第82話 鼻面を引き回す皇帝


「父上」


 エイン達から離れ、父上の所へ向かい、話しかける。


 父上は現在、貴族家当主達と話している。


「どうした、リュークハルト」


 父上と話していた当主陣は驚いたような顔をしている。


「これが噂の……」

「クリヒカイト家の最年少記録を抜いた傑物……」

「7歳児にしてこの貫禄……」


「はじめまして、この国に尽力してくれて嬉しく思います。しかし、ほんの少しだけ父上と会話をさせてもらいます。父上、俺はもう帰ります。明日、俺も闘技大会に参加するので」


 最後の方は父上にだけ聞こえるよう、小さい声で言った。


 そう、俺は明日の闘技大会に参加することにした。参加条件はAランク以上の冒険者であること、もしくは、貴族、皇族の推薦があること。または学園からの推薦を受けること。これは高等部生から有効な手段だ


 冒険者には12歳にならなければ冒険者登録ができない。今回、俺は父上の推薦で参加することにした。もちろん、皇族からの推薦ということは公表されない。と、言うことは正体を隠して戦うということだ。正体隠して大会で優勝。男のロマンだ。顔を隠し、ただの推薦組として参加し、優勝。その後正体を明かす。そうすることで俺の名前は広がり、発言力は増す。


「そうか。良い、余とマドーレは後から帰る」


「はっ」


 そう返事だけして、会場を後にする。


 ◇

 ――帝城


「帰った」


 俺は城の入口でそうつぶやく。すると


「お帰りなさいませ」


 クリアーダだ。


「クリアーダもおかえり」


 こいつ、一緒に行って、一緒に帰ってきたのに、しれっと元々ここにいました感出してやがる。


「そろそろ寝る時間ですね。今日はシャーロット嬢のお誕生日パーティーでしたが、楽しめましたか?」


「あぁ、楽しめたさ。いいプレゼントを渡すことが出来たし、収穫もあった。公爵家の一人息子とも面識ができたしな」


 実際、本当にいい収穫ができたと思っている。エインと友人になれたことは普通にデカい。高等部から通うことになるだろうが、入学地点で友達がいるというのはでかいしな。


「そうですか。それでは私はもう寝ますので、リュークハルト様も早く寝てくださいね」


「あぁ、風呂に入ってから寝るよ」


 そう言って俺は風呂のある方へ歩き始める。クリアーダは本当に寝るらしく、自分の部屋へ歩いていった。




 時刻は10時を回った頃だろうか。小学1年生ならもう寝ていてもおかしくない時間だ。俺は既に眠いが。風呂に入らなければ寝られん。


 ――ガラガラガラ


「あ?おい、誰だ」


 脱衣所で服を脱ぎ、風呂の扉を開けると人影が見える。誰だ?


「あぁ?おぉ!アニキ!帰ったか!」


 人影の正体はレントだったらしい。


「レントか。こんな時間まで何してたんだ?」


「そりゃ特訓に決まってんだろ。アニキがパーティーなんかで留守にしてるんならその時間を有効活用しない手は無い。オレは着実に強くなってるぜ」


 ハハッ、こいつ、ストイックすぎるだろ。俺が訓練できない状況において、自分はいつもより訓練をして、俺との差を縮めようとしている。


「いいねぇ。だが、明日の闘技大会に推薦を得たのは俺。お前は俺の活躍を指を咥えながら見ておけ」


 ここで敢えて挑発することでレントのモチベーションをあげようと言う魂胆だ。


「くくっ、あはっ、あっははは!まじかよアニキ!こりゃ笑いもんだな!」


「ん?なにかおかしなことを言ったか?」


「オレも参加するんだよ、その闘技大会に。指を咥えながら見ていろ?オレに負け、オレが優勝する瞬間を指咥えながら見てんのはアニキだ!」


 おいおいおい、マジかよ。確かに宮廷魔法師団の師団長ならば簡単に推薦は得られるだろうが。そういうことだったのか父上。レントが騎士団に入りたいことを知りながらちょうど席の空いた宮廷魔法師団長の席にレントを座らせた理由。俺とレントの本気の戦いを各国の要人すらも見に来る伝統ある闘技大会を使い、見せることによって抑止力にしようってことか。


 さすが、賢帝と呼ばれることはある。息子を政治の道具にするなんて。それも息子に悟られないよう、むしろ、喜ばれるような形で。レントは気づいていないようだが、これはレントを序盤から圧倒する展開は避けろということだろう。


 序盤はお互い高レベルでの戦いを演じ、他国にその力を見せる。その後、圧倒的な力でレントをねじ伏せることによって俺という戦力の認知をさせる。全く、酷い使われ方だな。しかし、これは公の場で俺の方がレントより強いことを証明するしゅだんでもあるのだ。利用しない訳には行かない。そこまで考えての策だろう。さすが父上だな。


「くっくっくっ、ハハッ、フフフッ、クハッ、アッハハハハ!」


「ど、どうしたんだよ、アニキ。急に変な風に笑い出して」


「いや、憐れだな、お前。まぁ、お前がいてこそ成り立つ策だが」


「どういうことだ?教えろアニキ」


「答えを教える訳にはいかない。まぁ父上の思惑にあっさりハマってくれたまえよ」


 俺はレントに言い放ち、風呂場を後にする。一応、頭と体は洗ったし、離れるならこのタイミングだと思ったからだ。




 さぁ、どんなショーを見せようか。

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