第73話 なんでもいいは1番困る


「じゃあ、それだけだから。協力ご苦労さん」


「ばいばーい!」


「それでは」


 俺がレント達に言うと、シャル、クリアーダと続く。


「ちょ、ちょっと、待ってください」


「ん?なんだ?」


 レントたちに背を向け、俺の部屋に戻ろうとしたら、シルフィードに止められてしまった。


「さっきのは魔法ですよね。どうやったか教えて貰うことは出来ませんか?」


「いや、別にいいけどさ、シルフィードって、風魔法以外詠唱使わなきゃ魔法使えないじゃん」


「え、自分で言いますけど、風魔法だけでも無詠唱はすごいと思うのですが」


 さも当然のようにシルフィードは言う。


「いや、まぁどの魔法も無詠唱で放つ俺がおかしいのはわかってるし、無詠唱魔法自体すごいのはわかってるよ。でも俺が使ったのは無属性と闇属性の複合魔法なんだよ」


 正確には分からないが、使用感的に無属性と闇属性かなって考えただけだ。魔法は使う属性によって、感覚がちょっと違うんだよね。サッカーのゲームとかも、使う選手の能力によって使用感が全然違うし、そんな感じ。


 今回の言魂は発した言葉に魔力乗せただけだけど、普通、そんな高度なこと出来ない。


「つまり、無属性と闇属性の複合魔法を1人で、それも無詠唱でやったと言うことでよろしいですか?」


「あぁ、だからそう言ってるじゃん」


 確認は大事だ。でも1回で理解したことは2回も聞く必要ないだろ。


「ふぅ。いいですか?複合魔法なんて、通常1人でやるもんじゃないんです!それも無属性と闇属性だなんて意味のわからない組み合わせでやることなんてないです!なんでこんな常識外れな人間が存在するんですか?魔族でもそこまで高度なこと出来ないですよ?」


 シルフィードの言う、1人ではやらない複合魔法。例えば炎之竜巻ファイアストームは火魔法と風魔法の複合魔法だ。しかし、これは火魔法を使う者、風魔法を使う者で分けて詠唱をし、それらを同時に発動させることで複合魔法ができる。軍などではそれを数千人規模で実施するためすごく訓練が必要なんだとか。


 しかしそんなものはハリボテだ。だって、竜巻を起こす魔法に火魔法ぶち込んで、燃えてる竜巻の完成!なんて、ただの既存の魔法をくっつけただけに過ぎない。まぁ、くっつけたから複合魔法なんだろうけど。


 でも、1人で複数の属性の魔法を1箇所から同時に出すことこそ本当の複合魔法だと俺は、考える。まぁ、今までそんな事を出来る人が居なかったから普及しなかったわけで。


「無詠唱魔法がすごいことは知ってる。だからこそ、シルフィード、お前に言魂の再現は不可能だ。お前に闇魔法の才能は無い。ひとつの属性を無詠唱で放つことか出来るほどの才能を持っているんだから、そっちをもっと伸ばせ。アドバイスくらいする。あと今の俺は人族じゃない。魔人族だ。だからこそ言魂を使えるのかもしれない」


 そう、魔人族になってから魔法の発動がなめらかになった。この影響もあるだろう。


「はぁ。まあいいです。リュークハルト殿下以外が使えないと分かれば警戒する必要もなさそうですね」


「そうだな。こんなおっかない魔法は他言無用だ」


「そうですね。引き止めて申し訳ございません。もう大丈夫です」


 そう言ってシルフィードは頭を下げる。


「そうかい。んじゃまた」


 今度こそ部屋に帰還する。


 ◇


「いやぁ~それにしてもリュートくんと常識外れっぷりはすごいね」


「そうですね。しかし、今に始まったことではありません。殿下は生まれた頃から異常でした」


 シャルの感想に後付けするようにクリアーダが変なことを言う。


「失礼だな。2人とも理由を知ってるくせにいじめんな」


 シャルとスーナーさん、それと父上とクリアーダだけは俺が異世界から来たことを知っている。1度、グロウスティアによって、みんなの前で称号などを公開させられたが、その時はみんな、他の称号に目がいって、異世界の記憶を持つ者、という称号に気がついていないらしかった。


「あははー、ごめんね?」


「まぁ、別にいいけどさ。誕生日プレゼント何が欲しい?確か、2週間後だろ?」


 もう異世界の記憶の話云々はやめたいので、強引に話をそらす。


「えっ?さっきもだけど、やっぱり私の誕生日覚えててくれたんだ?嬉しい!」


 そう言って、また抱きついてくる。


「嬉しいなら良かったが、何が欲しいんだ?多分、なんでも用意出来ると思うぞ」


 実際、金のかかるものなんて余裕で手に入れることができる。3年前に父上と商品化を企んだ、将棋と囲碁。それらはこの世界でバカ売れし、俺の懐は温まりすぎている。その後オセロも発売したもんだから、たんまり金はある。


 しかし、シャルが金のかかるものを望むとも考えにくい。


「んー、正直なんでもいいんだよね。高価なものなんて、どうせ他の人達からたくさん貰っちゃうし」


 なんでもいい。1番困る答えだ。


 シャルは公爵令嬢だ。公爵令嬢の誕生日とあれば、名のある商人、上級貴族は普通にお呼ばれし、公爵令嬢に見合うほどの高価なものをプレゼントする。それに、学園の友達も呼ぶとあれば、その辺のアクセサリーなんかも贈られるので、俺としてはかなり選択肢が狭まる。


 そうなれば、答えは一択。


「そうか。まぁ、楽しみにしておいてくれ」


「うん!ありがとう!」


 誰にも用意できない唯一無二のモノをシャルに贈るしかないだろう。


 そう考えた俺は早々に歩いて、シャルをヴァイス邸まで送り、市場へ向かう。


 かつて市場で会ったキツネ顔の女を思い浮かべながら。

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