あー、もしもしシャル?」


『もしもし!終わったの?』


「うん、よゆー。あとは条約結んで帰るだけだから、待っててね」


『うん!気をつけて!』


 ソッコーでシャルに連絡し、念話を切ったところで、魔王へ向き直る。


「俺の勝ちだァァ!これより魔国はスターク帝国の傘下となる!!」


 俺は魔族の観客へ向け、宣言したのだった。

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