第63話 精霊王討伐戦開始
箒に跨り、北へ進むこと数時間。ようやく砂漠が見えてきた。今回はあまりスピードを出していなかったので少し時間がかかってしまった。空は赤みがかり、そろそろ夜が訪れるであろう空模様だ。
昼食などは道中近くにあった街に降り立ち、串焼きを数本買い、再び飛び立ち、空で食べた。ヴォルも一緒にだ。
『そういえば、アイが勝機はあるとか言うから俺はこの仕事を引き受けたんだが、どうすれば勝てるんだ?正直、あんな奴に勝つビジョンが思い浮かばない』
ヴォルを連れてきて、勝率は上がっただろうが、現世から精霊界まで転移する空間魔法なんて俺には使えない。それに奴は砂漠に精霊界行きのゲートを出しておくとか言っていたが、常に何時間も同じ座標に空間魔法発動させておくのもかなりの技量が必要だ。
『確かに今の
土魔法に闇魔法!?ぜんっぜん共通点ねぇじゃん。
『そんなんで本当に勝てるのかよ?』
『100%勝てるとは言い難いですね。ただ単に土魔法と闇魔法を使っても意味は無いです。コツとしては、レベルを上げるイメーシ……ステップアップするイメージで、練度を上げてください。あとは
『ますます意味わからん。取り敢えず土魔法と闇魔法の技量を上げりゃいいんだろ?』
『端的に言えば』
『なら最初からそう言ってくれや』
本当に意味わからん。なんでその2つの魔法の技量をあげなきゃならんのだ。アイが提案するからには、いつも通りの戦い方では勝てないという事だろう。
「キュウ?」
「今回はお前が頼りだ、ヴォル。少し怖い役割だと思うが、頼むぞ」
「キュゥン♪」
前に抱えたヴォルの頭を撫でながらお願いすると気分を良くしたように鳴く。可愛い。癒されるなこりゃ。
ヴォルと少しじゃれあっていると、空気に変化を感じる。
「……魔素が薄くなってきたな」
『心做しか、精霊の数も減っていますね』
『……てかさぁ?お前絶対、精霊王来るの分かってたよなぁ?』
『いくら神が創造した全知全能の私でも1個体の未来は想定出来かねます』
『ほんとかよ?』
『えぇ、本当です。ですから、予測できなかったお詫びとして精霊王に勝つためのヒントをたくさん差し上げているではありませんか』
『あぁ、そうですか』
もー、こいつどこから本当で嘘かわからんからなぁ。まぁ、今回はアイの言うことを信じてみるか。
「あれじゃないか?ゲートってやつ」
「キュー!」
下を見ると空間が歪んでいる場所がある。おそらくあそこが精霊王の言っていた、ゲートだろう。
――スタッ
そのままゲートの前へと着地する。ヴォルは俺の足元でちょこちょこ歩いている。箒はしまった。
「おいおい、なんだよこれ」
俺の足元には小さい、30cm程の人型の精霊が倒れていた。
◇
名前:無し
年齢:1202
種族:下位精霊(元・上位精霊)
状態:魔力欠乏症
◇
鑑定をすると、元・上位精霊だった。今は下位精霊だが。そして年齢は精霊王と同じ。
今は念の為、神眼:精霊視を使っている。もし、使っていなかったら見つけられなかっただろう。
『魔力欠乏症ってどうやれば治るんだ?』
『魔力を与えれば、次第に良くなります』
アイの言葉を信じ、魔力を与えようと、精霊に触れた瞬間、身体から魔力が抜けていく感覚がした。しかし、総量からすれば些細な量だ。
『おいおい、触れたらこっちの意識関係なく魔力抜けんのかよ』
『……そのようですね。やはり、元・上位精霊は他の精霊とは何か違うかと』
仕方が無いので、この精霊は肩に乗せ、精霊界に行くことにする。
―ヴォン
そしてなんの躊躇いもなく空間の歪みに足を踏み込む。
◇
――精霊界
「ようやく来ましたか。首を長くしてお待ちしておりましたよ?使徒様?それに、生意気なカスまで連れているではありませんか」
精霊界は一面真っ白の空間だ。転生する前に訪れた、神界と、よく似ている。
そして、魔素が濃い。精霊界は魔素が多いらしい。そして先程からある、身体から魔力が抜ける感覚はなかなか治らない。自分で魔力回復出来ない個体なのか?
生意気なカスとは今俺の方に乗っている精霊の事だろう。大方、この精霊王に歯向かって負けてしまったのだろう。
「だから、使徒じゃねぇよ。それより早くその身体から出ろよ。そいつの首持ち帰んなきゃ帝国の沽券に関わる」
「そうですか。まぁ、そもそもあなたを生きて返すことはしないんですけれどもねッ」
アマンダの皮を被った精霊王が早速無詠唱で、炎魔法を放つ。
精霊王が放つは螺旋炎柱。かつてムル・バスーラが本気の一撃とほざいて俺に放った技だ。
しかし、こいつの威力はムルのモノとは別物と言っても過言ではない。見た目は同じだが、放出している魔力量が桁違いだ。
おそらくこの技も俺のローブによって無効化できるし、ヴォルが無効化することも可能だろう。しかし、アイは土魔法と闇魔法の練度をあげるよう指示してきた。つまり、俺も何かしらの魔法で対応するべきなのだが――
「これしかねぇだろ。
俺の生み出した黒い球体によって精霊王の放った螺旋炎柱は消滅した。
「やはりこれくらいは無詠唱で対応しますか。……実に面白いですねぇ!」
『これは……。闇・土魔法を使いつつ、時間を稼ぐ戦い方を推奨致します』
アイ様からのご命令だ。
◇
side: Leonhard Von Stark
アマンダの奴が急に精霊王とか名乗り始めて、アニキもそれに乗っかって、その場がめちゃめちゃ静かになった。
父上は真剣に2人のことを見てるし、女ドラゴンも口角上げて2人のことを見ている。
アニキはアマンダに詰め寄っているが、刃が砕けたことは流す気なのか?かなり衝撃的だったが……。他の観衆もそのことを気にしているみたいだ。
「答える必要は無い、が、教えてやろう。我は偉大なる精霊王だッ!我の前に立ちはだかると言うならば、例え使徒であろうと、容赦はしない!まぁ、我直々に殺されるか、崩れゆく現世と共に死ぬか、選ばせてやろうでは無いか」
え?え?いつまでやるんだ?この茶番。
「お前、俺に勝てる前提で話を進めているが、大丈夫か?殺される間際になって命乞いしても助けんからな?」
アニキもなんで乗ってんだよ!!ホントにこいつが精霊王なのか?
たしかにかなりのプレッシャーだが、立てないほどでは無い。まぁ、武に関係の無い奴らは腰抜かしたりしているが。
「よく吠える人間だ。良いだろう。現世と精霊界を繋ぐゲートを砂漠に作った。数日前貴様の仲間がやって来たところだ。我とやり合うと言うならばそこへ来い!」
オレが混乱していると、話がどんどん進む。すると、精霊王を名乗ったアマンダが消えた。
オレは驚き、キョロキョロ周りを見回すが、それらしき影はない。アニキは一目散にオヤジの方へ駆け寄り、一言二言交わす。するとアルもその輪に加わり何か言っている。
アニキは何か納得したような表情を浮かべると楽しそうに城の方に飛んで行った。
おそらくこれは緊急事態だ。アニキもそれは理解しているだろう。しかし、強い敵が現れるとアニキは無意識的に口角が上がる。おそらく、気づいていないのだろう。今度教えてやろうかな。
その後は早い。
オヤジが騎士たちに指示を出し、腰を抜かしている民たち、役人を立たせている。それが終わるとオヤジ自ら民たちを解散させた。
「なぁ、あれ、どう見る?」
「あれって最後のですか?」
「あぁ」
オレの問いかけにライトが乗っかる。
「僕は兄さんを信じます。彼に出来ないことはないです。それはレント
「そうだな、アニキに出来ねぇことはねぇ」
「それはどうかな?リュートは相当優秀だけど、ボク達と同じ人間。仮に精霊王が本物であれば勝負の行方は分からかいよ」
ライトは肯定的だが、ジークの兄貴は現実的だ。
「まぁ、なんにせよ奴の言葉から察するに、オレたちの未来はアニキに託されたってことだろ?」
「そうですね」
「そうだね」
頼むぜアニキ。
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