第77話 勧誘


 ――コンコンコン、ガチャ


「待たせて済まない。早速話し合いを始めよう」


 来賓室に入り、インジナーと対面する。


「いえいえ、全然待ってないですよ」


「そうか。ありがとう。早速本題なんだが、いいか?」


「どうぞ~。それで、殿下は何を作ろうとしてるんだい?」


 なんとも緩い。しかもちょっと訛ってるから余計緩い。


「あぁ、アクセサリー類を考えている。指輪かネックレスか。あるいはインジナー殿のおすすめがあればそれも視野に入れたい」


「……アクセサリー類?舐めてんのかい?そんなん作るんやったら宮廷技師でドワーフの奴に頼めばいいじゃなかい」


「確かに今の貴殿と宮廷技師では宮廷技師に軍配が上がるだろうが、1週間真面目に彼らから技術を盗んだ貴殿なら最高の職人になれると思っている」


 ドワーフとは数ある種族の1つだ。彼らは背が低く、髭を伸ばす者が多い。若いものでもかなりいかつい顔面をしていることがある。それに加え、大抵のドワーフは鍛治の才能値はC+以上。


 宮廷技師長である親方の鍛治の才能値はB+。インジナーの鍛治の才能値はA。これはこの前インジナーに聞いた話だが、祖父にドワーフがいるらしく、彼女はクォーターだそうだ。どうりで身長が小さいわけだ。


「まぁ、あんたがそこまで言うならやってやろうじゃないか」


「あぁ、感謝する」


 褒めれば案外コロッといっちゃう感じ?


「それで?何を使ってアクセサリー作るんだい?まさか鉄なんかじゃないだろうね?」


「もちろん。今回使用するのはミスリルだ」


 ミスリル。魔導率が高く、魔法を使う人間にはもってこいの素材。また、付与魔法においても書ける文字数がかなり多いのが特徴だ。


「ミスリルか……。流石皇族と言ったところかね。昔1度だけ使ったことがあるが、なかなか上手くいかなくてね。宮廷技師長が直々に教えてくれるのであればそりゃもう喜んで作るよ」


「ありがとう。それじゃあ契約完了だ。何を作るかは別に今決めなくても良い。とりあえず親方のところに行って挨拶でもしよう」


「そうだね。案内頼むよ、殿下」


「わかった。鍛冶工房でいいか?錬金工房の方は今忙しらしくて」


「構わないよ」


 そしてそのまま城の敷地内にある鍛冶工房に連れていく。


 ◇

 ――鍛治工房


「親方ぁ!連れてきたぞぉ!」


 カンカンコンコンとうるさい鍛治工房にやってきた俺たちはどデカい声で親方を呼ぶ。


「ん?あぁ!やっと来たか!若!」


 親方が俺を若と呼ぶのは俺が次代の皇帝になると信じてやまないかららしい。俺はなるつもりないと言っても、やめてくれなかった。


「おう。こいつだ。とりあえず今日は俺も付き添うが、色々と教えてやってくれ。ちなみにドワーフとのクォーターだ」


 緊張からか俺の背に隠れているインジナーの背中を押しまえにたたせる。


「い、インジナーと言う。ここに殿下に誘われる前は市場の露店で色々売っていた」


「そうかそうか!まぁ坊ちゃんが見つけてきたってことは逸材なのは間違いないな!一応基礎とかはわかってるんだろ?」


 親方からの厚い信頼を得るにはかなり時間がかかった。でも将棋やオセロなど、色々なアイデアを出し、親方達と作っているうちに認めてくれ、仲良くなった。


「えぇ、一応基礎は」


「おいおい、さっきまでと口調が違うじゃないか。なんでそんなかしこまってんだ」


「や、やめてくれ!恥ずかしいじゃないか!」


 ここに来てから少し畏まった口調になっているインジナーに茶々を入れる。この場で畏まるのは悪手だ。なぜなら――


「あ?あんた本当の自分を隠してここにいたんか?そりゃダメだな!わしら職人は本当の自分をさらけ出してこそだ!別にかしこまんなとは言わねぇ。だが本当の自分を出さなきゃいい作品は作れねぇってことだけ覚えてろ」


 うんうん。親方の言うとうりだ。新人として入ってきた宮廷技師達は最初、畏まっていた。しかし、彼らの技術は上手く発揮されなかった。だが、親方や彼らが遠慮なく色々言い合える間になった頃から彼らの作品の質は大幅に向上したのだ。


「そうかい。わかったよ。それじゃあ私は遠慮なくやるとするよ」


「ガハハ!それでこそドワーフだ!」


 そう言って親方はインジナーではなく俺の肩をバシバシ叩いた。


「いや、いてぇから。やめて」


「お、おぉ、悪かったな」


 普通に悪気はなかったらしい。


「それで?若はこいつに何を作らせようとしてんだ?」


「そうそう。アクセサリー類を作ってもらおうかなってかんがえてるんだ」


「アクセサリー類ぃ?それなら専門のやつに付かせるか。じゃあ武器とかを作るつもりはねぇんだな?」


「いいや、常々武器の製作をしてみたいと思っていたんだよ。とりあえず2週間の間はアクセサリー類の製作に力を入れるけど、それが終わったら親方さんから武器作りを学んでもいいかい?」


 こいつ、シャルへの誕プレ作ったあともここに居座ろうとしてんな?


「そうだな~~」


 考える素振りをしながら俺の方をチラチラと親方が見てくる。……なるほどそういう事か。


「原則、部外者は此処への立ち入りは禁止している。例外は皇族またはここに所属する者が招待した時のみ。つまり、2週間後にはインジナーがここに入れる口実が無くなる」


「そうかい。それなら武器作り諦めるとするかねぇ」


「諦めるのは早い。俺は部外者と言った。つまりお前が正式にここに勤めることになれば部外者じゃなくなる。どうだ?」


 部外者じゃなければ出入りは自由だ。しかし、宮廷技師になるのはそんなに簡単じゃない。しかし、世の中にはコネというものがある。こいつにはここにコネ入社してもらう。


「そんなことがまかり通るのかい?」


「俺と親方から推薦状をだす。それだけで絶大な効力だ。そしてお前なら入った後に実力をつければいい。才能はあるのだから、着実に実力を伸ばせ」


 コネ入社して使えないやつだったらダメだが、周りの連中を圧倒するような実力があれば誰も何も言わないだろう。


「いい案だな!坊ちゃん!それで行こう!」


「そ、そんなに買ってくれるのは嬉しいけど、いいのかい?本当に」


「あぁ。父上からはその辺は俺に任せると一任してもらった。それに国にとってプラスな人間なら是非勧誘しろとの事だ」


 これは本当のことだ。


「嬉しいねぇ。そんじゃこれからもお願いするよ、親方」


 こうして今日からインジナーの特訓が始まった。

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