第99話 強さを追い求める者同士
――縫製工房
「ナットさーん!」
縫製工房に来た俺は扉を開け、その場で叫ぶ。
「はいー!ちょっと待ってくださーい!」
少し奥の方にいるのか、声が小さく聞こえる。
数分もしないうちに、ナットさんはこちらにやってた。
「それで、ご要件はなんでしょうか?ローブの方に不具合でも……」
「いや、ローブの方は完璧だった。ありがとう。でも今回は次の依頼をしようかと思って」
「そうですか。良かったです。して、依頼とは?」
「実は手袋を作って欲しくて。ミスリル・魔絹で」
「手袋、ですか。まぁ、そろそろ冷え込む時期ですが、あの生地じゃ少し薄いのでは?」
「防寒具としてでは無い。戦闘用としてだ。出来れば薄手の手袋が欲しい」
そう、今回、レントと戦ってわかったのだが、身体強化していても、全力で殴れば、俺の拳も痛いのだ。だから、まあ、ちょっと能力も付け加えた手袋でもしようかなと言うことだ。
「はぁ、わかりましたけど……」
ナットは怪訝な表情をする。
「別に滑る滑らないとかは気にしない。俺の戦闘スタイルは剣を持つ訳では無いからな。それに、剣を持っても滑らないよう、こちらで付与魔法を施す予定だ。気にするな」
「わかりました。それでは明日の朝までには出来ると思います。手の採寸をするので、中へどうぞ」
「あー、いや。採寸は必要ない。大人用サイズで作ってもらって構わない。調整も付与魔法で事足りる」
俺が出来ないのは素材から物にすること。それさえやってもらえれば、あとはどうにかなるのだ。
「わかりました。それでは、えっと……」
うん、話すこと終わったし、とう話すことなくなったよな。ちょっと気まづい。
終わったなら出てけとか言えるような立場でも無さそうだし、俺から言わなきゃあかんやつや。
「それじゃ、用事はそれだけだ。ありがとう。楽しみにしている」
「はい!ありがとうございます!」
俺はそのまま縫製工房を後にする。
時刻は3時過ぎ。
「なかなか中途半端な時間だな。なんかやることあるかな……」
てか、元々図書館にいたところをレントに連れてかれたんじゃん。図書館戻ろ。
◇
side:Leonhardt von Stark
「ハッ」
パッと目が覚め、上半身を起き上がらせる。
オレは、確か……
「ようやく気がついたか」
「アル……」
そういえば、アニキに本気の勝負を持ちかけて……
「勝負は一瞬であったな。お主が突っ込んだ瞬間、あやつが一撃を入れてダウン。実力者同士ならではの戦いであった」
「やっぱり、かなり差があるのか、オレとアニキの間には」
「で、あるな。お主が100人いたとて、本気のあやつ1人にすら勝てんだろうな」
「そこまでなのか……ッ!」
「そう気落ちするでない。我も似たようなものじゃ。我が何人いたところであやつには勝てん。それほどの実力者ということじゃ」
「それなら、アニキは世界で1番強いってことか?全ての称号が神位になってるってことか!?」
「そうでは無い。剣技の技術面などではお主の方が勝っておる。しかし、総合的に見た時、彼奴の手札の数の前にお主の剣技も塵芥となる、それだけじゃ」
なるほどな。でも、アニキの最近の強さは異常だ。おかしくなったのは魔人族とやらに進化してからのはず。
ならば、オレも進化することが出来れば、あるいはアニキのような強さを手に入れ、アニキに勝つ事が出来るかもしれない。
それならやることは一つだけだ。
「アル、オレに稽古をつけてくれ。オレは絶対にアニキより強くなる」
「もちろんじゃ♪我は常々思っていたのじゃ。あやつに負けたままでは悔しいとな。その思いはお主に託すとしよう!」
なんかよくわからんが、アルもノってくれてるっぽいし、このまま稽古をつけてもらうとしようか。
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