第101話 向かう理由


 レントと共に食堂へ行くと、既にライトとジークが席に着き、朝食を食べているところだった。


「ライト、ジークおはよう」

「2人とも早ぇな」


「おはようございます。兄さん方」

「おはようございます。リュート、レント」


 ライトとジークはそのまま返事してくれる。しかし、レントはおはようすら言わねぇのな。まぁ、いいけど。


「兄さんは明日出発でしたね。僕たちが起きる前に出発するんですよね。お気をつけて」


「ライトは聖王国行くんだろ?レントが付いてるとはいえ、気をつけろよ?」


「あはは、そうですね。僕とジーク義兄にいさんがいなくなったら、兄さんかレント義兄にいさんが皇帝やらなきゃいけなくなりますもんね」


「そーゆー意味じゃねぇよ。単に心配してるだけだ。ジークもな」


「ありがとうございます。リュート。そちらこそ気をつけてください。何しろ魔王の元へ向かうのですから。精霊王とアルさんが付いてるとはいえ、相手は魔王ですからね」


「あぁ。行く人数を減らしてもらったし、平気だ。それに、今回の目的は戦闘じゃない。もしかしたら戦闘になるかもしれないだけだ」


 十中八九戦う羽目になると思うが。


「もしかしたら戦闘にならなくて済む、の間違いだろ?」


「それはそうだが、そういうこと言うなや、レント」


「すまんすまん」


 しかし、どう転んでもあの魔王とは戦うことになりそうだ。勝手に帝国の臣下を殺されて、あまつさえ謁見の場で皇子に攻撃したのだ。


 先に喧嘩を売ってきたのはあちらだ。俺たちは喧嘩を買うだけ。


「リュート、悪巧みしている顔ですね。何を考えているのですか?」


「悪巧みなんてしてねぇよ。どーやってあの魔王のプライドをへし折ろうかなと」


「それ、十分な悪巧みですよ兄さん!あはは!」


 ジークの質問に答えただけなのに、ライトに笑われてしまう。


「そうか。それより、俺が魔王の元に行く理由と目的はしっかり理解しているが、お前らはなぜ自分たちが聖王国に行くのか理解しているか?」


 俺の一言に3人が真顔に戻る。


 ――カタッ


「どうぞ」


「ありがとう」

「サンキュ」


 しかし、横からクリアーダが俺とレントの分の朝食を持ってきてくれた。パンに目玉焼き、色々な肉たち。あとはフルーツだ。そしてそのままクリアーダは厨房へ戻って行った。


「それで?聞かせてもらおう」


「まぁ、オレは兄貴たちの護衛だろ?後、姉貴ところに行くくらいか」


「まぁ、ボクとライトは概ね視察といった所でしょうか。あとは向こうの人達に顔を売り込むとか」


「そうですね。僕もそう思ってました」


 うん、概ねあってるね。


「ライトは視察と顔をうるくらいでいいだろう。たが、レント、お前は護衛だけじゃない。ジークもだ。今、聖王国と帝国は向こうの王太子と義姉ねえさんが婚約したとの事で、皇国と同じ程度には友好的な国であることに変わりないだろう。だが、それだけで足りんのだ。お前らどちらかが、向こうの国の女を娶る必要があると父上は考えている」


 そう。帝国から皇女であるフェメニーナを嫁がせる予定になっているが、それだと、うちの国が、皇女を渡すから仲良くしましょうと言っているようなものだ。いくらあそこのふたりが恋愛結婚だとはいえ、外からはそう見えるものだ。


 それにこういう時、義姉ねえさんは人質という扱いになる。つまり、聖王国と帝国で揉め事があれば、向こう側が有利に物事が運ばれる可能性がある。父上としては1人2人は向こうから人質が欲しいのだ。その考えは間違っていない。


 そのことを3人に話す。


「しかし、そんなことをすれば、向こうの印象が悪くなったり、他の国からやられたりする可能性があるので、向こうから娶る必要は無いのでは?」


「本当に向こうが裏切らないと言い切れるか?ライト」


「そ、それは……」


「これは、図書館にある本で読んだのだが……。昔、1国の主であった者がいた。その者はとある計画のため、自分の妹を隣国の主に嫁がせた。しかし、大事な妹をあげたにも関わらず、その者は隣国の主と戦になった。まぁ、先に約束を破ったりしたのが悪かったのだがな。ただ、もし、嫁がせた側の国が娶った側の国からその国の主の身内あるいは家臣の身内を娶っていたら争いにならなかったかもしれん。どうだ?」


 レントは理解出来ていないようだが、ライトとジークは理解しているようだ。ちなみに、図書館で読んだなんて嘘だ。こういう嘘をついても怪しまれないよう、最近は図書館に行っていたのだ。


 簡単に言えば織田さんと浅井さんだ。この件に関しては織田が、約束を破ったのが悪い。しかし、織田側が浅井側から女を娶っていれば、浅井も手を出せなかったかもしれない。まぁ、後ろに朝倉さんがいるから多分そんなことないけど、聖王国に圧をかける国は存在しないので、朝倉さんは考えないこととする。


「そう、ですね。しかし、あの国の王女に僕らの歳と合う女性は居ないはずです」


「別に王女である必要は無い。公爵の娘でも二侯の娘でもなんでもいい。しかし、上級貴族の娘だ。絶対に」


「はぁ。そんな簡単にいくもんなのかよ?怪しまれたりしねぇの?てか、政略結婚とか嫌なんだが」


「別に政略結婚をしろという訳では無い。帝国は恋愛結婚を推奨しているからな。タイプの者がいれば、少しアプローチするだけでいいんだ。あぁ、ジークはアタックするなら内面も観察しろ。皇后になるかもしれないんだ。エレオノーラは少し危なっかしすぎる。お前が支える側の方が得意なのは知っているが、もしかしたらジーク、お前が皇帝になるかもしれないんだ。デキる女を捕まえてこい」


 順当に行けばライトが皇帝、ジークが宰相なりになるだろう。しかし、エレオノーラは少しガサツだからな。その婚約者であるライトを皇帝にすることに否定的な声を上げる者がいてもおかしくない。


「まぁ、わかったよ。てか、この国も聖王国も、重婚は認められてるからライトが娶ってもいいんじゃないの!?」


「それは、まぁ、バランスの問題だジークとレントには婚約者がいないだろう?早く作らんと、色んなところから縁談が舞い降りるぞ」


「……よし!探そう!レント!ボク達にも婚約者が必要だよ!」


「お、おう」


 レントは乗り気では無いらしい。


 しかし、レントもジークもかなり乗せられやすい性格をしているな。扱いやすくて助かる。


 そうこうしているうちに俺たちの皿の上にはもうなにも乗っていなかった。



 

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