第92話 唯一無二

 ――ビリビリビリ


 俺は、ナットから届いた、包装されたローブを取り出すべく、包装をビリビリと破く。


「おぉぉ~」


 中から出てきたのは白いが、光が当たると俺の髪色のように銀色に光るローブだった。ミスリル・魔絹の色をそのままにしてもらったが、正解だったな。


「それじゃあ早速っと」


 執務用の机の引き出しに入れていた、専用の筆と墨を取り出す。


 この国に書道の文化なんぞ無いが、付与魔法を施すには別に何を使ってもいいとの事なので、俺は筆を使っている。ちなみに、この筆と墨擬きはめちゃめちゃ魔力が含まれていて、専用じゃないもので付与魔法を施しても効果を発揮しないのだ。


 では、まずは……


「鑑定」


 ◇

 ミスリル・魔絹製のローブ

 魔導率に優れている。ミスリルも混じっていることから、防御力も高い。付与魔法時の文字数は24文字が最大

 ◇


 あぁ、そうだった。どんな素材でも使う質量によってかける文字数変わるんだよな。今までそんなん気にしないくらい少ししか書いてなかったからなぁ。


 んー、どうしようか。あれとあれは必須だろ……。そしたら……いや、全部書けるべ。


 じゃあ、まずは、《魔法無効》《物理無効》っと。


 文字通り魔法攻撃と物理攻撃を無効にする付与だな。こういう無茶な付与は起動するのにかなり魔力使うが、発動は任意だし。平気なはずだ。


 次は《自動修復》。このローブがボロボロになっても、少しでも破片が残ってさえいれば、魔力を通して完全新品の姿に変える付与魔法。


 どんどん行くぞ。次は《自動調整》。かなり付与する予定だから、大人なってまで使いたい。成長する度に作り直して付与し直すのはめんどくさいし、コストがかかるから、どんな体の大きさでもいい感じに着れる付与魔法だ。それに、この付与は大きさ調整だけでなく、温度も調整できるのだ。


 次は《自動治癒》。魔法無効及び物理無効を展開する前に攻撃され、傷を負った際、こいつを発動して、回復する。


 最後は《魔留》。俺が愛用している付与魔法。文字を書くタイプの付与魔法は使い時に使う量だけその都度魔力を供給して、発動させる。しかし、魔留を使えば、予め魔力を溜めておき、自分の魔力残量が少ない時でもいつでも発動できるようにしている。これは、付与魔法の概念を覆す付与だ。


「ふぅ。これでいいな」


 こうして俺は唯一無二の最強のローブを作ることが出来た。


 これらの6個を付与をするのにかかった時間は1時間ほど。魔力を筆に通しながら、付与したいものの効果を鮮明にイメージしなければならない。そのため、たった22文字書くのも1時間かかってしまうのだ。ちなみに2文字残した理由はいつか何かを追加したい時があるかもしれないから気持ち程度で2文字残したのだ。


「それじゃあ、もう寝るか。明日は色々あるし」


 そう。明日は俺が正式に辺境伯になる日だ。闘技大会で発表した時は一応仮辺境伯的な感じだったので、ようやくといった感じだ。


 それにしても帝国内にいる多くの貴族たちをよく3日で集めたものだ。


 まぁ、大半の貴族は早馬で2日以内のところに住んでいるし、そうじゃない貴族も闘技大会を見に来ていたとかでかなり集まっているらしい。


 ちなみに、ナットにローブの製作を急かしたのは明日の陞爵の際、このローブでも着ようかなと思ったからだ。


 正装じゃないのはさすがに失礼かもしれないが、俺は武官だ。あえて、「正装?そんなん知らねぇよ」みたいな服装で出ることで、俺という存在は政争には強くない言う考えを植え付け、政争から避ける作戦だ。


 まぁ、気づくやつは気づくだろうし、気づかんやつは気づかんだろう。もっとも、政争でもするのであれば、それくらい気づけるやつの味方になりたいと言うのもある。


 付与魔法をし終えた俺は疲れからか、ベットに行く前にその場で寝てしまった。


 ◇

 翌朝


「――様!リュークハルト様!こんなところで寝てないで、ベッドで寝てください!というかもう起きてください!」


 床でぐっすり寝てしまった俺は起こしに来たクリアーダに怒られながら起こされた。


「ん……。やっべ。昨日寝巻きに着替えてねぇじゃん。体流してから朝食を採るよ」


「かしこまりました。では準備を始めておきます」


 昨日、寝巻きに着替えるのを忘れ、そのまま寝てしまった俺は、急いで浴室に行き、水魔法でシャワー擬きを自分に浴びせる。


 昨日、風呂に入ったはいいが、付与魔法をやる予定だったし、どうせ汗かくからと、寝巻きではなく、いつもの服装をしていたのだが、そのまま寝てしまったため、もう一度風呂にも入れなかったし、寝巻きにも着替えられなかったので、仕方なく今、シャワーを浴びているのだ。


 ◇


「ふぃ~。気持ちよかった~」


 浴室から出て、頭を拭きながら、俺は食堂へ向かう。


 ――ガチャ


「おぉ」


「おぉ、すまんの」


 俺が食堂へ入ると、アルが丁度出てきたところだった。


 食堂には食事を作っているクリアーダ以外誰もいない。


 そして、食堂へ入ると、丁度ご飯ができた頃らしく、席に着くと、直ぐにご飯を食べることができた。


 クリアーダ、優秀すぎるな。おい。


 ちなみに、髪を濡らしたまま食事を摂るわけにはいかないので、魔法で乾かしたよ。


「美味い。ありがとう、ご馳走様。今日の予定は謁見。それまではごろごろする。以上」


 そうそうにご飯を食べ終えた俺はクリアーダに聞かれる前に今日の予定を言い、食堂を出る。


 ◇


 部屋に戻り、時間になった後、俺は宮廷魔法士の制服に着替え、例のローブを着る。


「っし。これでいいだろう」


 その時、丁度クリアーダから、謁見の準備が整ったと連絡があったので、そのまま謁見の間へと向かった。


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