第103話 初手から優位な立場へ


「……空気が変わったな」


「魔力の質が違うのじゃ。魔国の領には精霊がおらんからな」


 北を目指すこと数日。どこか、空気が変わったことを口から零すと、アルから衝撃の事実を突きつけられた。


「でも、魔素は薄くないな。どういうことだ?」


「人間の国には精霊が、魔族の国には悪魔がおるのじゃ」


「悪魔、ね。悪魔も精霊と同じ役割を果たしているのか?」


「そうじゃな。基本的にらこの辺にいるのは、下位悪魔ばっかじゃ。目に見える程存在感があるわけじゃないのでのぅ。気づかんのも仕方あるまいて」


 精霊と同じ役割を果たしているということは、その体から魔素を発し、魔法使いが上手く魔法を使えるような環境を作っているということ。魔族は当然、魔法を使うらしいから、精霊かそれと同じ能力を持った何かがいるとは思っていたが、やはり悪魔だったか。


 確か、王国と戦争した時、相手は悪魔を使役していたな。……魔王と繋がりがあるのか?いや、自分たちで召喚したと言っていたし、精霊と同じように悪魔も契約が可能なのかもしれない。


「なるほどな。それで、魔王がいるところまではどれくらいかかるんだ?」


「このスピードで向かえば魔王城までは2日かからんくらいかの?」


 まぁ、そんなもんか。結構でかいんだな魔国。


「魔国に入った!どこから襲撃されるかわからん!各位これよりいつでも応戦できるよう準備しておけ!」


「「「はっ」」」


「……ほかのやつが戦わぬとも、襲撃を受ければお主ひとりで対処できるであろう?」


「そうはそうだ。実際、襲ってきたら俺一人で対処するつもりだしな」


「ではなぜ?」


「緊張感を持たせるためだ。なんにも気づいていないやつが、急に襲撃されたところで平静を保っていられるか?」


「それもそうか」


 まぁ、向こうからちょっかいかけてくることはないだろう。小手調べは済んでいるだろうし、あとは俺たちが来るのを待つだけと言ったところか。


「少しスピードをあげようか」


「魔王と会うのが待ちきれないんじゃな?我は賛成じゃ」


「っし。みんな!少しスピードをあげる!先頭は俺が進む!最後尾にはアルが控える!」


「「「はっ」」」


 少し……時速80kmくらいで飛んでいたのを120km程で進む。


 もちろん、その分の休憩時間は多く取るつもりだが、1時間で40km分多く進めるのはでかい。



 ◇

 ――30時間後


「見えてきた」


 俺たち一行の先にはどデカい城がたっていた。まさに魔王城と言ったところか。


「あれが魔王城……」

「ついに来てしまったか……」

「あの魔王と対談……、生きて帰れるのか?」


 不安の声を漏らす者が多い中


「やっとか」

「ようやく折り返し地点ですね」

「今回も団長がやってくれるべ」


 うちの団員は俺をめちゃめちゃ信用してくれているらしいが、それはそれでなんか違う。


「このまま一気に突っ込むぞ」


「「「はっ!」」」


 そこから更にスピードを上げ、魔王城の前まで着くと、1人の男が空に浮かんでいた。



「初めまして。私は四天王が1人ハルリオンと申します」


 そう言って、ハルリオンと名乗った魔族の四天王は丁寧に礼をした。


「これはこれは丁寧な迎えだな。俺はリュークハルトだ。皇帝陛下より辺境伯の位を承っている。この一団の長だ」


「あなたが……。あなたが倒したのは四天王でも最弱。油断しないことですね」


 キターーー!四天王最弱だから油断するな発言!てか、アーロンって四天王だったのかよ?まぁ、あんな奴が最弱でも四天王になってるだけで、魔族の層の薄さが伺えるな。


「そうかそうか。油断しないようにしないとな!」


 つい、声が弾んでしまう。しかしアーロンの実力を考えると、残念なことに、魔王は俺が想像するより弱いのかもしれない。


「それではこちらへ」


 ハルリオンはそのまま俺たちを案内する。魔王城には一階だけでなく、上の方の階にも出入口があるらしい。色んな奴が飛ぶ事が出来るから、上にも出入口を設置したのだとか。


 そして、内装もいかにも魔王城と言ったところ。左右に広く、天井も高い。床には真ん中に赤いカーペットが敷かれており、サイドには松明のようなもので明かりを出している。


「こちらです」


 魔王城に入ってまっすぐ歩くと突き当たりの部屋へ案内された。


「この先に魔王が?」


「えぇ。この先に謁見の間があり、魔王が控えております」


 俺が魔王を呼び捨てしたからか、様のところを強調してきた。


 ――ガチャ


 ドアが勝手に開かれ、中に入る。


 そこは謁見の間ではなく会議室のようなところであった。丸いテーブルがあり、1番向こう側に魔王らしき子供が座っている。あいつが1番魔力量が多いからそう思ったのだ。


 そして、ハルリオンは魔王の隣へ腰掛ける。


「ようこそ参ったな、帝国の民よ。まぁまずは《そこへ座れ》」


 ――スタッ、スタッ、スタッ


 魔王が座れと言った瞬間、官僚たち、団員たちがその場の床へ座る。


 俺へも座らなければいけないような圧がかかる。……これ言霊魔法だよな?


「まだ挨拶もしていないのに座るのは申し訳ない。それに、《お前は座らず、そこで立っておけクソ魔王》」


 言霊魔法はお願い口調より命令口調の方がより強く効果が増す。また、不特定多数に向けるものよりフォーカスを当てて命令した方がより強い効果が現れる。


 ――スッ


 俺の言霊魔法により、魔王はその場で立つ。


「初めまして、クソ魔王サマ?永遠に殺されるのと帝国の下につくの、どちらが良い?選ばせてやる」


 俺は悪く嗤いながら魔王へ言う。それは魔王へ向け、好戦的とも取れる口上だ。

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