第61話 執行

 ――翌日


 昨日はあの後、すぐに会議が終わった。結局俺が2日後に出発する事になった。


 今から行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、明日、ようやくアマンダ元第3皇妃の裁判が行われるのだ。


 数ヶ月前にベルン義兄にい様の殺害を手引きしたとして容疑がかけられていた。


 実は既に死刑が決まっているのだが、父上の意向で、死刑は即日執行を予定している。死刑の準備が整い次第裁判にかける予定だったが、つい先日準備が整ったので正式な裁判をするとの事だ。


 俺はその裁判にも死刑執行の場にも顔を出すつもりだ。ベルン義兄にい様の殺害を手引きした人間の末路をこの目で確かめたい。


 その日は特に何もすることも無くいつもの日常を過ごした。


 ◇


 ――翌日。城の食堂


 今日はいつもより早めの朝食をいつも通り、食堂で摂っていた。食堂と言っても前世の食堂とは全く違う。大勢の人が食べられるような空間ではなく、長めの机がひとつ、そこに椅子が数個並んでいるだけの部屋だ。そこで皇族、その家族は食事をとる。ちなみにシャルが泊まる時や、やアルもここで食事を摂っている。


「……」

「……」


 父上もみんなも皆、無言で食事を摂っている。これが貴族が食事を摂る時の本来あるべき姿なのだが、みんなで楽しく食べようという方針で今まで自由におしゃべりしながら食べていたが、さすがに今日ばかりはそのような気分ではない。


 いつもより朝食の時間が早いのは、裁判を行う時間が早いからだ。別に、裁判を行い、執行し、その後に食事を食べてもいいのだが、目の前で死刑執行しているのを見た後にご飯を食べれるほど神経は図太くない。


 食事を摂り終えた人から食器を自分で片し、部屋を後にする。レントが1番速く、アル、俺と続いた。


 シンシアは裁判も死刑も見にこないので後から、クリアーダや、シンシアの専属メイドのジュリアらと共に食事を摂るそうだ。


 ◇

 ――リュークハルトの部屋


 俺は明日の対精霊王のことについて考えていた。


 精霊は自身が魔力の塊であり、実体のない精神生命体だと言われている。


 また、主に魔法を使う。下位の精霊は精霊視という魔法か、才能として元々精霊を見ることが出来るものしか見ることができない。中位の精霊は力のある個体は何もせずとも見ることが出来るが、中位の中でも力のない個体は下位精霊と同じような方法で視るしかない。


 上位精霊、精霊王になると、自分の匙加減で下位精霊のように一定の条件が揃わねば視ることが出来ない状態と何もしなくても視ることが出来る状態を使い分ける事が出来る。まぁ、精霊視の魔法を使えば関係無いらしいが、俺の場合は、神眼:精霊視で見ることが出来るとアイから聞いた。


 そして実体のない精霊に物理攻撃は効かない。つまり魔法で殴るしかないのだ。


 しかしここで鍵になるのがシュレイヒトさんが言っていた、近接戦闘のできる精霊王。某スナスナも物理攻撃は聴かないが、水などが付着すると固形化し、物理攻撃が可能になるので精霊も魔力を纏わせた物理攻撃なら効果があるのではないかと踏んでいる。


 アイに聞いたところ、可能らしいので魔法戦できつくなったら、近接戦に持ち込むことを考えておいた方が良いかもしれない。


「リュークハルト様、お時間です」


 対精霊王戦を想定しているとクリアーダが部屋に入っており、声をかけて来た。全く気づかなかった。忍者か何か?


 後で聞いたら、何回話しかけても返事をしなかったらしい。……忍者の線は消えたか。クリアーダならあり得ると思ったんだけどなぁ。


「わかった。今行く」


 ◇

 ――玉座の間


 玉座の間、つまり御前だ。ここで裁判を行い、外で死刑を執行する。


 外と言っても城から出て、貴族街を抜け、城下町と言われるところで晒し首にするらしい。


「これより、元第3皇妃、アマンダ・フォン・スタークの裁判を始める」


 第1宰相のシュヴァルツ公爵の号令でアマンダ元第3皇妃が入場させられる。


 すると、木製で出来た手枷をつけたアマンダ元第3皇妃か入場してきた。その顔はどこか憑き物が取れたような表情をしていた。牢獄に入れられている間、自分がしたことについてよく考えたのだろう。


 ちなみに、彼女の獄中の態度を鑑みて彼女の実子であるジオルグの死刑は取りやめになった。


 そして、その後は、淡々と裁判が進んでいった。彼女が犯した罪の事実確認の後、殺害の動機等を聞かれキチンと応答していた。


 こんなちゃんとしている姿を見ると、なぜあんな事をしたのかとても疑問に思う。


 耳を澄ますと、既にとても反省している様だし、晒し首だけはやめてあげた方がいいのではないか、などと言う声が上がっている。しかし、それはそれ、これはこれだ。今更反省したところで彼女が犯した罪は消えないし、ベルン義兄にい様も帰って来ない。もう二度とこのようなことが起こらないよう、晒し首にするのは妥当な判断だ。


 裁判は30分程で終了し、次は城下町への移動だ。もちろん彼女は手枷をつけたまま。


 俺たち皇族は馬車に乗り、その後ろを他の役人貴族が馬で移動。次にそこまで爵位の高くない貴族が徒歩でその後ろを死刑囚も徒歩。徒歩の者がいる為、馬の速度はとても遅い。


 10分もしない内に目的地に着いた。そこにはギロチン台が用意されていた。そしてそのまわりには多くの市民がいた。よく見ると10代の若い女性が多いように見える。おそらくはベルン義兄にい様の学友かファンクラブの者だろう。なんと、学園にはベルン義兄にい様のファンクラブがあるらしい。


「――ッ!―――!!」

「――!」

「―――!―――ッ!!」


 誰が何を言っているのか聞こえないくらい騒がしい。何を言っているか分からない。分からないが、罵声を飛ばしていることだけは分かる。


 罵声を飛ばす者、静かに見守る者、人混みに押されてそれどころではない者。色々いるが、8割の者が罵声を飛ばしている。


 そしてアマンダも目的地につき、目の前にあるギロチン台に向かって歩む。


 ギロチン台に首と手首を固定され動けなくさせられる。その顔はどこか哀愁が漂っていた。


 執行人の合図と共にギロチンの刃が降ろされる。


 ―瞬間、アマンダの体が発光する。


 そしてアマンダの首が落とされ――ない



 それどころかギロチンの刃が砕け散った。


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