第79話 プレゼント

「この度はご招待頂きありがとうございます。今日は楽しいパーティーになるといいね、シャル」


「愛称で呼び合う仲なのだからやはり婚約者同士なのね!」

「お父様の言っていたことは間違っていなかったんだわ」

「やはりシャーロット嬢は殿下と婚約していたのか……。くっ」

「玉の輿に乗れる確率が下がったわね……」


 俺とシャルが初っ端から婚約者ムーブをかますと、シャルの友達であろうものたちの声があちこちから聞こえる。純粋に興味の目を向ける者、両親から聞いていたが半信半疑であり今回それを事実と認めた者、シャル狙いの子息、俺狙いの令嬢。


 会場を埋め尽くすほどの人がいるのにも関わらず、俺の前には何も無い。あるのは先にいるシャルのみ。みんなが俺が通る道を空けたのだ。


 その出来た道を堂々と歩む。


 陛下が登場しているのだからみんな膝をつき頭を下げているが、サイドからは子息令嬢の話し声。頭を下げながら近くの者と何かを話しているらしい。器用なものだ。


 俺の後ろを父上母上が続く。


 ――カツ、カツ、カツ


 俺が履いている靴の性質上、カツカツと音が鳴る。


 ――カツ、カツ


 そしてシャルの目の前までやってくる。


「誕生日おめでとう、シャル。本当は日付が変わったら直ぐに伝えに来たかったんだけど、立場上許されなくてね」


 これは本音だ。公爵邸に忍び込むことも考えたが、良くないと判断し、この時間まで待つことにしたのだ。


「構わないわ。リュートくんに祝って貰えるだけで嬉しいもの」


「そう言って貰えると助かる。……これは誕生日プレゼントだ」


 俺はそう言って異空間収納からシャルへの誕生日プレゼントを取り出す。


「……ペンダント?前にも貰ったじゃない。魔力流したら場所わかるやつ。これこれ」


 そう言いながらシャルは前にあげたペンダントを触る。


「うん。でもさ、それってあまり性能良くないんだよね。だから新しく作ったんだ」


「でもこれはリュートくんからの最初のプレゼントよ?お飾りにはしたくないわ」


「うん。そう言ってくれると思っていい案を持ってきたんだ。とりあえず、そのペンダントとこれ交換しよう」


「えぇ、分かったわ」


 シャルはそう言うと、壇上から降りてきて俺の前までくる。そして、俺に背を向ける。


 ……ペンダントをとれってことか。


「はいよ」


 ペンダントを付け替え、旧ペンタントをシャルの前でブレスレットに変える。これは錬金術のひとつだ。物質を変えるだけが錬金術では無い。物質は同じでも見た目を少し変えれるのも錬金術の魅力だ。


「わぁ!こんなことも出来るのね!それで!?このペンダントの効果は!?」


 やはりそう来たか。


「前の能力に加え、任意で結界を張り、光線ビームを出すことができるようにした。あとは俺もお揃いのものをつけている。そして俺のとシャルのペンダントはリンクさせてある。これでどこにいても話ができるぞ。あと魔溜も付与している。毎日コツコツと貯めておくことをおすすめする」


 そう、このペンダントにはかなりのモノを付与した。ちなみに、話が出来るというのはこのペンダントを通じて意思を送る程度のものだ。それでもすごい技術だと自負している。


「すごい!嬉しい!正直他の人はとりあえず高いものをあげとけばいっかみたいな考えが見えすぎて、てつまらなかったんだよね!本当にありがとう!リュートくん!」


 あぁ、この笑顔のためなら頑張った甲斐があったな。流石のミスリルでも文字の制限かあり、なかなか難しかった。しかし、その先にこの笑顔があると思うととても頑張れた。そして今、とても報われた気がする。


「とりあえず高いもの……」

「やはり公爵令嬢には高価なものは向かないか……」

「我々に高いもの以外を用意する選択肢などないというのに」


 そう愚痴をこぼすのは貴族当主陣。または豪商。まぁ、金を使うしか選択肢がないやつらはそうなるよな。こっちは愛があるからな。愛が。


「うん。喜んでもらえたのは嬉しいが、あまり大きな声でそういうことを言うと傷つく人がいるからあまり言わないようにな」


「ハッ、そうだった!まぁ別にお父さんが勝手に呼んだ人たちだし、私には関係ないよ」


 小さな声でそういう彼女からは面倒くさそうなオーラが出ていた。スーナーさんはこの場すら政治の場だと思っているらしい。


「そっか。まぁ気にす必要はないな!」


 俺はそう言いながらシャルの頭を撫でる。


「シャーロット嬢よ、誕生日おめでとう。これからも愚息を頼むよ。プレゼントの方だが、貰った方が迷惑かと思い、今回は見送ることにした」


「おめでとう!シャルちゃん!これからもうちのリュートちゃんをよろしくね!」


「あ、ありがとうございます!」


 おお、分かってるじゃん父上。皇帝から誕生日プレゼントなんて貰っても困るしな。母上は余計なこと言わんでよろしい。


「それじゃあこっちはこっちでパーティーを楽しむから。シャルも楽しんでな」


「うん!」


 そう言ってシャルに背を向け、食事の方に向かって歩き始める。


 ――ダダダダ!


「シャーロットさん!?やはり殿下とご婚約されていたのですね!?」

「でも魔帝様でしょ?怖くないの?」

「序列戦の顛末を聞いているから魔帝様って怖いイメージあるあのだけど……」


「魔帝って、ふふっ、リュートくんはリュートくんだよ。たとえ魔帝になっても変わらない。大切なものを守る時は残酷な行動をする時もあるけど、基本は優しい方よ」


「きゃ~!ラブラブなのね!」

「私もかっこいい殿方と婚約したいものですわ!」

「末永く爆発してくださいまし!」


 ついつい聞き耳を立ててしまったが失敗したな。かなり恥ずかしい。


「良かったわねぇ~リュートちゃん?」


「恥ずかしいので黙っていてくださいお母様」


 その後、俺はパーティーの食事を楽しんでいた。

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