第67話 休息と仕事の早い精霊王
「リタ、君にはひとつしてもらいたいことがある」
「なんですかぁ?主様のためならなんでも致します!」
「そうか。なら前任の精霊王が精霊界に連れてきた中・下位精霊を現世に戻るよう言っておいてくれ」
そう。俺たちがここに来た最大の目的。精霊が少なくなり、魔素も薄くなり、自然が成り立たなくなりつつある砂漠を元の状態に戻すことが俺たちに課せられた任務だ。
「け、契約早々主様と離れ離れになるなんていやですぅ!」
「仕方ないだろ?俺はそういう目的があってここに来たんだから。まぁ、精霊王になったお前なら?簡単に出来ると思うけど?それが終わったら俺の所に戻ってきて良いぞ」
リタなら出来ると言う部分を少し強調しながら煽る。
「ッ!!ま、まあ?精霊王なった私なら余裕ですけどぉ?今から取り掛かりますね!」
そう言ってリタはここから離れ、精霊たちに現世に戻るよう呼び掛けに行った。
「それじゃあ、俺たちは戻るとするか、ヴォル」
「キュゥン!」
ヴォルを抱え、俺の剣によって切られたアマンダの首とその体を異空間収納にしまう。
「――転移」
転移を発動した瞬間、一瞬で視界が変わり、辺りが1面黄色い砂で覆われた場所に来た。砂漠だ。本当はこのまま帝都に行こうとしてたのに、ここに飛ばされてしまった。
ここから入ったし、やはりここから出るのか。
そして、外は夜だった。
「暗いな。まぁ、ここに着いたのが夕方だったし、当然か。近くの街の宿を借りよう」
「キュゥン!」
砂漠から南に向かうこと10km強。大きくもなく、小さくもない街が見えてきた。
「ここでいっか」
「キュゥン!」
街の入口から少し離れたところで着地し、歩いて街へ向かう。
「そこの君、北側から来たけど、砂漠を超えてきたのかい?」
このまま街に入り、簡単な宿を見つけ、そこで一夜を明かすつもりだったが、門番の方に止められてしまった。
「いやぁ、そうなんですよ~。実は獣王国に住んでいたんですけど、向こうの方たちと少し喧嘩をしてしまいまして。人間の国で暮らそうかなって思って、この子に乗って来ました!」
それらしい嘘をつき、抱えているヴォルに乗って来たとでも言えば、なんとかなるだろう。
「そうかそうか。でも、随分と小さい従魔だね?自分の体よりも小さい従魔に乗ってきたのかな?」
「実は、この子、一日に1回だけデカくなることが出来ましてね?その後は疲れて寝てしまうんです。ほら、今はグッスリ寝ているでしょう?」
俺は寝たフリをしているヴォルを門番の方に見せ、納得してもらおうとする。
「まぁ、そういう魔物も居ないわけではないからなぁ。わかった。そしたら、取り敢えずは入っていいよ。明日また、ここに来てくれるかな?」
「はい!ありがとうございます!」
あぁ、なんてガバガバな警備なんだ、と思いながら、街に入る。
そこは特別活気がある訳でもなく、特別廃れている訳でもない街だ。きっと領主の腕は悪くないだろう。現状維持するのも立派な実力だ。
北側から入ったけど、この辺は住宅街と宿屋街の間の道かな?
上から見た感じ、街は四角形の壁で囲まれてたから、それを街を4分割して区分分けしていた。北側から入れば直で宿屋に入れると思ったので北側から入った。
南側には商店街と農場が広がっていた。旅人や冒険者が来るなら、南側からだけど、敢えて北側に宿屋を沢山用意したのは流石だな。
そのまま歩きながらいい感じの宿を探すこと10分。少しお高めのところにやってきた。
――ガチャ
「すいませーん、素泊まりしたいんですけど、ペットも一緒にいいですか?」
お高めの所にやってきた理由は安いところはペット不可なのだ。
「はーい、どうぞ~」
そのまま正面にある受付に行き、お金を払い、部屋の鍵を貰う。ちなみに素泊まりだけで銀貨1枚。日本円に換算してだいたい1万円だ。普通に高い。俺が普通に銀貨を出した時は店員さんが驚いていたが、そこは高級宿、詮索せずに部屋に案内してくれた。
俺がここを選んだ理由はもうひとつある。それは、風呂付きなのだ!今日はまだ風呂に入っていないので、ヴォルと入り、その後就寝の予定だ。
◇
「あ゛~、今日も疲れたなぁ!ヴォル!」
「キュゥン!」
疲れを感じさせないヴォルと一緒に髪、体を流し、湯船へ浸かる。
最近はようやく涼しくなっては来たが、城にいる時は体を流す程度で終わらすことが多いのだ。つまり、最近はあまり湯船に浸かれていない。
久しぶりの湯船はいいもんだ。
「とりあえず、この後今日は、寝て、明日起きたら速攻で帝都に戻るぞ!」
「キュウ!」
門番の人に明日、来るように言われているが、ヴォルがデカくなるなんて嘘だし、バレたらやっばいので、起き次第速攻で帰る。
「よしっ、それじゃあ、上がって寝るか!」
10分程湯船に浸かり、ヴォルを抱えて風呂から上がる。体を拭き、髪を風魔法で乾かしてから、ベッドへ入る。
もちろん横にはヴォルも一緒だ。
「そんじゃ、おやすみ」
「キュゥン」
◇
「キュウン!」
――ペチペチ
翌朝、俺はヴォルの顔面ペチペチ攻撃によって目覚めた。
「んぅ、おはよう、ヴォル」
「キュゥン!」
にっこり笑うヴォルは早く起きろと言わんばかりの怖い方の笑顔だ。
「よーし、わかった。一旦和解しよう。起きるから、許してくれ」
「キュッ」
俺の弁明を聞くと、ヴォルは何かを食っている。
窓を見ると全開だし、俺より早く起きて、食いもん探しに行ってたとか?まじ申し訳ない。
それに、床が汚れないよう、土魔法で自作の皿を作っている。
「悪かったよヴォル。これやるから、元気だしてくれ」
俺はまだ余っているドラゴン肉ヴォルに差し出す。
「キュッ」
すると、ヴォルはその肉を顎で指す。
「……焼けって?」
「キュゥン!」
「おーけー。焼くのはわかったが、ここで焼くのは何かとマズイ。一旦外に出て、誰も居ないところで朝食をとろう」
「キュッキュッ」
俺の提案を聞いたヴォルは俺に抱っこしろと言わんばかりにしがみつく。
窓から帰るってことか?まぁ宿泊代は払ってるし、いっか。いや、良くない。
「ちょっと待ってて」
ヴォルに待つように言い聞かせ、速攻で紙とペンを用意し、部屋番号、既に部屋を空ける旨を書き、転移し、受付のカウンターに置き、部屋に戻る。
「よし!行くぞ!」
「キュゥン!」
窓から飛び出し、そのまま飛んで南下する。
30分程進めば、ただの道だけになり、左側は森、右側は原っぱが広がる道に出た。
「ここで飯でも食うか」
「キュッキュッ!」
土魔法で椅子と机を作り、ヴォルと座る。そしてその上にドラゴン肉を出し、焼く。
朝食は10分で済まし、再び南下を開始する。
「主様~!!」
それから2時間程南下していると後ろからリタの声がする。
「主様~!!」
だんだんと近づいて来る声の主はやはりリタであった。
「主様!あまり進んでいないですわね!私を待っていてくれたんですかぁ?」
「いや、違う。でもまぁ、そっちはもう終わったんだな」
「はい!主様早く会いたくて、張り切っちゃいました!」
すごいな精霊王。
「そうか。なら一緒に帰る――」
「はい!」
すごいよこの子。間髪入れずにというか、食い気味に返事してきた。
そして、それから数時間。遂に帝都が小さく見えてきた。
と、思ったらめちゃめちゃ魔法が飛んできた!?
もしかして歓迎されていない!?
リタも反撃しようとしないで!?
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