第93話 刺客
「数週間ぶりだな」
謁見の間の前の扉の前で、発する。
「お、お久しぶりです」
返したのは謁見の間の扉の開閉係の人。
一般の兵士たちは自分の持ち場はひとつかふたつしかなく、この人は多分謁見の間の扉の開閉と何かしらやっているだろうが、謁見があると、こっちの業務に戻るらしい。
「まぁ、そんなに緊張するな、俺たちの仲ではないか」
「は、はい」
全然仲が良いという訳では無い。少し緊張しすぎなので、ほぐしてあげようと思っただけだ。
「っと。そろそろっぽいぞ?準備しとけ」
「は、はい!」
――ギィィ
そう言って、門番さんが開けた扉か入場する。
――カツ、カツ、カツ
誰も喋らない静かな空間に俺の足音だけが響く。しかし、
「美しいローブだ」
「おぉ」
「ミスリルのようか輝きだ」
「しかし、この場でローブなど、無礼では無いか?」
「やはり、武人は野蛮であるな」
毎度の如く、ヒソヒソと話し始める貴族達。いや、ほんとに、静かにできないもんかね。
「静粛に」
父上の小さな一言で、ヒソヒソしてたヤツらが静かになる。まぁ、私語はダメって法律では決まってないけど、モラルがないね。最初からやっとけや、カス。
そんなことを思いながら、とりあえずいつも通りに皇帝の前で片膝を着く。
「知っている者が大半であるが、此度の闘技大会にて、我が息子は優秀な結果を残した。それにより、辺境伯への陞爵の条件が整ったので、リュークハルト・フォン・スタークを正式に辺境伯へ陞爵とする。また、それに伴い、リュークハルト・フォン・オーランドとして、この国の力になってもらう」
「オォ!!」
「辺境伯が出るのはいつぶりだ?」
「闘技大会に優勝したくらいで、辺境伯など、品が落ちるわい」
「勅任武官、第3皇子、辺境伯家当主、
「7歳児に頼るのは後ろめたいが、この国は安泰だな」
「領地は当人が成人してから与えるものとする」
うん、とりあえず、闘技大会でやった流れをもう一度なぞって、俺の陞爵が決まったな。
「はっ。謹んでお受けいたします」
「うむ。そして、ここからは知らない者が多いであろう事だ。先日、聖王国にある神器が盗まれた」
「なんと」
「それは誠か?」
「一大事でないか」
「いや、確か、あれを起動できるのは彼の国の王族だけ……。まだ救いはあるぞ」
「詳しい情報は入っていないので、使節団を結成し、向かうことにする。そこには我が息子達もいるが、今は発表しない。後日、対象者へと手紙を送る。待つように」
「これに選ばれるのは名誉なことでは無いか?」
「息子達?1人ではないということか?」
「第3殿下と、もう1人誰だろうなぁ?」
中には、俺は確定で入っていると思っているやつもいるようだ。多分、俺が1番可愛がられていると思っているらしい。浅はかだな。
「そして……、新たなる魔王が誕生した」
「なんとッッ」
「誠か?ッ」
「一大事ではないかッ!」
「友好的な魔王であることを祈るしかないな……」
「いひひひひ」
ん?笑い声聞こえなかったか?内通者?魔王からの刺客?準備しておくに越したとこは無いな。
俺はそう思いながら、魔力をローブへ集める。ついでに魔溜にも溜めてとく。
「静粛に!これは大きな出来事だ。よって、こちらにも使節団を派遣する。魔王の元へは、ヴァイス外交官を筆頭に、組む。こちらも対象者へは手紙を送る。そして、こちらに、オーランド辺境伯も護衛として参加させる予定だ」
「やはり」
「こちらであったか」
「魔王と魔帝、どちらが上か?」
「第3殿下の方が上だろう」
「しかし、相手は魔族……」
「いひひひひ」
ん?やはり笑い声が聞こえるよな。誰だ?子供か?
というか、父上、俺の謁見の時に色々なこと詰めすぎじゃね?
叙爵の時にシャルとの婚約も発表したし、他にも、一気に詰め込んじゃえ!みたいな感じがして、こっちとしてはあまりいい気分ではない。
「では、一応、今回の謁見を終了する。リュークハルトの辺境伯への陞爵に異議のあるもの、聖王国、魔王の元へ、訳あって、向かうことができないという者は今すぐ受け付ける。…………いないみたいだな。それでは対象者へは今日中に手紙を届ける。以上。解散」
――キィィィンッ!
「ナッ!」
「何奴!?」
「殿下の方だ!」
父上の合図でみんなが油断した瞬間、俺の背中に大きな衝撃が走る。しかし、体制は崩さない。
「悪いな。物理攻撃は効かないんだ」
そう言って振り返る。俺を襲ってきたのは20代の青年の見た目だった。
◇
名前:アーロン
年齢:78
種族:魔族
◇
78歳でこの見た目。確か、魔族は長寿種族だから、ある程度成長したところで見た目の変化は無くなるんだったな。んで、死ぬ数年前から衰え始める……はず。
「魔族か。どーやって入った?」
「いひひひひっ」
喋れないのか?そう思っていると、ゼロ距離で魔法を放たれる。
バーーーンッ
「けほっ、けほっ、いひひひ、ひ、ひ?」
「すまない。魔法も効かないんだ」
魔族のアーロンが顔が絶望一色に染まった。
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