第74話 三年振りの再会


「それじゃあまた」


「うん、ありがとう!また明日ね!」


 シャルをヴァイス邸まで徒歩で来ていた。ちなみにクリアーダも一緒だ。


 帝都では爵位が高いほど、城との距離がちかくなる。ヴァイス家は公爵家なので、当然、城との距離は普通に近い。


「それじゃあ目的地に行くか」


「そうですね」


 クリアーダを伴い、貴族街を抜け、城下町まで歩く。


「流石に長いですね。やはり馬車で来た方が良かったのでは?」


 今頃気づいたのか、クリアーダが当たり前のことを言う。


「いや、馬車で市場まで行くなんて流石に注目を浴びすぎる。ただでさえ俺は顔が割れてるんだから。なんのためにこんな地味な服装をしたと思ってる」


 そう。市場に行って、注目を集めないよう、馬車でなんて来てないし、皇族が着るような高価な服も着ていない。お忍び用の地味目な服だ。


 ジーンズのような色のパンツに白い長袖シャツ。それにマントを羽織った服装。この世界の量産型だ。動きやすさを重視したスタイルである。


「それもそうですね。こんなに地味な格好をした子供を皇族と思う人間などいないでしょうね」


「だろ?」


 そんな当たり障りない会話をしながら城下町まで下る。


「また来たのか坊主!買ってくか?」


「ん?あぁ。それじゃあ2本いただく」


 串焼き屋のおっさんだ。このおっさんとは3年前奴隷商のついでに市場に行った際初めてあった。そんときはおまけしてくれたが、最近は全然おまけしてくれないんだよね。おっさんなんて言ってるけど、年齢はまだ40過ぎだ。


「ほいよっ。そう言えば数ヶ月ぶりだなぁ!昔は毎日のように来てたのに」


「すまんな。こっちにも色々あって」


 おっさんの言うとうり、この屋台を知った後は毎日のように来ていた。


「まぁ、別にいいけどよ。やっぱり坊主は子供らしくねぇな!」


 このおっさんは初対面の頃、俺の服装が少し豪華だったので、貴族だと思いタジタジしていた記憶がある。しかし、普通に接してくれるのはありがたい。目上の人間だと思った相手でも、向こうがそれを隠したいことを読み取る力も商売をやっていく上で必要なスキルなのだろう。


 ちなみに、おっさんは、家が少し金持ちな商人の息子という設定で突き通している。


 嘘だとわかっていながら付き合ってくれるのは非常にありがたい。


「そーゆーおっさんこそ、その辺のおっさんたちとは元気が違ぇな?若く見えるよ」


「お、そうか?そりゃ気分がいい。1本つけとくぜ」


 よっしゃ。


「サンキュ」


「そう言えば」


 お礼を言い、その場から去ろうとしたところ、おっさんが続ける。


「家内が言ってたんだが、新しく第2魔法師団長になった子供と坊主はよく似ているらしい。その第2魔法師団長ってのは皇族らしいんだ」


 核心をつく言葉だった。


「……そうなのか。うちは金持ちだし、遠い親戚に皇族がいてもおかしくないかもな」


 帝位を継がず、爵位を得ることもしなかった皇族は商売を始めたりすることもあるらしい。そういう意味でおっさんに伝える。


「なるほどな。まぁ、俺は第2魔法師団長の顔なんて見たことがねぇからなんとも言えねぇがな!ガハハ!」


「相変わらずうるさい笑い方だな。客が減るぞ?」


「もし経営困難になったら坊主のところで雇ってくれや」


 俺のからかいに上手く返すおっさん。


「いいねぇ。でも変な笑い方するジジイはいらねぇからせいぜい上手く商売しろよ」


「おう!坊主も色々頑張れよ!」


「うぃ、そんじゃーな」


 そしてようやくその場から離れる。


 ……あれ?あのおっさん奥さんなんていたっけ?まぁいっか。



 串焼き屋おっさんと挨拶を交わし、更に奥に進む。


「あのキツネ顔まだいるかな?」


「五分五分と言ったところでしょうか」


「そうだよなぁ」


 あのキツネ顔の職人兼商人がいたのは市場の中でも目立たない場所だ。目の利く人が市場に来れば、目立つ場所にいる腕の良い職人だけ見つけ、目立たない場所にいる者を見る前に満足して帰ってしまう。


 3年前は目立つ場所目立たない場所なんて関係なく見ていたのでたまたま見つけただけだったのだ。


 それに最近は市場に来てもそこまで奥まで行かずに帰ってしまうことが多いので彼女がまだいるかなんて分からない。


「確か、この辺だったよな」


「はい、相当腕の良い者だったので既に勧誘されていてもおかしくないですね」


 歩きながらクリアーダに確認するがクリアーダ的に、もうキツネ顔の女はいないと予想しているらしい。


 しかし


「え、あれじゃね?」


「……本当ですね」


 少し離れたところに見つけてしまった。椅子に座っている彼女を。


 机の上に櫛をたくさん置いて販売しているスタイルは今も変わらないらしい。


「よう、久しぶりだな」


 相変わらずのキツネ顔にお団子頭。何も変わっていない彼女に話しかける。


「ふふっ。ようやく来たわね。待ち侘びたわ」


「……どういうことだ?」


 よく分からんことを言う。待ち侘びた?


「3年よ。それで?私に用があるんだろう?」


 どうやら、お見通しらしい。


「あぁ。お前に頼みがあって来た」


 俺がキツネ顔の女と話していると周りの露店の商人たちがコソコソと話し出した。


「またかよ」

「どうせ今回も断るわ」

「何が目的なのかしら」


「……お前、貴族や名のある豪商たちの誘いを断ってまで俺が来るのを待ってたのか?」


「さぁね。まぁ、君のお願いとやらを言ってごらん。くだらないことだったら断るわよ」


「なるほどな。いいだろう」


 おそらくこいつは金が目当てでこの商売をしている訳ではなさそうだ。自己満のためと見るのが妥当だろう。


 しかし腕が良いだけに貴族達から声をかけられる。しかし、貴族の子飼いの職人になれば自分が1番作りたいものを作る暇なく、向こうが作らせたいものを作らなければならなくなる。自己満のためにやってる彼女からすればいい迷惑という訳だ。


「それじゃあ、聞かせてごらん?」


 彼女は期待の眼差しを俺に向ける。


「ああ。今度婚約者の誕生日があるのだが、何か贈り物をしたくてな。貴殿にその製作をお願いしたい」


「はぁ。あんたもかい。さっさと帰れ。うちはもう閉じるよ」


 どうやら彼女の期待に応える答えを出せなかったらしい。


「ちょっと待ってくれ。最後まで聞いて欲しい」


 そして俺は彼女に全てを伝える。


 婚約者は公爵令嬢であること。そこから察するに高価なものはたくさん貰うだろから、ただただ高価なものをあげるのは違うなと思ったこと。そして、プレゼントの製作を1から10までお願いする訳ではなく、俺も手伝いたい、というか付与魔法を施し、世界にひとつだけの贈り物をしたいこと。を伝えた。


「なるほどねぇ。公爵令嬢、か。うちには荷が重い。流石に降りさせて貰うよ」


「だから、ちょっと待ってくれ。確かにあんたの作品はすごいものだ。しかしまだ荒削りだ。宮廷技師から技術を教わり、よりすごいものを作って欲しいんだ」


 俺はそのまま彼女のことを鑑定する。


 ◇


 名前:インジナー・エルケンス

 年齢:26

 種族:人族

 称号:技師 商人


 武術

  剣術 C

  槍術 C

  弓術 D

  体術 E


 魔法

  火 C

  水 F

  風 F

  土 D

  光 E

  闇 F

  時 F

 空間 F

  氷 F

  雷 F

  無 C

 錬金 F


 生産

  錬金 B+

  鍛治 A


 資質

  統率 D

  武勇 E

  政治 C

  知略 C


 ◇


 そう、インジナーさんは鍛治と錬金術の才能が飛び抜けているのだ。こいつを宮廷鍛冶師、宮廷錬金術師の元で1週間も学ばせれば化けるはずだ。2週間後にシャル誕生日なのでそれまでには間に合わせたい。宮廷技師は宮廷鍛冶師と宮廷錬金術師の総称だ。


「そうかい。それなら宮廷技師とやらと共に製作すればいいじゃないか」


「そういう訳では無いんだ。1週間、プロの元で学んだお前ならプロよりもすごいものを作れると思ったからわざわざ来たんだ。言っていることがわかるか?」


 錬金術の才能がB+、鍛治に至ってはAこれは天才だ。独学でここまでの作品を作れるのだから、プロから学べばすごいことになりそうだ。


「そこまでうちを買ってくれるのなら、乗るしかないね。その仕事引き受けたよ」


「おぉ!まじか!それじゃあいつからにする?出来れば早い方がいい」


「そうだね、今日店を畳んで色々やるから、明日の昼頃には準備が整うはずだよ」


「そっか。なら昼頃にここに馬車を用意させる。それに乗って城まで来い」


「すごい高待遇だね。嬉しいもんだ。それじゃあよろしく頼むよ」


「あぁ、こちらこそ」


 そう言ってインジナーさんはさらに奥に進んで行った。


「良かったですね」


「あぁ、そうだな」


 クリアーダとその後一言二言交わし、帰ることにした。

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