第5章 シャルの誕生日と闘技大会編
第71話 言魂
「そろそろ闘技大会の季節だな」
俺の部屋に招き、軽くお茶会的なことをしている俺とシャル。
「そうだね、でも私まだ、6歳だし、見に行けないよ」
宮廷魔法士による夏の序列戦。近衛騎士団による冬の序列戦。帝国最強を決める闘技大会。
序列戦の方はマシだが、闘技大会はかなりグロテスクな戦いもあるため、観戦は7歳以上といい決まりがあるのだ。それによって今まで俺たちは闘技大会の観戦をする事ができなかったが、今年7歳になったので観戦する権利を得たのだ。
「そうか……いや、でもシャルの誕生日って闘技大会の前日じゃなかったか?」
「……たしかに!今までは7歳の誕生日は実家の方でやってたし、なんなら、秋休みだから、家にいたもんなぁ」
今までていうのはシャルが繰り返してきた10回分の人生の事だろう。
「そういえば
「うん、お父さんが家に帰った時、妹の再教育を行ったらしくてね、多分大丈夫。ありがとう」
そう言って向かいに座っていたシャルだが、自分の椅子を俺の横に持ってきて、腕に抱きつくようにくっつく。
「そうか、なら良かった。それじゃあシャルの誕生日会は帝都の屋敷の方でやるのか?」
「うん、多分そうなるかなぁ?その時は招待状出すね!学園の友達も呼ぶけど大丈夫?」
上目遣いで聞かれると断れないじゃないか。
「ああ、ありがとう。友人の方も了解した。楽しみにしているよ」
そのままシャルの腰に手を回す。
「イチャイチャするのはいいですけど、節度を保ってくださいね」
「キャッ!」
「あぁ、わかってるさ」
元々俺の後ろに控えていたクリアーダにシャルは気づいていなかったらしく、びっくりしていた。俺は気づいていたからそのまま返事をする事ができたが、クリアーダ気配消すの上手すぎないか?
「はぁ、びっくりした。それよりディアナちゃんたちの方はいいの?」
「大丈夫だろ。訓練も必要だが、こうした息抜きも必要だ」
ディアナ達というのは、レントとシルフィード、ディアナの事だろう。いつもは4人で訓練に励んでいるがシャルが来る日はいつも俺だけ抜けて3人で訓練している。
「そう?まぁ、お邪魔だったらちゃんと言ってね?じゃないと毎日来ちゃうからね」
「邪魔なわけあるか。まぁ、学園の帰りならいつでも来てくれて構わない。それこそ毎日な?」
シャルが通う、帝立学園の初等部の帰りの時間ならばこちらも訓練は終わっているはずだしな。
「ふふっ、冗談だよ。でも、毎日来ていいなんて言われたら来ちゃうかも?んふっ!絶対、毎日来るからね!」
終始笑みを絶やさず、ニコニコしながら会話するシャル。可愛い。
「わかったよ。そう言えば、シャキッとしたというか、大人っぽくなったか?シャル。前は色々雑な部分があったが、最近はやけに"完璧"とか、"絶対"にこだわるよな」
「んー?リュートくんもそれ言う?それ学園で友達にも言われるんだよね」
まじか。しかし、出会った頃と比べたら明らかに内面的に大人っぽくなっている。
「心当たりはあるのか?」
「多分、リュートくんの婚約者って正式に発表されたからかな?」
シャル曰く、皇族である俺の婚約者として正式に発表されたが、当然学園のみんなもそのことを知る。すると、「皇子様のお嫁さんになるんだね!」とか、「皇族に嫁ぐならちゃんとしなきゃね!」などと言われ、シャル自身、「ちゃんとしなきゃ」っていう自覚を持ち始めたらしい。
シャルから聞いた話だが、最近は定期テストでほぼ満点の好成績を出したらしい。
シャルから好成績を取るコツを聞いたら、外堀から埋めると良い、と言われた。
例えば、「次のテスト、80点以上取ります」と、周りに周知させる。そうすると、自分が80点以上取らなければならない空間を意図的に生み出すことが出来るとか。
なるほど、言霊、か。同じことを何回も言うことによって結果に結びつける。シャルはこうして好成績を出しているらしい。
「言霊、ね。シャル、《立って、くるっと回って、ワン》」
「え?え?」
シャルは戸惑いながら立ち上がりその場でくるっと回る。
「ワン!」
「よぉーしいい子だ!」
そのままシャルの頭を撫でる。
「え?どういう事?私の意思とは関係なく身体が動いたんだけど!」
「あぁ、言魂だ。俺が喋った言葉に魔力を載せて操る魔法、かな」
俺の発した言魂にシャルが逆らえなかった結果、その場で立ち上がり、くるっと回って、ワン!とやったわけだ。
「す、すごい!でもなんでクリアーダさんじゃなくて私にやったの?」
「クリアーダにやったら効果がなくても自主的にやりそうだし」
「あぁ、たしかに。クリアーダさん、りゅーとくんファーストだもんねぇ」
「……やりましょうか?」
何ぶっ込んでんだ?こいつ。ホントにやめてくれよ。
「やらんでいい」
「そうですか」
って、なんでそこで少ししょんぼりすんだよぉ!やりたかったのか?そうなのか?
「まぁ、この言魂が通用する相手を見極めなくちゃいけないな。とりあえず、片っ端からやってくか」
「はいはーい着いていきまーす!」
こうしてシャルとクリアーダを伴い、レント達の元へ向かう。
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