第64話 晴天の霹靂


「……闇魔法、か。なかなかマニアックだな」


 しゃべり方は男臭いのに普段お嬢様みたいな口調のアマンダの姿で喋られると頭がおかしくなりそうになる。


「噂の精霊王サマは闇魔法はニガテか?」


 俺は挑発するように喋る。アイから時間を稼ぐ戦い方をおすすめされているので、ちょっとでも時間を稼ぐ。


「何を言う。精霊王たる我に苦手な魔法などあるわけなかろう」


「そうかそうか。まぁ、そんなカッカしなさんなって。楽しんで戦おうぜ?」


「ふんっ、少しでも長く生きたいか、小僧め。いいだろう、我が全力でやるとすぐに殺してしまうからな。ゆっくりと、いたぶりながら殺してやろうでは無いか」


 精霊王がいい感じに勘違いしてくれた。しかも喋り方が悦に浸っていてウザイ。


「――土砂崩れ」


「フッ、大波ビッグウェーブ


 俺が生み出した土砂崩れは精霊王の生み出した大波によって全てこちらに流されてくる。


常闇孔ブラックホール


 こちらに流れてきたものは全て常闇孔ブラックホールで呑み込む。


「芸がないではなか。その程度で我とやり合おうとしていたのか?」


「うるせぇなあ!こっちはこっちのやりたいことをやってんだよ!氷結之霧ダイヤモンドダスト!」


 俺の十八番おはこである、氷結之霧ダイヤモンドダストをお見舞する。闇・土魔法を使えとは言われているが、それ以外を使うなとは言われていない。


「なんだ?この魔法は?ふんっ、こんな魔法で我を倒せるとでも思ったのか?ただ湿気が多くなっ――蒸発!」


 氷結之霧ダイヤモンドダストはオリジナル魔法だ。つまり精霊王が知るわけないと思い、放った。当然最初は困惑したが、小馬鹿にしたような口ぶりだったが、途中でなにかに気づいたのか、水分を気化させる火魔法の蒸発を使ってきた。


「初見でよく防いだな」


「ふん、我にかかれば造作もないと言いたいところだが、認めてやろう。人の身でありながら壮大な量の魔力を所持し、猫騙しの一撃はあるが一瞬でも我の想像を超えた」


 結構自信あったんだけどなぁ。精霊王相手じゃ効かないのか。あ、そうだ。


常闇孔ブラックホール


 俺は常闇孔を創り出し、精霊王に近づける。


「ここに来て策が尽きたか?分かりきったことをしよる。――常闇孔ブラックホール


 ギリギリで精霊王が創り出した常闇孔とかなりの速さで精霊王に向かう俺の常闇孔が衝突し、打ち消し合い、消滅する。


 ワンチャンこれで飲み込まれたりしないかなとか思ったりしたが、流石に浅はかすぎたか。


「まぁ、そうなるよなぁ。じゃあ、――重力グラビティ!」


 重力グラビティは闇と無属性の混合魔法だ。簡単に言えば重力を増加させる魔法。相手にかかる負荷が大きくなる。魔力を込めれば込めるほど、その増加量はます。ちなみに俺が空を飛ぶ時に使う魔法は、反重力アンチグラビティだ。重力グラビティと同じように闇と無属性魔法の混合魔法だ。


「グッ、お゛、お゛もい゛」


「そんじゃ、これもプレゼントだ」


「あ゛ッ」


 かなり強めの身体を施し、精霊王にアッパーを食らわす。


「――泥沼」


 次に水・土の混合魔法でそのからだを沈める。そして――


「クソっ!なんだこれ!?身体が重い!」


 バタン


 膝あたりまで地面に沈められた精霊王が倒れた。


 と、思ったら精霊王の上にナニかいる。男の見た目をし、筋骨隆々でキトンを来ている。そして、青の短髪に厳つい顔。さながら武神だ。


「やはり、人の身で戦うというのは少々貴様の力を見誤っていたと言うことか」


 口ぶりから、上にいるナニはおそらく精霊王。精霊憑依を解除したのだろう。確かに、精霊憑依したところで、肉体はアマンダの物だ。碌に鍛えていない身体で俺と戦おうって言う方がおかしいのだ。


『そろそろ闇魔法は十分です。土魔法を重点的にやりましょう』


 精霊王の独り言は無視しておいて、アイの言葉に耳を傾ける。


『でもよ、土魔法ってバリエーションが少ないよな』


 もちろん、基礎的な魔法、例えばボール系や、ランス系はどの魔法にもあるが、そのような魔法では精霊王に傷を負わせる事は難しいだろう。


 であれば、先程のようにオリジナル魔法か、普通に威力が高い魔法を放つしかない。


 いや、違うな。別に魔法を撃ち込むだけが魔法戦では無い。魔法を伴う物理攻撃なら精霊相手にも効果がある。つまり、だ。


土之剣モルデュール


 俺の土魔法によって生み出された一振の直剣。モルデュールとは、アーサー王の持つ剣の1つだ。効果は魔法を破る剣。


 精霊王は精神生命体だが、その存在は魔法のようなもの。まぁ、名前なんて願掛けのひとつに過ぎない。この剣がどんな名前だろうと、精霊王に与える一撃の重さは変わらん。


 そして――


 ――スパンッ


 次の瞬間、アマンダの首が落ちた。まずは、もう受肉出来ないよう、アマンダの首を落とす。


「次はお前の首だ」


「やってみると良い」


 という事でようやく精霊王と直接対決ができる。


 まずは右薙。


 避けられる。かなりのスピードで放ったが、そこはやはり精霊王。目がいい。


「これならどうだ?」


 俺は詠唱も技名もなしにいきなり土礫の弾幕を張った。


 そして空間魔法て精霊王の後ろに転移し、袈裟斬り。


「これで終わりだッ!」


 ――キィィン!


 俺の剣が精霊王の首を捉えたと思ったら、弾かれた。


「この程度で我の首を取ろうとしていたのか?」


「わお」


 ヤッッバイ。取り敢えず思考加速!


 引き伸ばされた時間の中で必死に思考する。


 俺と精霊王の距離はほぼゼロ。シュレイヒトさんは精霊王の近接戦闘は普通にすごい的なこと言っていたし、この距離は非常にまずい。と、なると今は……。転移しか無ぇ。


 ――パァンッ!!


 転移し、精霊王の方を見るとどデカい破裂音がした。奴が振り上げた拳が空気を切り、えっぐい音を鳴らしていたらしい。


「土砂崩れ、土砂崩れ、土砂崩れ、土砂崩れ!!」


 やばいやばいやばい。本当にやばい。何か策はないか?このままだとホントに殺される。


「ライトニングゥ!」


 精霊王の叫びと共に精霊王が発光する。そして一瞬にして俺の目の前に現れた。


「ッッ!」


「これで終わりだァ!死ね人間ッ!」


 あ、終わった。やばい。再び引き伸ばされた時間の中で試行錯誤するが、生き延びる術が見つからない。転移をしようにもおそらく間に合わん。精霊王の先程のパンチを見るに、俺が転移を発動するより先に俺にその拳が当たるだろう。


 終わった。闇・土属性にこだわらずに戦えば良かった。あぁ、非常にまずい。まだ死にたくねぇんだけど。


『準備が完了致しました。個体名リュークハルト・フォン・スタークの進化を開始します』


 ――ドンッ!


 次の瞬間、精霊王のパンチが俺の顔面に直撃した。


 しかし、自然と痛みは感じない。もう死んだとか?それどころは今は力が湧き上がるような感覚さえ覚える。


「……なに?何故頭が弾け飛ばない?」


『なんだ?何が起きたんだ?なぜ俺は死んでいない?』


『ご自分を鑑定してみてください』




 ◇

 名前:リュークハルト・フォン・スターク

 種族:魔人族

 状態:良好

 魔力量:925万


 称号:スターク帝国第3皇子 異世界の記憶を持つ者 剣之帝 闘之帝 槍之王 魔帝


 ◇


 魔帝!?なんじゃそりゃ。


 内訳は?


 ◇

  魔帝内訳

  炎之帝 水之神 風之帝 土之帝 光之帝 闇之帝 時空之神 氷之帝  雷之神


 ◇


 なるほどね、時之神と空間之神が時空之神になったみたいにまとめられたのね。




 って、なるかぁぁ!?


 なんだよ魔帝って?しかも人間じゃねぇし?魔人族ってなんだよ!?


 ◇

 魔人族:魔法系の称号が全て帝位以上となったにのみ進化の資格を与えられる。

 ◇


 なるほどね。そんじゃあ、殴られても平気だったのは進化したから、身体の強度が上がって、無効化したってわけね?


『いえ、進化途中は一瞬だけ無敵時間が出来ます』


 いや、意味わからんて。もう無理。

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