第84話 力の差
「ふぅ。――魔人化」
魔人化。既に魔人族である俺がなぜ魔人化などという技を使うのか。
答えは簡単だ。パワーアップするため。獣人族のディアナが獣化するようなものだ。
実際、今の俺には一対の黒い羽が生え、額からは2本の角が生えている。そして注目すべきは尻尾。どうやら魔人化すると尻尾が生えるらしい。根元は太いが先っぽに行くほど細くなり先端は尖っている。アルと出会った後、空を飛んだ際、翼が羨ましくて魔法でハリボテの翼を作ったことがあったが、今回は本物だ。
今回黒いローブにしたのはこの変身に合わせるためだ。
「魔人化?あぁ、なるほど。そういうわけだったのね。そりゃ、お姉さんを前にしても怖気つかないわけだ」
どうやらイズは俺の正体に勘づいたらしい。観客の中にも魔人化という言葉が聞こえ、俺の正体に近づく者がちらほらいる。
「くくっ」
実に予定通り過ぎてつい笑みがこぼれる。
「なぜ笑うの?今のあなたからすれば私なんてハエと同等ってことなのかしら?」
ちゃんと理解しているらしい。
「――身体強化」
俺は、強めに身体強化を掛ける。ついでに風魔法で俺の動きをさらに速くする魔法も掛ける。
「ハッ!」
10m程離れているだろうか。それほど離れていても俺はその場で踏み込み、拳を振り抜く。
――ズゥゥン!!
「カハッ!」
風圧だ。魔人化すると身体能力がアホみたいに上がる。そこに身体強化を掛け、風魔法で動きも速くした。実際、今の俺の振り抜きが完全に目で追えた者はこの会場に1人いるかいないかくらいだろう。
今の俺の一撃がどれだけのものか測る判断材料はイズの反応。彼女が装備していたミスリルのチェストプレートは凹み、胸部に強い衝撃を受けた彼女は気を失っている。
《な、なんと、仮面の少年リュートが一撃でAランク冒険者、イズを倒したァァァ!》
「「「………うぉぉぉぉ!」」」
観客たちは一瞬何が起きたのか分からなかったようだが、状況を理解した観客たちは一気に湧いた。
これで布石は打った。
魔法使いとはいえ、ミスリル装備をしたAランク冒険者を10m離れた場所からパンチの風圧で気絶させた。Sランク冒険者でもこんな馬鹿みたいなことが出来るやつがいるだろうか?いや、居ない。
そして魔人化。実は俺の後ろは各国の要人、大使たちのための特別席が設けられていた。風魔法を使い、後ろ側に風を流すことで俺の言葉を後ろまで流す。するとどうだろうか。彼らは俺が魔人化を使い、圧勝したことを理解する。次に俺の正体について考え出す。結果、俺に注意が向きまくる。そうなれば、あとは決勝まで焦らしまくった後に、決勝で仮面を取るだけ。すると、彼らは俺の正体、実力をその脳と心に刻みつけられる。
1回戦目からここまで飛ばしたのはこれが理由だ。
魔人化を解除し、通常の状態に戻った俺は歩きながら武舞台を後にする。
控え室に戻ると恐怖の視線、珍しがる視線を感じる。
「あんたなかなかやるなぁ!決勝戦楽しみだ!」
「はぁ、随分と呑気ですね、ファイさん。あなたは準決勝で第4皇子殿下当たるのですよ。彼に勝てなきゃ俺とも戦えない」
「そーゆーこった。こいつはオレが倒す。氷炎だか炎帝だか知らねぇがオレに勝てなきゃこいつにも勝てねぇぞ」
「ハハッ!面白いことを言うな第4皇子殿下!宮廷魔法師団長になったからと言って気が大きくなりすぎだ!実力の方はどうだ?俺はSランク冒険者だぞ?そのことを覚えておけ」
「ハッ、エラそうなやつ」
まぁ1回戦1試合目が終わったため次の試合があるのだが、正直見る必要も無い。ある程度情報も得ているし、あとは観客席から観戦しておくだけだ。
俺は控え室を後にし、トイレへ向かう。
個室に入ったあとはローブ、仮面をとり、今日来てきた服を着て観客席へ戻る。
「あ!おかえり!リュートくん!」
「ただいまシャル。でも大きい声でその名前を呼ばないでくれ。一応リュートで選手登録してるし、バレる可能性もある」
俺の帰りにいち早く気づいてくれたシャルに少し注意し、席に着く。
「はーい!ごめんね?」
「いや、構わないよ。それよりどうだった?」
今は感想が聞きたい気分だ。
「うん!エグかった!」
「え、えぐ?」
シャルの口からエグいなんて言葉が出るなんて。
「そう!初っ端からぶち上げて一撃必殺!エグすぎるよ!」
「そ、そうかありがとう」
なんかものすごい違和感を感じる。シャルの言葉選びがいつもと違くないか?
「クックックッ、アッハハハ!」
そんなことを考えているとエインがアホみたいに笑い始めた。……あぁ、そういう事か
「……エイン、てめぇ、シャル使って俺で遊んだだろ」
「あははは!バレちゃった?いやーごめんね?リュートが僕たちを驚かす戦いをしたからリュートにも驚いて欲しくてね!アハハ!シャーロット嬢、今度は君の言葉で伝えてあげて」
「わかったわ!リュートくん、まずはおめでとう!凄かったよ!最初から見たことない技使って翼も角も生えちゃって、かっこよかった!」
「おぉ、ありがとう。でも改めて言われると照れるな」
かなり嬉しいが、ちょっと恥ずかしい。
「さすが魔帝ですね、リュート」
俺をからかい混じりに褒めたのはジーク。
「ジークてめぇ。いつかお前にも2つ名がつく日が来るだろう。俺はそれを楽しみに待っている」
俺がそう言うと、俺の周りに笑いが起こった。
ここからはダイジェストでお送りする。
その後の1回戦は予定どうりレント、Sランク冒険者の3人が勝ち上がり、学園の高等部からは騎士科と魔法科から1人ずつ勝ち上がり、あとはAランク冒険者が5人、俺、レントを除く推薦組が4人勝ち上がる形となった。
2回戦目第1試合となる俺の試合では魔法科の生徒と対峙したのだが、正直拍子抜けみたいなところがあった。魔人化は使わず、魔法戦で相手を圧倒する試合をした。もちろん、殺害は禁止されているので本気は出せなかったが、それでも余裕で勝利できた。
2回戦目を勝ち上がったのは俺、レントSランク冒険者3人、Aランク冒険者が2人、推薦組が1人勝ち上がった。
3回戦目、俺はSランク冒険者と対峙した。ここで最初から一方的にボコすのは良くないと判断し、相手の得意な技を何度か披露させた後、ボコボコのズタズタにした。Sランク冒険者というのはAランク冒険者が束になっても勝てないような実力を持つものだけがなれるランクだ。
そんな相手をボコボコのズタズタにするような人間と言う印象を観客に与えた。
4回戦目もSランク冒険者。炎帝ファイのライバルらしく、水帝と呼ばれている。昔は水之神の称号を持っていたので水神と呼ばれていたが、現在では俺が水神なので彼は水帝と呼ばれている。
そんな水帝の戦い方はもちろん水魔法がメインだった。水魔法でドラゴンなどを形作り、水の圧倒的質量で押すという戦い方をしていた。もちろん俺の力を見せるためにも同じことをした。水魔法で作られた2体のでかいドラゴンは取っ組み合いをしたが、水の密度が俺の魔法の方が大きいので簡単に打ち負かした。
レントも4回戦目のファイ戦を制し、3位決定戦のファイと水帝、ウェイスの戦いが行われたが炎と水の相性を覆すことが出来ず、ウェイスが3位となった。
そして、決勝戦。
《おまたせ致しましたァァ!今大会決勝戦の選手紹介を致します!んまずは!初戦から危なげない試合運びをし、どんな相手にもその剣で斬りかかった第10
「「「うぉぉぉぉぉ!」」」
司会により戦いの火蓋が切られた。
◇
※あとがき
こんにちは。構想段階でリュートは闘技大会に出場させる予定はなかったので、相手選手の設定などが追いつかず、ダイジェストになってしまいました。ごめんなさい。
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