第65話 圧勝への道筋


『よし、わかった。魔帝の件はそういうことだとしよう。これでもしひとつでも帝位から王位に転落したら、魔人族から人族に退化するのか?』


 説明にあった通り、魔帝になったから魔人族になれたわけで。前提条件が崩れた場合どうなるのか気になる。


『いえ、1度進化してしまえば、元に戻ることはありません』


『ふーん。なら安心?だな』


「それより、精霊王さん?今まで弄んでくれてありがとう。おかげでワンランク強くなれたよ」


「ふんっ、1度我のパンチを耐えたからといって図に乗るなよ?」


「図に乗っているのはお前の方だろ?今まで優勢だったからって粋がるなよ?」


 正直負ける気がしない。総魔力量も10倍近くになったし、かなり調子がいい。これなら――


「――土之剣モルデュール


「フッ、やはり、人だな。なぜ1度防がれたことをもう一度やろうとする?2度目なら上手くいく、なんて勘違いなど愚かだぞ?」


「じゃあ、なぜ、1度防げただけで2度目も防げると勘違いする?愚かだな」


 ――スパンッ!……ボトッ


 正面から、俺の唐竹か炸裂し、精霊王の左腕が落ちる。


「あぁ、やっぱり。魔法の質が上がってる。身体強化も段違いにいい感じだ。そりゃ簡単に切れるわけだな」


「、、、?腕が、ない?我の腕?え?落ちてる、?」


 精霊王は自分の腕が落とされたという事実から逃げ出すように「はてなマーク」を浮かべている。


「だから言ったじゃん。次はその首だよ。覚悟しな」


「まっ、待ってくれ。話し合おう。話せばわかる。な?な?それともあれか?我と精霊契約をするか?そうすればお主の受ける恩恵はデカいぞ?」


「知らん。死ね」


 その場でへたり込み、後退しながら、交渉を始める精霊王。


 土之剣モルデュールを握り、袈裟斬りの準備をした瞬間、精霊王が嗤った。待っていたぞと言わんばかりに。


 次の瞬間、目の前から精霊王は消え、俺の体に異変が起きる。


 意識はあるのに身体が動かせないし、何故か勝手に動く。


『警告。精神に異物か入り込みました。直ちに排除を開始します』


 アイが何か言っているが、すごく遠くで言われているような気がして、何を言っているのか分からない。


 今の俺には自分の身体が勝手に動くのを見ることしかできない。


 すると、次第に、剣の握り方が変わる。逆手で持ち始め、その剣先を心臓に向ける。


 そこでようやく気が付く。精霊憑依だ。腐っても精霊王。俺が進化し、魔人族に至っても、精神は簡単に乗っ取られてしまうらしい。


 一気に形勢逆転したと思ったのだが、さらに逆転させられてしまった。


 今度こそピンチだ。おそらく進化して肉体の強度が上がったのは確かだが、俺が作り出した土之剣モルデュールも相当な物だ。正面から突き刺したらおそらくなんの抵抗もなく綺麗に突き刺さるだろう。


『報告します。現時点の私の性能では精神に入り込んだ精霊王の排除は不可能です』


 やはり精霊王だったか。いや、本当にヤバいっぽいぞこれ。


 俺は再び死を覚悟し、目を瞑る。


 1秒、2秒、10秒経っても身体に剣を突き刺すような痛みは感じない。


 ……また進化したのか?俺は恐る恐る目を開ける。そこには目を瞑る前と同じ光景が広がっていた。土之剣モルデュールの剣先が俺の心臓に向いている。しかし、一向に俺の腕が動く気配はない。それどころか身体を動かす感覚さえ戻ってきた。そして、進化した時と同じようにまた、1段階、身体から力が湧き出てくる。


『え、俺また進化したとか?』


『こんな短時間で進化するわけないでしょう。黙って鑑定してください、主人マスター


 ◇

 名前:リュークハルト・フォン・スターク

 種族:魔人族

 状態:精霊憑依中(精霊王、上位精霊)

 魔力量:925万


 称号:スターク帝国第3皇子 異世界の記憶を持つ者 剣之帝 闘之帝 槍之王 魔帝


 ◇


 いや、うん。精霊王が精霊憑依してるのは予想してたよ?でも上位精霊って何?ダレ?


『おそらく、先程拾った精霊でしょう』


 言われてみれば、肩に乗せていた、元・上位精霊である下位精霊がいない。俺の魔力を得て、上位精霊に戻ったのか?


 考え事をしていると、精霊王が俺の中から出た。よく見ると、先程切り落とした左腕が生えていた。


「な、なんなのだ?そこのカスは1度我に殺されかけたでは無いか!」


 すると、もう一体、俺の中からナニかが、出てくる。


「そうですね。確かに私は1度死にかけました。しかし、主様の魔力を頂いた今の私は過去の私とは違いますよ?」


 俺から出てきたのはおっとりした雰囲気のかわいい精霊。何となく下位精霊になってきた時の面影はある。


「まてまて、俺は、お前の主になった記憶は無いが?」


 そこで、1番の疑問に思っていたことを問う。


「あらあら、主様は精霊契約の仕方を存じ上げずに私と契約したのですか?」


「だから、契約した記憶なんてないって」


「人が精霊と契約するには人から精霊に魔力を与えることによって成り立つのです。弱っていた私に魔力を与えて下さり、とても助かりましたわぁ」


 おーい、まじかよ。でもまぁ、悪いことでは無いはずだ。


 それより、な?アイ?わかってて指示したんか?あ?


『……』


 あぁ、沈黙っすか。


「そんで、君、上位精霊でしょ?名前とかないの?」


「名前はございませんわ。主様?つけて下さる?」


「あぁ、後でな。それより今はあの精霊王を倒すことを1番に考えろ」


「……そうですね。精霊王を倒し、私が新たな精霊王に就任。主様を支える右腕になりますわ」


 へぇ。前から気になってたけど、精霊王ってやっぱり世襲制とかじゃなくて倒したやつが継ぐんだ。


「あぁ、ならまずは精霊憑依だ。一瞬で片すぞ」


「はい!」


 次の瞬間、先程まであった、力が湧き出てくる感覚がやってくる。これならイケる!

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