第95話 決定事項


「魔王のこと知っているのか?」


 そう言うと、アルは真剣な顔になる。


「もちろんじゃ」


「それじゃあ、教えて欲しい、と言いたいところだが、場所が場所だ。移そう。父上」


 謁見の間で、それもまだ多くの貴族がいる所で、長話する訳にもいかない。


「うむ。これより、この度の謁見を終了する。各自戻るように」


 父上も急いでいるのか、いつもは争いがないように父上指導で誰から帰るのかとか支持しているのだが、さすがにそこまで暇では無いらしい。


「では余たちも移動しよう」


「はっ」


 ◇


 やってきたところは父上の執務室。


「早速だが、アル殿。魔王のことに関してお聞帰したいのだが、なぜ貴様もいる?」


「いやぁ、僕も魔王の元へ行くんなら、魔王のことを少しでも知っておこうかなって!てへっ」


 そういったのは、スーナーさん。普通に殴りたい。


「良いではないか。1人増えたところで変わらんじゃろ」


 アルは否定的ではないようだ。むしろ肯定的。


「それじゃあ、アル。よろしくたのむ」


「うむ!して、何から話そうか」


 ―ズコッ


 俺、父上、スーナーさんの3人が椅子から転げ落ちる音だ。


 自信満々に、うむ!とか言ったのに。まぁ、たしかに俺たちがどこまで知っててどこから知らないのか、知らないもんな。


「それじゃあ、全部教えてくれ。俺たちが魔王のことをなんも知らないと思ってくれていい」


 これが1番手っ取り早いだろ。


「そうか。では、魔王とは、だな」


 曰く、魔王とは彼が治める国、魔国の王のこと。

 曰く、魔王は全ての属性の魔法を使うことが出来る。

 曰く、魔王には四天王と呼ばれる、最強の家臣がいる。

 曰く、魔王は昔、アルに大敗を喫し、アルには逆らえない。

 曰く、魔王の代替わりは、前任が死んでから。

 曰く、次代の魔王は前魔王の実子でもなんでもなく、その時、1番魔法の素養がある魔族に決まる。

 曰く、新魔王になった魔王には前魔王の記憶がある。

 曰く、アルは魔国を配下にしているが、最近はその手を離している。


 色々知らないことが多いな。多分父上もだろう。


「まだまだあるのじゃが、..これくらい知っておけばいいじゃろ。それと我からひとつ頼み事があってな?」


 魔王のことを教えてくれたアルが父上に向かって、頼み事があるなんて言い始めた。そんなん断れねぇよ。


「なんでも言ってくれて構わない」


「そうかの、では、我も魔王の元へ行く使節団とやらに入れてくれ」


 願ってもない事だ。戦力アップに繋がるし。


「むしろ、良いのか?と聞きたいくらいだな。こちらこそ、お願いしたい」


「良い回答を聞けたのぉ。今度こそあの魔王にはお灸を据えてやらねばならんのじゃ」


 なるほどね、いい案だ。


「そういえば」


「なんじゃ?」


 魔王に前魔王の記憶があるのはわかった。それじゃ、あの魔王が言っていた、天啓を受けたなんてのは嘘だってことだ。前魔王はそもそも俺の存在を認知していた。まぁ、こんなどデカい魔力くらいは感知するだろう。

 だが、俺の力を試す大義がない。だが、次第にでかくなる俺の魔力に恐怖を抱き、どうしても力を試したくなった。

 しかし、大義がないため、無闇に攻めれば反撃を食らって、終わるかもしれない。

 それなら生まれ変わり、その際、天啓を受けたと嘘をつき俺の力を試す。

 神からのお告げなら誰も何も言わない。言えないのだ。


 俺はそのことを父上、アル、スーナーさんに伝える。


「良い考察だ」

「我も似たような考えをしていた」

「いやぁ、リュートくんやるねぇ」


「小賢しい真似をしてきた。やつには痛い目を見てもらいたい。父上」


「相手が隙を見せれば徹底的に叩きのめし、属国にする。簡単に言えば戦力増強だ。これで王国からのちょっかいも魔族を使って対抗できるであろう」


 えっぐいなこの人。自分たちの手を汚さず、敵を倒す。まさに貴族そのもの。でもまぁ、魔王を叩きのめすのは決定事項だ。


「いい案ですね。これで7大国の中でもまた頭1つ2つ抜ける国になります」


「この国に手を出したことを後悔させてやろう」


「「はっ」」

「いいじゃろう」


 その後は少し会議をして、退出した。


 ◇

 ――食堂


 謁見をし、アルから魔王に関して聞いていると昼時になっていたので、食堂にて、昼飯を食べることにする。


「アニキ、オレは聖王国まで着いて行ってなにをすればいいんだ?」


 かわいい弟の悩み相談か。


「お前は護衛につくだけでいい。化かし合いはライトジーク、他の使節団に任せておけばいい。お前はお前にしかできないことがある」


「そうか。アニキが言うならそうだよな」


「それと、飯食い終わったら訓練場に行こう。お前の戦力アップをはかる」


「おう」


 ◇

 ――訓練場


 そうそうにご飯を片付けた俺たちは訓練場に来ていた。


「そんで何するんだ?模擬戦か?」


「いや、違う。――リタ、おいで」


 俺は精霊王のリタを召喚する。


「ようやく私の出番ですね、主様!」


 めちゃめちゃ嬉しそうな精霊王さんが出てきた。

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