第98話 広がる差
◇
side:Ryukhardt von Stark
「アニキ!」
俺が図書館で色々と本を読み漁っていると、レントが、ドン!と扉を開けて叫ぶ。
「うるさいから静かにしろ!」
読んでいた本を閉じ、レントの方へ向かい、小声で言う。
城に勤めている人達はよく、ここを使うのだ。現に今も利用者がいる。
そして、とりあえず図書館の外に出る。
「ああいう場所では静かにしろ。わかったか?」
「す、すまねぇ。でも、イフリートから聞いたんだ」
「聞いた?何をだ?」
俺はレントの後ろに控えているイフリートに怪訝な表情をする。
「アニキが、オレと戦う時、本気を出してないって」
「なんだ。そんなことか。それで怒って俺のところに来たわけか?」
「怒ってるわけじゃねぇ!ただ、気になったんだ。なんでオレよりも全然強ぇのに、本気を出さず、接戦を演じているのか」
「それは、お互いのためだ。あえて全力を出さないことで、俺自身の戦いの幅も広がるし、レントだって強くなる。ライバルとの力の差を痛感すると諦めるやつだっているだろ?」
レントなんてその代表と言っても過言ではないだろう。シャルが過去に生きた世界で、レントはディアナに敗れ落ちこぼれた。それの二の舞を避けるべく、急激に力をつけた今でもレントと接戦を演じているのだ。
「オレは、そんなんで諦めたりなんかしねぇ!アニキが強ければ強いほど、オレも強くなるんだ!」
「そうかよ。それじゃあ、訓練場にでも行くか。着いてこい」
「あぁ」
◇
――訓練場
「そういえば、闘技大会の時、力の一端を見せたはずだが、どう思った?」
訓練場に着くなり俺はレントに問う。
「あ?あん時は、まさか仮面を外すなんて思わなかったから少し動揺しちまっただけだ。その間にアニキがオレに1発ぶち込んだだけ。それだけだろ?」
「その、少しの動揺ってのが肝心なんだよ」
「そーかよ。だが、今回は絶対に負けないぞ。オレはイフリートと契約したんだ。アニキに追いつくだけでなく、追い越す」
威勢がいい事は良い事だ。
「うんうん。いいねぇ。おいで、リタ」
どこから現れたのか、少し風が起きるとそこにリタが佇んでいた。
「ッッ!上等!」
いつの間にか現れたリタに怒りを露わにするレント。
その間に俺は距離をとる。すると、
「何なら面白いことをやっておるのぉ!よし、我が審判をやってやろう!」
「「アル!?」」
俺とレントの声が重なる。
「じゃあ、お願いしてもいいかー?」
「任してたもぉ!」
アルの了承も得たし、レントも納得しているようだし、いいか。
「それでは、準備は
俺とレントは軽く手を上げる。
「始めじゃ!」
「「――精霊憑依!」」
俺とレントは開始と同時に精霊憑依を行う。
精霊憑依と同時に100%の力で身体強化を施す。
すると、俺からは水色の、レントからは真っ赤なオーラが漏れ出る。
「ほぅ。良い圧だな」
アルからお褒めの言葉が漏れ出る。俺とレントからは魔力が漏れているのだ。
2人とも全力でやるあまり、魔力の制御など考えずに100%で身体強化を施すもんだから、魔力が漏れてしまうのだ。
そして、レントはものすごい速さで俺に殴り掛かる。思考加速を施しているから、体感では数秒でも、実際には1秒もない時間で、レントは俺の元へ来るだろう。
しかし、これなら相当な運動エネルギーだな。
「ナ゛ッ」
殴り掛かるモーションをしているレントから漏れ出る声だ。
なぜなら俺に角と羽、しっぽが生えているから。
そう、俺は何も言わずに魔人化と限界突破をした。魔人族である俺と人族でるレントには元々身体能力で差があるのに、さらに魔人化と限界突破だ。
そして俺は、思考加速を施しているであろうレントが視認できないほどの速さで地面をける。
――ズゥゥゥン!
レントの鳩尾に全力でパンチを決めると、えげつない音が響く。
おそらく、レントは後にも先にもこれ以上の攻撃を受けることはないだろうな。
簡単に言えば、力の合成だ。
レントがこちらに向かってくる速度と俺がレントの方に向かい、パンチする速度。そのふたつが合わさったスピードのパンチがレントの腹へ直撃したのだ。
まともに受けたレントはその場で蹲り、咳をする。
「ヴッ、ごほっ、ごほっ」
「いってぇ~」
俺は俺で、拳が痛い。こりゃ受けた側は相当痛いだろうな。
「勝負ありじゃな。考えたなお主。あえて先手を譲ることで相手に避けられない一撃をお見舞いとは」
「解説助かる。それと、こいつを城の医務室に連れて行ってもらえるともっと助かる」
「わかったのじゃ」
「俺は俺のやりたいことがひとつ増えたから……ってか、なんか用事があったから、ここに来たんじゃないか?」
今思い出した。なんの意味もなく、アルがここに来るわけないじゃん。
「いや、なんだ。魔王のことで少し話し合いがしたいと思っただけなのじゃ。急ぎでは無いので、時間がある時に話し合いの場を設けさせてくれると助かるのじゃ」
「おう。わかった」
俺は心の中でとてもアルに感謝しつつ、縫製工房へ向かうのだった。
自分の戦力アップを求めて。
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