第83話 闘技大会


 パァン!パァン!


 闘技大会の会場では似非花火えせはなびが上がっている。この世界に花火なんて存在しないので、火魔法と土魔法の複合魔法を使い、魔法使い達が音を出している。


 今回は学園の騎士科3人魔法科3人俺とレントのような推薦組が12人Aランク冒険者が11人Sランク冒険者が3人の計32名によるトーナメント戦だ。


 多い選手は5回戦うことが許されている。この大会はベスト4の試合が終わった後3位決定戦があり、その後、決勝戦だ。ちなみに、俺とレントは別の山だったので当たるとしたら決勝戦だろう。


 他に俺の相手を務まるのはSランク冒険者くらいか。まぁ、Sランク冒険者もどれほどの実力かまだ分かっていないが。わかっているのはSランク冒険者はAランク冒険者が束になってかかっても倒せないくらい強いやつがなるものらしい。


「楽しみだね!」


「そうだな」


 俺とシャル、ジーク、レント、ライト、エレオノーラ、エイン、ユリアーネは観客席にいた。


「それにしてもレオンハルト様この大会に出るんですよね?すごいです」


「あ??アンタ、アニキも今回出ることを知らないのかよ?婚約者だろ?」


 …あ。


「えリュートくんも出るの?私聞いてないよ?」


「バカ!内緒にしてたのによ!いいか?今回俺が出るのは内緒だ。大会の後で明かす。それまで口外するなよ。いいな?」


「「は、はい」」


 レント以外の全員が返事をしてくれた。まぁレントも言いふらすようなやつじゃないだろう。


「それじゃあ、偽名を使って出場するのかい?」


 エインだ。


「いや、リュートで登録している。ちなみに仮面もつけるし体格を誤魔化すためにローブも着る。まぁレントと戦う時は邪魔になるからローブは脱ぐが」


「へぇそうなのかい。まぁ頑張ってねリュート」


「おう、ありがと」


《それではまもなく第1試合が始まります!選手の皆様は控え室にお越し下さい!》


 俺が作った拡声器を使い呼び掛けが入る。


「そんじゃ行ってくる。レント、行こーぜ」


「あぁ」


 ◇


「言っておくがオレは負けるつもりなどないぞ。今回優勝するつもりでやってきた。アニキとは決勝で当たるが、それまで負けるんじゃないぞ?オレは公の場でアニキに勝つ。アニキの山にSランク冒険者が2人いるが、負けは許さない」


「今日はよく喋るな。そんなに楽しみか?しかし、お前の方にもSランク冒険者は1人いるだろ?負けないようにしろよ」


「言われなくてもわかっている」


 控え室に向かう途中レントとそんな会話をしていた。俺は既にローブを着て、仮面もつけている。今回、ローブは黒色にした。性能は今まで使っていたやつと同じだ。仮面はキツネの仮面だ。インジナーに仮面の制作を頼んだら、キツネの仮面が出来ていた。


 まぁ、あいつもキツネ顔だし、キツネに愛着があるのかもしれない。この仮面には《不壊》と《絶対装備》と《魔溜》の付与魔法をつけている。


 効果はどんな攻撃を受けても壊れないのと、どんな激しい動きをしても自分の意思で外さない限り装備は取れない。よって、仮面が外れることは無い。魔溜はおなじみ、予め魔力を溜めておく付与だ。


「ていうか、なんで仮面なんてつけているんだ?つけている必要はないだろ」


「かっこいいからに決まってるじゃん。何言ってんの」


 まぁ嘘だ。本当は全員の印象に残るため。今回出場者の中で仮面をつけているのは俺だけ。それだけでも、誰だろう?と疑問が集まる。そして、仮面を外すとなんと、第3皇子では無いか。こんなん記憶に残らんやつはいない。他国の要人、偵察部隊、大使。全員がその脳に刻むだろう。


 ただの貴族の子息であれば仮面を外したあともそこまで注目されないが、皇子だったらならどうだ。皇帝の一族だ。何があってもこの帝国を裏切るはずがない。それに俺が愛国者だということは広く伝わっているだろうし。そういう意図があって仮面をつけているのだ。


「ま、隠したいならいいけどよ。アニキのことだからなんか考えてんだろ?」


「どーだか」


 そんなことを言っていると控え室まで着いた。


 ――コンコンコン、ガチャ


「おぉ、みんな集まってんな」


 開口一番、レントは嬉しそうな声を漏らす。


「だ、第4皇子殿下だ」

「今は宮廷魔法師団長なんだろ?」

「でも10席だろ?大したことないだろ」

「師団長なだけでもすごいだろ!」

「隣の仮面は誰だ?」


「おうおう、噂の中心だなこりゃ」


「あまり喋るな。ボロが出る」


「こりゃ第4皇子殿下じゃないか。今回はよろしくな?当たるとしたら準決勝か?」


 レントに注意していると大柄の強面のやつがやってきた。こいつは確か……


 ――バシッ!


「やめなさい!強いとはいえまだ子供なのよ!?」


「ッ!いてぇ!」


「ごめんなさいね?あぁ、私はイズ。見た目とは裏腹に氷魔法を得意としているわ。Aランク冒険者よ。こいつは、ファイ。旦那よ。一応こんな奴でもSランク冒険者なの」


「これはこれは、氷炎さんですか。氷帝のイズに炎帝のファイ。お会いできて光栄です。私はリュート。しがない魔法使いです。推薦組です」


 このふたりは夫婦で冒険者をやっている。妻が氷魔法使いのAランク。夫が火魔法使いのSランク冒険者だ。あと、とりあえず名乗っておく。イズは自分で言っていた通り氷魔法使いとは見えない赤い髪の毛と赤い瞳。そのギャップに萌えるファンもいるんだとか。ファイも火魔法使いって見た目ではなく、水色の髪に同じ瞳。2人とも見た目と使う魔法が逆っぽい。


「……あなた、まだ子供よね?誰からの推薦なのかしら?」


「それを聞くのはタブーですよ。あなたとは1回戦目で戦いますよね。私に勝てたら教えてあげなくもないです」


「あら?随分と生意気なのね?お姉さんにボコボコにされたいのかしら?」


「本当に若い人は自分のことお姉さんなんて言いません。それにそろそろ始まりますのでそこで決着を」


 少し煽りすぎたか心配になったが、平気だろう。


《さぁーて!入場してもらいましょう!まずは!今波に乗っているAランク冒険者、氷帝こと、イズ!夫婦で冒険者をやっており、その氷魔法の威力は絶大だァ!そして!謎の仮面少年!彼は推薦組との事ですが、誰からの推薦かは公表していません!その未知数の実力でどこまで勝ち上がれるのか!?》


 入場すると、その会場はザワザワしている。シャルたちの方に目をやると手を振っているので一応振り返す。


 実況されている間も俺たちは武舞台へ上がり距離をとる。


《それでは!両者位置に着いたようなので、始めェ!》


「ふぅ。――魔人化」


 瞬間。うるさかった会場が静かになる。


 

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