第72話 筋肉こそ正義なのでは


「おーい!ちょっといいか~!?」


 訓練場までやってきた俺たちはレント達を見つけ、すぐに声をかける。


「あ?」


 すると、レントがキレたような返事をする。


「まあまあ、そんな怒んなって。今回はちょっと試したいことがあってさ」


 俺がそう言うと、レントは怪訝な表情で俺を見る。


「いや、それはいいんだけどよ、いいのか?今日も愛しのシャーロット嬢とお茶会してたんだろ?」


 なるほど、そういうことか。レントも気ぃ使えるようになったんだな。お兄ちゃん嬉しいよ。


「そのシャルが是非見てみたいと言っているんだ」


「はぁ。まぁ、いいけどよ。何するんだ?」


「新しい魔法の実験ッ!」


「いや、そんなキリッと言わなくても大丈夫ッス」


「あぁ、ごめん」


 キリッと言ってみたかったのに、言ったら、ディアナにダメだしされた。


「弱っ!リュートくん、皇子だよね?」


「うるさいなぁ!いいじゃんか!こっちはものすごく恥ずかしいんだから!やめて!」


「あっはっはっ!」


 シャルは馬鹿みたいに笑うし、レント、ディアナ、シルフィード、クリアーダはクスクスと笑っている。


「そ、そんなことはどうでも良くてだな。とりあえず実験台になってくれ」


「クスクスっ、あ、わるい。それで、オレは何をすればいいんだ?」


「そうそう。俺が色々指示するから、それに従わないようにしてくれ。それだけだ」


 超端的に説明する。


「……それにも従わない方がいいってことか?」


「いや、違うから。まぁ、とりあえず《あの辺まで走ってこい》」


 レントの後ろ10メートルほど向こうにある植木を指差し、指示する。


「あー、なるほッど!」


 ようやくどんな実験をするのか理解したレントだが、理解した瞬間には走り出そうとしていた。


「ぐっ、なんだこれ。身体が言うこと聞かねぇ」


 おぉ耐えてる耐えてる。周りを見てる見ると、ディアナ、シルフィードは何が起きているのか理解していない。クリアーダはさっきのシャルの一件を見ているのでレントが耐えている姿を見て、驚いている。シャルは目を輝かせ、どうなるのか結果を楽しみにしているように見える。


「お、耐えてるな。じゃあ、《ちゃんと走れ》」


「ぐっ、くそっ!」


 言魂を更に発するとレントは耐えれなくなり、走り出した。そして、そのまま走ってこちらまで戻ってきた。


「はぁはぁ。なんなんだよ今の。身体が全然言うこと聞かねぇじゃねぇか」


 全力で言魂に抵抗していたレントだが、抵抗には相当な体力が必要らしい。とても疲れているし。


「まぁ、そういう魔法だしな。 次はどっちがやる? 」


 そう言って、ディアナとシルフィードの方を見る。


「それでは私から。魔法耐性なら私の方が上かと」


 出てきたのはシルフィード。確かにエルフは魔法が得意なイメージだが、魔法耐性もすごいのか。


 確かに、闇魔法の精神攻撃とか聞きにくいって聞いたことあるし。


「シルフィードか。それなら、レントと同じく、《あの木まで走ってきて》」


「?」


 あれ?効かないな。


「全然効かないね。どーしたんだろ?」


「おそらく、お願いしているような形になっているからかと。もっと命令するような口調でないと効かないのでは?」


 クリアーダの一言でハッとする。確かにレントの時は普通に命令してたし、シャルの時もお願いする様な口調じゃなかっしな。


「なるほどな。じゃあ、《あそこまで走れ!》」


「ッッ!!」


 シルフィードは抵抗する暇もなく、走り出した。


 そして目的地の木までたどり着いたシルフィードは手をグーパーしたり、自分の身体を見たりして、身体に異変がないか確かめている。


「これはすごいですね。封印モノです」


 こちらに戻ってきたシルフィードは開口一番そういう。


「まぁ、そうだろうな。尋問とかには使えそうだが」


「それじゃあ次は自分ッスね!」


 もう使わないようにしようとか思ってたのにディアナは早く試したくてたまらないらしい。


「わかったよ。そんじゃ――」

「ちょっと待って下さいッス!こっちにも準備ってもんがあるんス」


 早くやってやろうと思ったら止められてしまった。


「――獣化!」


 久しぶりに見たな、獣化。前は、動物みたいに咆哮しながらやってたのに、完全に制御している。


「これで大丈夫ッス!」


「……そうか。じゃあ、《お座り》」


「「「え?」」」


 俺とディアナ意外の全員が声を上げた。誰も想像していなかったのだろう。だって、みんな同じ命令だと、ディアナも対策すると思って、不意打ちをした。


 ――ズゥゥンッッ!!


 皆が疑問を抱いている間も俺の言魂と戦いっていたディアナはとうとう片膝を地についてしまった。余っ程いい戦いなのか、地に着いた時にものすごい音とも直径30cmくらいの極小のクレーターができた。


「ぐっ、なかなかやるッスね。でも、――グルァァ!!」


 咆哮しながら更に力を入れるディアナ。そして着いていた片膝が少し浮き始める。


「「「「「おぉ」」」」」


 その光景に思わずディアナ以外の全員が感嘆の声を漏らす。


「《いいから早く座れよ》」


 ――スタッ


「ワン!」


 つい、発してしまった言魂によりディアナの頑張りは虚しく、なんの抵抗もできず、スタッ、と座ってしまった。他のみんなは、えぇ、みたいな顔をしている。理由は明らかだ。


「いや、ワンまでは要らんし、お前虎だろ」


「あっ、ミスったッス」


「「「「「はぁ」」」」」


 ディアナの一言に、全員がため息を着く。


 検証結果としては、シルフィードのような魔法耐性に特化した者に対しては問答無用で発動し、ディアナやレントといった、肉弾戦系の者には効きにくいという結果になった。


 しかし、追加で言魂をぶつけると、簡単に屈してしまう事まで分かった。


 これはもう、筋肉こそ正義なのでは?と思ってしまう検証結果だ。

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