第75話 最短ルート


「それにしても未だにあそこで燻っているとは思いませんでした」


「そうだな。まさか俺からの誘いを待つためだけに他の貴族からの誘いを断ってたのも驚いたな」


「3年もですよ。これは大物になりそうです」


「だな」


 インジナー勧誘した帰り、クリアーダと帰りながらそんな会話をしていた。


 ◇


 ――翌朝


「アニキ、今日の午後は訓練しないんだろ?」


「あぁ。ちょっと用事があってな。それが終わったら行くかもしれないが」


「別に来なくていいぜ。オレの方が強くなるだけだからな!」


 とりあえず朝の訓練を終え、朝食を摂っているとレントから挑発された。


 ちなみに、昔の訓練のルーティーンは、起床→訓練→体を流す→朝食→訓練→体を流す→昼食→訓練→体を流す→夕食。だったが、最近は朝食後の訓練をなくし、体を休め、午後からの訓練に精を出している。


 しかし、今日は午後から予定があるので、俺は朝食後にも訓練をする予定だ。


「言っとけ。剣術一辺倒のお前に負けるほど弱かねぇ。最近は槍術もいい感じらしいが、弓術も出来なきゃお前の目標には届かねぇよ」


 レントの目標はグロウスティアだ。グロウスティアは最近槍術を王位、格闘術を聖位まで上げ、槍之王と闘之聖の称号を得たそうだ。弓術は才能がDだったので聖位にすら届いていないとか。


「……そうだな。アニキの言うとうり剣術以外もやるよ」


「おう、頑張れよ」


「おう!」


「リュートに負けないように頑張ってくださいね」

「リュート兄さんは強いですしレント義兄にいさんの目標としては丁度いいですね」

「がんばって!」


「お、おう」


 ジーク、ライト、シンシアから頑張れコールをもらったレントは満更でもなさそうな顔をしている。というか照れてる。


「まぁ、俺が魔人族になってから勝ててないもんな。剣、槍、弓、格闘、全部で帝位を得ることが出来ればお前も進化できるかもしれないな?」


 魔人族になる条件は魔法系の称号を全て帝位にすることだ。では武闘系の称号を全て帝位にしたらどうなるのだろうか。おそらく進化するだろう。


 魔法系より称号の数が少ないから簡単かと思われがちだが、魔法使いの総数は武闘派の総数の10分の1もいないので一概に簡単とは言えない。



「そうだな。魔人族ってのは魔法に特化してるんだろ?じゃあオレが進化すれば武術に特化した種族になるってことか?」


「そうかもな。まぁそのためにも色々と習得しとけ」


 俺はそれだけ言い残し、食堂を出る。


「昼頃にインジナーの元へ馬車の手配をたのむ」


 俺と一緒に出たクリアーダに指示を飛ばす。


「かしこまりました」


 俺から離れ手配をしに行くクリアーダとは別に、俺は訓練場に向かう。やるべきは魔法系の称号を全て神位にあげること。これを目標にする。


 ◇

 ――訓練場


 ◇

 炎之帝 水之神 風之帝 土之帝 光之帝 闇之帝 時空之神 氷之神  雷之神

 ◇


 俺は魔帝の内訳を思い出す。


 そう言えば氷魔法は帝位から神位に上がっていた。


「まだ神位に到達していないのは火・風・土・光・闇だな。土と闇は精霊王戦でやったから他のがいいな。じゃあ、光にしよう」


 光魔法は精霊王戦で最も活躍したと言っても過言ではない。何せ最後の一撃を精密焦点光線レーザービームで倒したし。


 光魔法は攻撃にも使えるが、回復系として用いられることの方が多い、というか普通は回復手段として使われる。


 宮廷魔法師団の第1席である、第1魔法師団長アインスこと、アルト・フォン・フラウは回復魔法の名手だ。彼女は結構な歳だが、彼女がいなければこの国はこんなに強くなっていなかった。


 彼女がどんな傷も治せるようになってからは兵士たちが訓練で少しデカ目の傷を負ってもアルトさんが治してくれるのでなんの心配もなく、みんなが全力で訓練に取り組めていた。


「じゃあ、回復魔法を練習するか」


 魔法とはイメージだ。イメージ力が高ければ消費する魔力量も少なく済む。魔法を使う時の魔力ってのはイメージの補完にすぎない。しかし、アルトはこの世界の人間だ。現代の地球のように医療が発展している訳では無いので当然イメージ力は無い。


 しかし、自ら動物の解剖などをし、体の構造を知り、少しずつイメージ力を強くした。それでも現代人には勝てない。では、どうやってそこにたどり着いたのか。それは圧倒的魔力量。


 イメージの補完に過ぎない魔力を最大に使い、足りないイメージ力を補完しまくったのだ。


 しかし、そんなことをしてしまえばすぐに魔力は尽きる。では、俺の目指す場所は圧倒的な魔力をイメージ補完に使わずに回復を行うこと。


 少ない魔力量でアルトと同じようなことが出来れば俺が光之神をアルトから奪取することも可能だろう。


 そうと決まれば――


 ――グサッ


「グッ、」


 自傷行為しかなかろう。俺は自分の太ももを氷魔法で作ったナイフで刺す。


「い゛っでぇ~~ッ!」


 あまりの痛さに必要以上の魔力を使い、回復してしまった。


「はぁはぁ、痛すぎるだろ。なんだこれ」


「キュウ!」


「ヴォルゥ~いでぇよぉ。光魔法はまた今度でいいかなぁ?」


「キュッ!」


 ヴォルは否定的な返事を返す。


「そ、そうだよな。その辺の動物を連れてくるのにも時間かかるし、なんも関係ない動物に傷を与えて回復するなんてサイコパスなことやりたくねぇし、自分でやるしかねぇよな。これが最短ルートだろ?」


「キュッ」


「だよな」


 ――グサッ


「イ゛ッッ、ふう、ふう、回復ヒール!」


「あ゛ぁ~痛みが消えるぅ」


 ――グサッ


「グッ」


 ――グサッ


「ッッ!」


 ――グサッ


「……」


 あれ、何回も刺してたら感覚なくなってきた。と、言うかめっちゃクラクラする。


 俺は刺しては回復を数十回は行った。おそらく貧血だろう。貧血は光魔法で治せないのか?


『はぁ、なんのための錬金魔法ですか?主人マスターしか使えない錬金魔法を練習しないで何してるんですか。いいから身体の主導権を私に譲ってください』


『あぁ、いいところに。あとは頼んだ』


『おまかせください』


 ◇


 side: Leonhard Von Stark


「い゛っでぇ~~ッ!」


 オレが自室でリラックスしていると外からアニキの叫び声が聞こえる。試しに訓練場まで見に行くと、その場で座り込み、腕やら太ももやらを自分で刺し、自分で回復しているアニキの姿があった。


「ま~たへんなことしてんな?あんな馬鹿みたいなことはオレには出来ないな」


 変なことをしているアニキを放ってオレは自室に戻る。


 ……本当に何やってたんだアニキは。

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