第102話 出発の時
明朝、時刻はだいたい6時くらい。
時期的な関係もあり、明るい時間帯とは言えない。
「全員揃いました」
「それじゃあ、行くか」
俺は帝都の北門にいた。帝都には東西南北全てに門が配置されている。今回は魔国に行くので、1番近い北門から出るのだ。
「リュートくん、行ってらっしゃい」
こんな時間だと言うのに、シャルは見送りに来てくれている。今日も学園があるはずなのに。
「あぁ、ありがとう。なるべく早く帰ってくる。それに、これがあるしな?」
そう言いながら首に提げているペンダントに触れる。これはシャルの誕生日の際に贈ったペンダントだ。俺のものとシャルのものはリンクさせているので、いつでも話が出来る。電話のように。
「うん!頑張ってね!」
「おう。みんな!配置につけ!」
「「「はっ」」」
魔国に行く官僚はスーナーさん合わせて10人。全員が魔法に精通していない訳では無いが、本職ではない。そして、今回も例によって魔法の箒を使う。長旅が予想されるので、
官僚と団員で2人1組を作ってもらい、団員が乗る箒に官僚達も乗せるのだ。
ちなみに俺は1人で乗るし、アルは自分で飛んでいくらしい。
「いやぁ、最近の第2魔法師団の練度は上がりまくりだねぇ」
「まぁ。人数が少ないので」
「引き抜きとかは考えてないのかい?」
「冒険者は眼中に無いですし、貴族連中の家臣から引き抜くのも気が引けます。なので、高等部の卒業生を狙おうかと。入ってさえ貰えれば、鍛えるだけなので」
「へぇ。考えてるんだね、リュート君。それに、シャルは君には見送りの言葉をかけても僕には何も言ってくれないんだ。君に懐きすぎじゃないかい?」
「………」
俺は静かに、アングラックへと合図を送る。
「……」
静かに頷いたアングラックはその場で一気に高度をあげた。
「よしっ、みんな、アングラックに続け!」
そう言うと、各自、高度を高めて行った。俺はシャルに手を振りながら、その後を追う。
◇
出発して30分程だった頃。
ある貴族を乗せた団員がこちらへスライドしてくる。
「これはなかなかすごいですな我が領軍にも欲しいものです」
「申し訳ない、ハーマンシュミット卿。個人的に売買する予定は無いのだ。他師団に供給したのも渋々と言ったところでな。本当は我が師団の唯一の物として扱いたかったのだが、父上がどうしてもと言ってな」
「そうですか。それは残念です。まぁ、今回はこの旅を少しでも楽しくしましょう」
「ええ」
彼はハーマンシュミット伯爵。上級貴族の伯爵の1人だ。
公爵、侯爵、辺境伯爵は数が少ない。故に、三強がいない場合、伯爵がその場を仕切るなんて事が多い。伯爵自体、あまり多いものではないが、この国に伯爵家は20家程。その中でもトップはハーマンシュミット伯爵なのだ。
辺境伯なりたての下っ端の俺と同等と考えていいが、バックボーンだったり、他の称号などを加味すれば、俺の方が圧倒的に立場が上だが、今は1貴族として仲良くしてもらっている。
そしてそのままハーマンシュミット伯爵を乗せた箒は前方へと行ってしまった。
「そういえば、そのローブは配らなくて良かったのか?」
「……あ。忘れてた。休憩ポイントで支給する」
俺が作った最強ローブを支給する訳では無い。ただ、《自動調整》、《魔溜》が付与されたローブを支給するだけだ。ちなみに、こんな6文字のために、ミスリル・魔絹を使う訳にはいかないので、少し高めの素材を使っただけだ。
自動調整には大きさ調整の他、温度調整も可能だ。魔国は大陸の最北端なので、とても寒い。防寒具を持参しても凌ぎ切れるかわからんのだ。なので、なんでも出来ちゃうローブの出番って訳だ。
「あぁ、言っておくが、我には必要ないぞ?ドラゴンだからな!」
そう胸を張って言うアルをシカトしながら、さらに北へ進む。
◇
――数時間後
まだまだ帝国領だが、一旦降りる。
精霊王討伐の際、この程度の時間で、砂漠までたどり着いたのだが、かなりスピードを落としているせいか、まだまだ砂漠の辺りまでは遠いらしい。
「みんな!一旦集合!」
そう言うと、団員たちが、俺の元へ駆け寄る。
「これを、パートナーに渡してきて」
俺は団員にローブを配る。ちなみに、団員には俺の劣化版、今回支給するローブの強化版を支給している。
「「「はっ」」」
ローブを受け取った団員はそれぞれパートナーにローブを渡す。
「魔国はとても寒いと予想される!そのローブは防寒具でもあるので、ぜひ着て欲しい!」
「おぉ、魔力を通すと快適だな」
「どれどれ……少し肌寒かったが、今はいい感じだ」
「すみません、魔力を通してもらってもいいでしょうか?」
早速着用し、感想を述べる人達。中には魔力を操れないからパートナーの団員に魔力を流してもらっている者もいる。
「しかし、1度魔力を通しただけで、ある程度の時間、そのままの効果を保つと言うのは革命ですな」
ハーマンシュミット伯爵だ。
従来の魔道具は魔力を通している間しか、その効果を発揮しなかった。しかし《魔溜》があるため、魔力を蓄積し、それを消費しながら勝手に効果を継続させてくれるのだ。
「ただ、文字魔道具の弱点を消しただけです。魔法陣魔道具は手間暇がかかりますから、経費削減のためですよ」
「それでもすごいことです。なぜこれが評価されないのでしょうか?」
「いま、これを評価するか検討中だそうですよ。なんせ、使い手は俺しかいないですから、評価したところで使える人がいなければ意味ないですし」
「なるほど……やはりリュークハルト様は凄いですね」
ハーマンシュミット伯爵はまだまだ若い方なので、おそらくこれは純粋な賞賛だろう。
「すごいでしょう?僕の娘の婚約者!いずれこの国を背負う存在なのです!リュート君、これからもシャルを頼むよ」
こいつ、うるせぇな。
「えぇ。では、そろそろ出発しましょうか」
「「はっ」」
みんなの準備が出来たようなので、再び上昇し、北を目指す。
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