第90話 新たな素材


 その後、俺はレントを探しに訓練場に行き、近いうちに聖王国への遠征があるから準備しておけと、かなりの容量が入るマジックバッグを貸した。


 ライトとジークはそれぞれの自室にいて、勉強をしていたので邪魔しちゃ悪いかなと思いつつも、レントと同じように説明し、マジックバッグを貸した。


 シャルに幾つか持たしていた麻袋も今回のマジックバッグもそうだが、容量限界まで入れても重さは変わらないのだ。とても不思議な事だが、魔法の手に掛かればそれくらいできてしまうのだ。




 そして自室。シャルが起こしてくれたのは夕飯前だったのだが、シャルと夕飯を自室で食べていたので、さぁ寝るかと思った時に思いでした。シャルから貰った絹のことを。


 ――シュルシュル


 麻袋の口を縛っている紐を解き、中から絹をだす。


「え?多くない?全然出てくるんだが」


 そう。取り出しても取り出してもたくさん出てくるのだ。


「100kgほど購入しましたので、当然でしょう」


「うわっ!!クリアーダ!いつの間に」


「最初からいましたよ?まぁ、とりあえず、シャーロット様がどういう意図でこのプレゼントを渡したかを考えることですね」


 それだけ言ってクリアーダは部屋を出ていってしまった。


 それにしても、肌触りがいいな。相当高かったんだろうなぁ。それに――


 ――スゥーーー


 あぁ、匂いはとくにないか。


 ◇

 魔絹

 魔蚕から取れた絹。魔導率が高く、付与魔法にはもってこいの素材。また、肌触りもいいので金持ちには人気。

 ◇


 なるほどねぇ。金持ちには人気とか書いてあるけど、こんな素材見たことない。おそらく他国から輸入されたものを買ったのだろう。


 と、なるとやは市場か?あそこの露店は行くたびに違う商品が売っているし、色々なものがあるからなぁ。


 それにしても魔導率ねぇ。にしてもこの素材は軽すぎるな。これでローブ作っても足元の方はずっとヒラヒラしてそうだ。


 んー、どうしよう。……あっ。いい方法あるじゃん。


 ◇

 ――翌朝 鍛治工房


 とりあえず寝る時間になってしまったので、昨日は1度寝て、朝一で鍛治工房までやってきた。


「親方ァ~!!いるか!?」


「うるせぇよ!誰だァこんな朝早くから!」


「俺だよ俺」


 工房の入口で叫んだ俺の元へやってきた親方。俺のことを見た瞬間、目が見開いた。


「わ、若!どうしたんだこんな朝早くから!」


「いやぁ、実は昨日、すごい素材を手に入れてね?」


 俺はそう言いながら魔絹を見せる。


「こいつで服を作ろうとしたんだけど」

「軽すぎるってか」


「そーそー」


 わかってるじゃないか。親方。


「それで、俺ァどうすりゃいいんだ?」


「ミスリルをこの魔絹と同じ細さにして混ぜ合わせて1つの糸にして欲しいんだ」


「また面倒な」


「いいじゃないか。ミスリルを加工するのは親方、それらを混ぜ合わせるのは錬金術が使えるインジナー。いいコンビだな」


 本当は2本取りとかで作ろうかなって思ったんだけど、めんどっちいからひとつにしてもらうのだ。


「いいんじゃないかい?親方」


「しかし……」


 話を聞いていたのか、物陰からインジナーがひょいと顔を出す。


「やぁ、インジナー。元気だったか?」


「そりゃぁ、もう!錬金術まで習得しちまったさ!」


「そりゃあ、良い!親方が作ったミスリルとこの魔絹を錬金して、2つの素材のいいとこ取りして欲しい」


「と、言うと、話を聞く限り、この魔絹ってやつの魔導率とミスリルの重量を合わせりゃいいんだね?」


「そーそー。よくわかってんじゃん。親方も見習えよ」


 インジナーの話を聞くと、合わせるのはミスリルじゃなくて安い鉄や、銅でもいいじゃないかと思うかもしれないが、無理なのだ。2つの素材を合わせると言うことはいいとこ取りしても、多少もうひとつの方の性質も引っ張ってしまう。


 魔導率を維持するには同じく魔導率の高いミスリルが最適ってわけだ。


「こんなヤツが皇子なんて、俺ァ、この国の未来が心配だ」


「こんな奴でも優秀なんだから仕方ないだろ」


「私は良いと思うがね?第2、第5皇子が国を治め、第3、第4皇子が国を護る。あんたが生きてる限りこの国は安泰だよ第3皇子サマ?」


「おいおい、親方よりインジナーの方がよっぽどわかってるじゃないか」


 俺はそう言って、親方をからかう。


「はぁ~。分かったよ。やりゃいいんだろ?俺ァ、ミスリルを加工する。インジナー、お前はミスリルと、この、魔絹ってのを合わせてくれ」


「はいよ」


 へぇ。結構いいコンビじゃん。なんて、思っていると、2人ともそそくさと工房の内部へ行ってしまった。


「そんじゃ、頼んだからなぁ!」


 分かわーってる!そう聞こえたような気がした。


 ◇

 ―2日後


「ようやくか!待ちわびたぞ!」


 そう。今日の朝一でミスリルと魔絹の合金?絹は金属じゃないから合金って言っていいのかわからんが、届いたのだ!3kg分も!


 確か、同じ形大きさのミスリルと魔絹の重さの比率は2:1だったはずだ。つまり、ミスリル2kgと魔絹1kgを使って出来た合金だ。


 ◇

 ミスリル・魔絹

 ミスリルと魔絹の体積を1:1で錬金したモノ。純ミスリルの2.25倍、純魔絹の1.5倍の魔導率を誇る。

 ◇


 ミスリル・魔絹って名前なん?まぁいいけど。


 それにしても、ふたつを合わせると魔導率が上がるんだ!魔絹より下がると思っていたが、これは嬉しい誤算だ。


 ミスリルの1.5倍の魔導率を誇る魔絹もすごいが、ふたつを合わせるとミスリルの2.25倍。やばいな。


 ミスリルなんて付与魔法をする上で、最高の素材なんて言われてるけど、ミスリルの倍の魔導率はさすがにエグイな。


 さて、この素材を使い、新しいローブでも作るか。


 ◇

 ――縫製工房


「こんにちは。アポなしで申し訳ないのだが、ローブの製作を依頼したい」


「だ、第3皇子殿下!?」


「そこまで驚くことは無い。3日後には着用したいので、それまでにこれを使ってローブを作れるか?」


 俺はミスリル・魔絹を見せながら言う。


「つまり2日で完成させろと。……まぁ、できなくはないですが……」


「何か予定があるのか?」


「いえ、私たちは皇帝陛下の命令を聞いてから衣服の製作をしているのですが、個人からの依頼となると陛下の許可、代金など必要になりまして……」


 えぇ、かなりめんどくさいな、宮廷縫製士。


「なるほど、では、今から父上に許可を取ってくる。直ぐに戻る」


 俺はそう言って縫製工房を出た。

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