第89話 2つの事件


 ――ガチャ


「ご報告です!」


「……なんだ?」


 ノックもなしに入ってした伝令役に問いかける。怒っている訳では無い。伝令は1秒でも早く事態を伝えるため、いちいちノックする必要は無いと帝国法で定められている。


「あ、えっと、報告は2個ございまして、まず聖王国の神器が何者かによって盗まれました!それと、魔王の代替わりが起きました!」


「うん、それで?」


 俺が感じていた嫌な予感はおそらく聖王国の神器の件だ。魔王の件は遠方から感じていた良くない気配のことだろう。


「至急会議室に来るように、と、陛下が!」


「それを先に言え」


「も、申し訳ごさいません!」


 いや、ほんと。それ、移動しながらでも伝えられたでしょ。


「いや、大丈夫だ、失敗は誰にでもある。それより、シャルはどうする?」


「んー、帰ろうかな?ここにいても邪魔っぽいし」


「いや、別に邪魔では無いのだが……。まぁいい、玄関口まで送る」


 多少会議室に行くのが遅れても問題ないだろう。


「え?いいよ、時間もったいないし」


「いいんだ。俺がそうしたいだけだ」


 まぁ実際、シャルを送っても対して時間に差はないだろうし。


「そー?じゃあお言葉に甘えよっかな」


「おう」


「で、殿下、会議室のほうは……」


「すぐに行く。だから先に行っといてくれ」


「は、はい!」


 そう言って伝令役は走って出ていった。


「それじゃあ行こ?」


「あぁ」


 俺とシャルは手を繋いだまま部屋を出た。


 ◇

 ――玄関口

「それじゃあ、ここまででいいや。ありがとうね、リュートくん」


「あぁ。気を付けて帰ってくれ」


「うん!」


 そう言ってシャルは扉を開け、外へ出て行った。


 部屋から玄関口までは数分で着いたがここから会議室までどれくらいかかるだろうか。というか伝令役はもう会議室に着いているだろうか。


「くくっ、会議室に戻った時に俺がいたらびっくりするだろうなぁ」


 俺はそんなイタズラ心を胸の内に秘めつつ、会議室まで転移した。


 ◇

 ――会議室


 転移を使えば一瞬でつけるのだが、急に視界が変わるのは未だに慣れない。


「おまたせしました。リュークハルトです。急に部屋へ入ったことはお許しを」


「ひっ!」

「おぉ」

「な、なんだ!」


 円卓に座っている、大臣クラスの文官武官が声を出す。


「転移を使った割には来るのが遅いのではないか?」


「申し訳ございません、父上。シャルを玄関口まで送ってきましたので」


「そうか。まぁ座れ」


「はい」


 上座には父上が座っていて、下座には伯爵クラスの文官武官。父上の近くには宰相、陸軍大臣、魔法大臣などが座る中、俺は父上の隣へ腰掛ける。


 辺境伯で、勅任武官。宮廷魔法士団第2席。元第3皇子。これほどの肩書きに勝てるのは父上くらいだ。


「ある程度の事情は把握しております。俺は新たな魔王の方へ出向けばよろしいですか?」


 こういう会議は得意では無いので早めに終わらせたい一心で、開幕から会議を進める。


「そうだな、聖王国にはラインハルト、ジークハルト、レオンハルト、文官や、護衛など含め100人程度で出向かせる。魔王の方へはリュークハルト、外務大臣ヴァイス公爵とその他数十名で構成された使節団で向かってもらう」


 ライトとジークには社会勉強。レントはその護衛。ヴァイス公爵こと、スーナーさんと俺。その他の数十名で魔王城へ突撃か!


「言っておくが、戦ではないぞ?ただの挨拶だ」


 なーんか、嫌だなぁ。魔王が代替わりしたからってわざわざ挨拶に行くことねぇじゃん。この国の皇帝が代替わりしたら7大国以外の小国が挨拶しに来るなんてことはあるかもしれないけど、そんなん自分たちが下だと認めているということになる。


「わかりました」


 これは驕りでもなんでもなく、事実だが、アイ曰く、俺は魔王より全然強いらしい。こうなったらやることはひとつ。恐怖政治ならぬ恐怖外交。我が国も魔王も、こちらの方が下だと認識している。まずはそれを覆さなきゃならん。


「何を考えているだいたい分かるのだが、ヘマだけはしないように」


「わかっています」


 口だけならなんとでも言える。


「次に聖王国の神器だが、勇者召喚の神器が盗まれた。犯人は不明だが、おそらくは王国の仕業だろう」


 勇者召喚の神器。詳しい説明は省くが、文字通り神が与えたもので、それを使うと異世界の勇者を召喚できると言う代物だ。帝国の初代皇帝は神器で呼ばれた異世界の勇者だ。まぁ、その神器が使われたのはその1回だけだが。


「そうですか。でも証拠がないんじゃ何も出来ないですね。王国のくせに上手く隠しきったのですか?」


「あぁ。まぁ相手は聖王国だ。王国程度でも隠蔽することは可能だろう」


 あー、なるほどね。聖王国は王国よりも色々いな部分で劣ってるから、そもそも証拠を見つけることができないのか。


「そうですね。それで、義姉ねえさんに被害はなかったのですか?」


 聖王国の王太子と婚約している、フェミニーナ義姉ねえさん。数ヶ月前に1度帰国していたけど、今はもうあっちにいるはずだ。


「あぁ。被害があったのは神器が保管されている教会の保管庫だけだ」


「そうですか。それでは私は退出しますね。あとは大人たちだけでやっといてください。あぁ、あと、出発の日時が決まり次第連絡をください」


 俺がそう言って席を立った瞬間



 ――コンコン

 ――ガチャ


「ハァハァ、殿下は少し遅れるとのことで、、――え?」


「伝令役の君か。俺は遅れるなんて言っていないし、先に行っておけと言ったけだ」


「は、はぁ」


「分からないなら良い。それでは」


 それだけ言って俺は会議室を出る。会議なんて得意では無いからな。


 ◇

「うぉぉ」

「ッッ――」


 会議室を出て自室に戻ろうとしていたところ、曲がり角でシルフィードとぶつかりそうになってしまった。


「ああ、シルフィード、レントたちはどこだ?」


「えっと、、レオンハルト様は訓練場……、ラインハルト様とジークハルト様はわからないです。ごめんなさい」


「いや、いい。ありがとな」


「いえ」


 そう言ってシルフィードは去っていく。


 そういえばエルフって数百年生きるんだよな。そしたら、俺たちが死んだあとはシルフィード1人か。可哀想に。


『何を言っているのですか?主人マスター


『何ってなんだよ』


『魔人族になった主人マスターは人族とは違うのですよ?当然寿命も伸びています』


『えぇー、まじか。そしたらシャルとか寿命で死んじゃったら、シルフィードしかいないじゃん』


 普通に悲しくね?


『そうですね。それを解決する方法がありますよ』


『な、なんだよ』


『今は言えません。ただ、特訓に励んでくださいとしか。とりあえず魔法関連の称号を全て神位にしてください』


『はぁ』


 まじで話が見えない。どーゆー事だ?


『分からないなら良いです。とりあえず私の言う通りにすれば解決しますよ』


『さいですか。とりあえず魔法系全部神位にすればいいんだろ?』


『はい』


 ってか、なんでも知ってて、身体の主導権握れるなら俺をこの身体に転生させるより、アイをこの身体にぶち込めば良かったんじゃね?って。


 そしたら、そんなこと出来るわけねぇじゃんって怒られたよ。いや、少し誇張したけど。


 神様が、下界におりて直接文明発展させたり、色々やるのは普通にNG。神様が作った生命体、また、アイのようなものを送り込むのもNG。


 神が下界に干渉する手段は、勇者召喚による異世界人からの文明輸入、普通に神託、俺みたいに転生者を送り込んで、使者として向かわせる、など。まぁ、そんなわけで、アイだけをぶち込むのは無しだから俺がぶち込まれたわけなのだ。

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