第81話 それぞれの道


「ちょっと!変なこと言わないでちょうだい!」

「エイン様、わたくしとのお付き合いに乗り気ではないのですか?」


 でかい声だ。しかし、会場中に響くような大きさでは無いので他の貴族達からヒソヒソ言われることわないだろう。


「これは、エレオノーラ嬢じゃないか。元気してたか?そちらは……」


「そんなことはないよ、ユリア。僕はユリアとお付き合いできて嬉しいと思ってる」


 やってきたのはヴェルメリオ家長女エレオノーラと、ヴァイオレット家次女ユリアーネ。


「あーあ!ライト様と同じ顔でそんなこと言われると昔を思い出すわ!リュークハルト様も愛称で呼んでくださればいいのに。その顔でフルネームで呼ばれると心が痛むわ!」


 ユリアーネ嬢とエインはそっちでよろしくやっている。ちょっと2人の世界に入っているっぽいのでそっとしておく。


「そうかよ。だが、エレオノーラ嬢のことを愛称で呼んだりなんかすると勘違いする輩か出てくるだろうし、俺にはシャルがいる。他の令嬢とは距離をとるべきだと思っている」


 愛称なんてのは仲のいいもの同士で呼び合うものだ。別にエレオノーラ嬢との仲は良くもないし悪くもない。まぁ仲が良くても愛称で呼ぶつもりはないが。


「はぁ。シャルちゃんが殿下を選んだ理由がわかったよ。あんたら似たもの同士だね。そりゃ惹かれ合うよ」


 似たもの同士ってどういうことだ?


「あら?リュートくんと似たもの同士だなんて嬉しいわ、エレン?」


「「シャル!?」」


 おいおい、本日の主役様がこんなところで何やってるんだ?ちなみにエレンとはエレオノーラの愛称だ。


「シャル、挨拶の方は終わったのか?」


「えぇ、おかげさまでね。それと、エレン?私のリュートくんを取ろうとでも考えているの?」


「そんな事ないわ!私にはライト様がいますので!たとえ同じ顔でもライト様以外には惚れないわ!」


 いや、うん。惚気けるのはいいんだけど、それだと俺に風評被害が……。公の場の発言としては良くないかな。てか、そこまで言うなら今度ライトと入れ替わったりしてみようかな。


「ふふっ、そうですか。まぁリュートくん程の方であれば側室なんて数人できるでしょうけど。でも、今はまだ2人きりが良いです」


 そう言いながらシャルは俺の方に寄りかかりながら腕を絡ませる。


「キャー!」

「腕!絡めたわよ!」

「あのシャーロットさんが!」


 俺たちの動向を見守っていた学園の友達であろう令嬢達がザワザワしだす。


「いや、シャルも殿下も気にならないのですか?キャーキャー言われてますけど」


「あぁ、まあ別に実害はないし。ていうか、似たもの同士ってどういうことだ?」


「あぁ、その話ですね。シャルは元々学園では殿方とあまりお話される方ではなかったのですけど、殿下とご婚約されてからはそれに拍車がかかってしまって。恐らく殿方のご学友はいませんわ。けれど、シャルは女生徒を束ねるリーダーなんかをやっていますの。私たちの頼れるリーダーですわ」


「……そうなのかシャル。まぁ、シャルからしたら他の男子たちってちょっと子供っぽいよな」


「うん、そうなの。なんか見てるこっちが恥ずかしいからもっとまともに生きて欲しいよね。それに好きな子にちょっかい出して嫌われてる男の子もいるし。ほんとバカだよね」


 あー、小学生がやりがちなあれね。度が過ぎると嫌われるよなあれ。それに、ちょっと大人びてる女の子相手だと全く効かないだろうな。残念なのが、シャルがいることによって他の女子たちがシャルに引っ張られて少し大人びてる事だ。それによってちょっかい出す男子が完全に悪役になってる。まぁ、好きなら真正面から行くべきなんだうけど。


「まぁ、その辺は多めに見てやれって。でも、なんかされた時は俺に言えよ。可能な限り再起不能にするから」


「リュートくん、すごく嬉しいけど、最後のは怖かったよ。殺気がこもってた」


「すまんすまん」


 殺気で思い出した。とりあえず帝都の治安を改善するのが俺の目標だ。アホみたいな冒険者が学園の女生徒にちょっかい出すみたいな話をよく聞くし、そういうことをしたらどうなるのか1回教えてやらなきゃ行けないな。


「そっちの話は終わったかな?」


「そっちこそもういいのかよ、エイン。」


「うん、ユリアとはいつでも話せるからね。今はリュートと話したい気分なんだ」


「そうか。俺はまだシャルと話したから、ユリアーネ嬢と話してていいぞ」


「もう、リュートくんったら!」

「はぁ、ライト様と同じ顔でこんなこと言って欲しくないわ……」


 俺にスバっと言われたエインは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。シャルとエレオノーラはお察しの通りだ。


「冗談だよ冗談。つっても話すことないし、今の学園内の序列でも教えてくれよ」


「ははは!冗談だったのかい?まぁいいよ、序列だよね」


 そう言ってエインは学園内の序列について話してくれた。


 まず初等部の1年生は今はエインが首席、シャルが次席で2人ともSクラス出そう。エレオノーラもSクラスらしい。ユリアーネはAクラスらしく、早くSクラスに上がりたいそう。


 エインとシャルの首席争いは激しく、定期テストがある度に入れ替えがあるんだとか。


 学園全体の序列としてはベルン義兄にい様がトップに君臨していたが、前の事件によって入れ替わりが起きたらしい。今はヴァイオレット家の長女、つまりはユリアーネの姉が序列1位らしい。


「まぁでも、高等部からは俺が首席だ。首席の座を取られないよう、頑張れよ。どうしても首席を譲りたくないのであれば魔法科ではなく騎士科、法学科行くといい」


 高等部からは魔法科、騎士科、法学科がある。魔法科、騎士科はその名の通り。法学科は貴族家の次期当主候補が選ぶ道だ。


「いや、次期当主になるための勉強は家で出来るから。魔法科に進むよ」


 まぁ、騎士科に行っても法学科に行っても首席は無理だろう。騎士科はレント法学科はライトとジーク。詰みだ。どの選択肢をとっても皇族に阻まれる。


「そうか。まぁどの科に行っても首席は不可能だろうがな」


 俺はそう言って、えっ?、みたいな顔をしているエインに背を向け歩き始める。


 そろそろ誕生日パーティーも終わるだろうし、いい収穫もあった。あとは父上に先に帰る旨を伝え、帰るだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る