第76話 錬金魔法
『あぁ、いいところに。あとは頼んだ』
『おまかせください』
アイからの願ってもない助け舟乗っかる。
……久しぶりの感覚だ。7年ぶりか?赤ん坊の時に魔法を使うためにアイに身体の主導権を渡した時以来だ。
視覚聴覚などの五感はあるのだが自分の意思で、腕や足、視線などを動かせない。これはかなりもどかしいぞ。
「これは……なかなか成長しましたね。
アイによって俺の口から発せられた言葉だ。
『7年も経てば成長なんていくらでもする』
「そうですね。では早速始めましょうか。血を流しすぎていてこの体が持ちませんよ」
『いや、うん。それはわかるんだけどね?一々口に出さないでいいから。俺が普段やってるみたいに頭ん中で話そうや。傍から見たらやばい人だって』
「自分の体をナイフで刺してる人の方がやばいですけどね」
……なんも言い返せねぇ。刺しては回復を繰り返してたからなぁ。傍から見たら気が狂ったやつに見えるだろう。
「まぁ、良いです。個体名アイの名の元に命ずる、神眼発動。不足している血液量を確認。確認しました。錬金魔法・血液生成」
はぇ、錬金魔法便利だなぁ。血液なんて作れるんか。
「まぁ、これくらいは」
『流石だな!て言うか、なんで全部口に出してやってたんだ?普段は静かに演算してるじゃん』
「私と
なるほどね、声に出すと整理しやすいもんな。でも、こんな変な呪文みたいなことを言っているところは誰にも聞かれたくないよね。
『錬金魔法って便利だね。使い方は知らんけど。創造魔法的なやつでしょ?』
前に教えてもらったことがある。しかし理解しきれなかったので、なんでも作り出せる創造魔法みたいなもんだと言われたら理解出来た。
「えぇまあ。でも総魔力量から削って生成するのでおすすめはしません」
だよなぁ。
アイに聞いたところ926万あった魔力量は925.4万になってしまったらしい。6000の魔力を犠牲にして血液を生成した。ちなみに精霊王戦から魔力を1万増やした。
6000なんて少ないと思われがちだが、総量から6000引かれたのだ。つまり最近は魔力が全回復したら魔力の母数は926万になっていたのに今では925.4万が魔力量の最大値になってしまったのだ。
まぁ、また頑張って増やせばいいんだけどね。
さらにさらに、今回はアイが血液を生成したから6000の犠牲で済んだが、俺がやったら万単位で削れたらしい。これもイメージ力、理解力によって変わるらしい。そりゃ、神が作り出したAIだからな。必要最低限で済んで当たり前だ。
「それでは主導権を戻します」
『わかった』
次の瞬間体に感覚が戻ってきた。
「うおっ、と」
急に体に重みが来たので少しふらっとしてしまった。
「さっきよりはだいぶマシだなって言うか、常時と同じくらいだ。錬金魔法すげぇな」
自分自身を鑑定し、称号を調べてみたが、光之神にはなっておらず帝位のままだった。しかし、魔法の探求者という称号を得ていた。
◇
魔法の探求者
魔法の技術を向上させる為なら自分を傷つけることすら厭わない魔法バカにだけ贈られる称号
◇
貶してんのか褒めてんのかどっちだよ
「とりあえず、時間も時間だし、戻るか」
そう、俺は数時間自分の体を刺し続けていたのだ。数分数十分ではなく。ここまでしても神位に届かないってどーゆー事?
そんな疑問も持ちつつ俺は訓練場を離れ、城内に戻る。
◇
「よう、アニキ戻ったか。それより、さっきは何してたんだ?悲鳴が聞こえたが……」
食堂へ行くと、レントから急に質問をされる。
「あぁ、まぁ……自分の体をぶっ刺してただけだけど」
とりあえず正直に白状する。すると、レント以外の家族全員が、え?、みたいな顔をする。
「いや、それは見てたからわかる。なんで自分の体をぶっ刺してたのかを知りてぇんだよ」
「あぁ、そういう事ね。ちょっと回復魔法を鍛えようかなって思って、1番いい練習だろ?」
痛みを自分で味わった方が、より、完璧に回復したいと考えるしな。上達が早そうってのは後付けの理由だ。
「え?てかまず、体をぶっ刺してたってなにでですか?」
「自分で作った氷のナイフ」
「えぇ……兄さん、シャーロットさんに振られたの?大丈夫だよ、兄さんイケメンだし、強いから引く手数多だよ」
なんて、ライトが言い始める。
「いや、今言ったよね?回復魔法の練習だって」
ほんと、人の話を聞いて欲しいよね。
「もし」
「?」
「もしそれが事実なら、今度からは余を頼れ。死刑囚を貸し出してやる」
へぇ、こっちの話に父上が首を突っ込むなんて珍しいな。でも死刑囚も一応生きた人間だしなぁ。
「それはとてもありがたい話ですが、あまり人の体を何回も傷つけて回復するなんて怖いことしたくないです」
「なにかの手違いで皇族を失うよりはまじであろう?」
確かに、既に1人皇族は減っているしなぁ。
「それはまぁそうですけど」
「乗り気ではないか。では、殺人罪、強姦致死罪、貴族子女誘拐罪」
「え、は?なんのことですか?」
「これらの3つの罪を全て犯した人間が2人いる」
クズだな。前者ふたつはもちろん、後者に至っては下手すりゃ国家反逆罪に問われることもある。
この3つは帝国法で定められている法律の中でTOP4の罪だ。死刑になるのは当然だろう。
しかし、そんなやつでも人間。死刑囚であっても一応生きているのだ。
「カスですね。心身ともに1度、罰を課す必要がありそうです」
そういうことをした人間がどうなるかというのを市井に流せばそういうことをする人間は減るだろう。
要はさらし首だ。必要な犠牲になってもらおうじゃないか。
「流石は余の息子だ。やり方は任せる。死刑の執行はいつやっても構わん」
「はい、わかりました。……なんだよ?こっちみやがって」
レントがこっちをじっと見るもんだからつい先程の調子で荒々しい口調になってしまった。
「いや、親父もアニキもえげつない話するなって」
「お
「な゛ッ。し、シンシア、これは違うんだ。これはこれ以上犠牲者を出さないための、さ、作戦だ!そう!作戦!」
シンシアは作戦が大好き。将棋やオセロをやる時は事前に作戦を打ち合わせして一緒にやっていたりする。
「作戦!?それは悪いことじゃないの!お
な、なんとか乗り切れたようだ。シンシアに嫌われたくはないからな。
――ガチャ
「お食事中失礼致します。ただいま、インジナー様が到着されました。どうしますか?」
扉からクリアーダが入ってきて言う。
「なるほど……それじゃあ今から向かう。伝えてくれ」
俺は自分の皿の上にもう何も乗っていないことを確認し、直ぐに向かう旨を伝えるよう指示を飛ばす。
「かしこまりました。それではそのようにお伝え致します」
そう言ってクリアーダは直ぐに出ていった。
「そんじゃ、俺も行ってきます」
俺はそのまま来賓室に向かう。インジナーと今後について話し合うためだ。
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