第80話 他人の恋愛状況


「こんばんはリュークハルト様でいいのかな?」


「ん?お前は……シュヴァルツ家の……すまん名前は思え出せない」


「あはは、良いですよ。初対面ですし。僕の名前はエイナルトです。エインでも良いですよ」


 あぁ。エイナルト・フォン・シュヴァルツ。ヴァイス家と合わせて2家しかない公爵家のひとつだ。巷ではモノクロ貴族なんて呼ばれている。ヴァイス家の人間は代々白系統の髪色、シュヴァルツ家の人間は代々黒系統の髪色だからだ。


「エインか。良い名だな。俺のことはリュートでもリュークでもリュークハルトでもなんでもいい。あと敬語も必要ない。普段敬語を使うような立場じゃないだろ?」


「そうかい?それじゃあリュートと呼ばせて貰うよ。学園で見かけないけど、君も特待生という扱いで、学園に通ってないんだよね?」


「君も?エインも学園には行っていないのか?」


「いや、僕も特待生なだけだよ。授業料が免除なだけなんだけどね」


 公爵家相手に授業料免除とか学園は何を考えているんだ?


「エインが優秀なのは分かったが、公爵家相手に授業料免除はナンセンスだな。金は取れる相手から取れるだけ取れるもんだ」


「あはは!確かに!でもそれなら1番金持ちな皇族が授業免除の特待生になってるのが1番ナンセンスじゃない?それも4人が」


「それもそうだな。シャルに関しても授業料半額の特待生らしいしな。俺らの代は上位の立場の人間に優秀な者が集まってしまったらしい。こればかりはどうにもならんな」


 実は俺たちが学園にかなり金を納めているということは言わない方がいいだろう。納めている理由としては寮にある。高等部からは普通に通う約束を父上としている。そして俺たちはベルン義兄にいさんと同じように寮暮らしになるはずだ。なので金を沢山納め、寮の改築を申請しているのだ。話を合わせるのも処世術のうちだ。


「そうだね。まぁ誰が特待生になろうと、学園に入るお金は変わらないしね」


「あぁ。そうだな」


 そう言いながらコップに入っている水を飲む。コップと言ってもガラス製では無い。そんな技術はないので、鉄で作られたコップだ。


「僕達なかなか気が合うね。これからも仲良くしてくれると嬉しいよ」


 一瞬、これが目的か?と思ったりもしたが、こいつは公爵家の一人息子だし、順当に行けば次期当主だろう。だから権力のあるものに近づくことは無いだろうということでその線はないと考えた。むしろ近づかれる側の人間だしな。他には一応コネを作るという考えもあるが、これは俺にも有益なので仲良くしていて悪いことはないだろう。


「そうだな。俺もエインとは仲良くしたいと思っている。歳の近い友人がいないのでな」


「あはは!確かに、学園に来なければ友達なんて作れないよね!」


「そうだな。しかし、友人を作ったところであまり構う機会がないので友人は少なくて良い」


 これは本音だ。どうせ修行をするか、シャルと一緒にいるかだし。


「皇族ってのは忙しいんだねぇ。授業免除ってくらいだから、城でダラダラしてるのかと思っていたけど、しっかりやらなきゃいけないことをやっているんだね。そう考えると公爵家に生まれて良かったと思えるよ」


「そう考えなくとも公爵家生まれは当たりだろ」


「あはは、確かにそうだね」


 先程からよく笑うエインだが、その黒い瞳は笑っていないように見える。


「話は変わるが、最近はヴァイオレット辺境伯家の次女にお熱なんだったか?」


 この国はロート辺境伯家とブラウ辺境伯家が西と北を守っている。ブラウ家はアングラック・フォン・ブラウの実家だ。辺境伯家としては宮廷魔法師団の団長補佐という位に着くことが出来ていい思いをしているだろう。


「うん、嬉しいことにお付き合いせてもらっているよ。でも、そうするとこの国のパワーバランスが崩れちゃう気がしてね」


「もう手遅れだろ。皇族と公爵家、公爵家と辺境伯家。たしかに力は集中してしまうかもしれないが、一応自由恋愛を謳っている国だ。仕方ない。それに俺の弟に至っては二侯の娘と仲良くしているらしい」


 そう、ライトはどこで知り合ったのか、侯爵家の娘さんと最近仲がいいらしい。二侯と言うのは侯爵家の呼び方だ。公爵と侯爵はイントネーションも同じなので、公爵家は公爵家、侯爵家は2番手という意味も込めて二侯と呼ばれている。


「へぇ、ちなみにどこの家か聞いても?」


「確か、ヴェルメリオだったかな。俺たちの1個うえのはずだ。時々城にやってくるんだよ」


「えぇ!あのヴェルメリオ家の!?彼女を手懐け他のかい!?」


「そうらしい。噂は聞いていたが、弟の前ではそれはもうデレッデレだったぞ」


 そう。ヴェルメリオ家の長女は塩対応で有名だ。その髪と瞳は情熱の赤なのに。あぁ、今のご時世、そういうのは何ハラとか言われる時代か。まぁ、彼女の親のヴェルメリオ家当主はとにかく暑いやつ。あいつがいるだけでその場が暑くなる。そんなやつを親に持ちながら、冷たい女が誕生してしまったのだ。


 いや、暑い親を見て冷たくなってしまった可能性もあるな。まぁ、そんなことはどうでも良くて、塩対応で有名な奴がライトの前だとデレッデレになるのだ。


「それは……。普段の彼女からは想像がつかないね。まあそれだけリュートの弟さんが魅力的なんだね」


「そうかもな」


 そんな世間話をしていると、


「ちょっと!変なこと言わないでちょうだい!」

「エイン様、わたくしとのお付き合いに乗り気ではないのですか?」


 噂をすればなんとやら。ヴェルメリオ家の長女サマとエインの彼女こと、ヴァイオレット家の次女サマがやってきた。

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