第52話 反面教師

「なんじゃ、お主も辛気臭い顔をしよって。何があったんじゃ?」


「アル……、あ、忘れ物した」


 アルを見て少し気が抜けて父上に話さなくてはいけないことがあるのを思い出す。


 ガチャ


「父上!先程も見たかと思いますがレッカー鳥を捕獲しました!レッカー鳥の住処も特定しているので、今度向かいます!あと、養殖したいので小屋も作っていただけると嬉しいです!」


 一瞬で後ろを向き、ドアを強めに空け、開口一番父上にまくし立てた。


 ガチャ


 そして速攻でドアを閉めた。こういうのは相手に何も言わせないのが良い。


「それで?何があったんじゃ?」


 アルはどうしても知りたいらしい。


「いや、まぁ。第一皇子が暗殺されだんだよ、第三王妃の手先に」


「……なんとも人間らしい争いじゃな」


 俺の言葉だけで全てを察したのか、アルはいかにもドラゴンらしい返答をくれた。


「ま、義兄にい様が死んでしまっが、次期皇帝候補の争いとかは起きなさそうだし、なんとかなるだろう。それよりヴォルは?」


 おそらく次期皇帝はライトか、ジークだろう。俺とレントは皇帝という柄ではない。


「あぁ、ヴォルなら帰ってきて早々シャーロット嬢とシンシア姫に取られたぞ。お主の婚約者と義妹いもうとであろう?」


「そっか。それならいいんだ」


「それで?お主は今からどこに行くのじゃ?」


 アルが首を傾げながら聞く。


「ヴォルのところにでも行こうか――」


 カンカンカンカン

「南方約5000よりドラゴンを確認!色は赤!大きさから成龍アダルトドラゴンと推定!」


 うるさい鐘の音と共に叫び声が聞こえる。


「知り合いか?」


「おそらくは元旦那じゃろうて」


 アルの旦那さんか。……あれ?そういえばこいつの旦那って若いドラゴンと不倫してるみたいなこと言ってなかったけ?


「………」


「なんじゃその目は?」


「ドラゴンの肉って美味いらしいな」


「あっはっはっ、お主も面白いことを言うのう。妾は食べたことはないが、たしかに、ドラゴンの肉は美味だと聞くな!」


 元旦那のことは全然気にしていないらしい。それは別にいいんだが、こいつ、ワンチャン元旦那食おうとしてね?


「それじゃあ、今日はドラゴン肉でパーティーだな」


「それも良いのぉ!」


 あー、ダメだ。ほんとになんも思っていないらしい。それは別に好都合だが。


「それじゃあ、早速行こうか」


「そうじゃな!」


 俺たちは城内を走り玄関口までやってきた。そこからアルは人型のまま羽を生やし飛ぶ。俺はそのまま魔法で飛び立つ。


「なぁ!お前の元旦那とやらはどんくらい強いんだ!?」


 飛びながらだから、声を張って聞こえやすいようにする。


「妾より全然弱いわ!お主なら一方的にボコボコにできるじゃろうて!」


 それなら楽でいいな。


「それじゃあ、俺はやつを仕留めるから、お前は血抜きとか捌いたりしてくれ。それくらいの知識はあるだろ?」


「元旦那を解体させるとかお主サイコパスじゃな!!まぁ、別に構わないがの!」


 とりあえず高度をとるために上へ飛んでいとドラゴン状態のアルより一回り小さいドラゴンが数km先に飛んでいるのが見える。


「今日の夕飯んん!!」


 俺はドラゴンを見るなりスピードを飛ばし接近する。


「はぁ、戦争を経て少したくましくなったかの?元々ああだった部分もあるが」


 アルが何が一人言を言いながら俺のスピードに着いてきてくれる。


 すると、ものの数秒で例のドラゴンの前に着く。


「おい、ここに何しに来た?ここは帝国領内だ。そしてこれより先は帝都になる。これ以上進むの言うのなら今日の夕飯にするぞ?」


「最後ので台無しじゃ」


「……。おい、アル何をしている。早く帰るぞ?それになんだその格好は?人間の真似事などしよって」


 アルの旦那とやらはかなり高圧的な感じで話してきた。


「なぁ、アル。あいつってお前よりドラゴンとして格も下だし、弱いんだよな?なんであんな態度とるんだ?」


「妾より格も下で弱いからじゃろ?元々男尊女卑の思想を持つ者じゃ。自分のちっぽけなプライドを守るためにはあういう態度が最適じゃろうて」


「馬鹿なんだな」


 本当に愚かな龍だ。こいつを食べたら俺まで愚かな人間になるなんてことないよな?うわぁ、考えただけでなんかヤダ。


『おそらくは、そのような心配はご無用かと』

「お主が考えているような馬鹿みたいなことは起こらんよ」


 アイとアルからのダブル攻撃だ。俺なんも言ってないよな?


『いや、冗談だよ?真に受けないで?』


「てか、なんでお前俺の思考読んでんだよ」


『そうでしたか』

「お主のその嫌そうな顔を見ればわかると思うぞ?」


 そんなに嫌そうな顔してたかな?


「そうか。今後は気をつけるとしよう」


 いや~、ほんとに。貴族の前で考えを顔に出したりするとすぐ読まれるって聞くしな。気をつけよう。


「……さっきからこの俺様を何空気扱いしてくれてんだァァァ!てか、全部聞こえてるぞ?俺様のプライドをちっぽけとか言った罰を与えてやるよ。アルも目を覚まさせてやる」


「あ?寝言は寝てから言えや。アルより弱いお前が俺に勝てるわけないだろ?」


「うるさァい!そこのクソアマより俺様の方が強いに決まってるだろ?それに下等生物如きがドラゴン様に勝てるわけが無い」


 あーあ、言っちゃったよ。アルより弱いくせに意地張っちゃってさ。ドラゴンとして格が違うことに気づいておきながら、現実逃避してるのか?


「これはもう生かしちゃおけんだろ。殺すよ?こいつ」


「もうすきにせぇ。聞いてるこっちが恥ずかしいくらいじゃ」


「それじゃあお言葉に甘えるとしよう」


 俺はゆっくり俺様系勘違い野郎に近づく。


「ん?この俺様を前に降伏するつもりにな゛ッッ」


 なんか喋ってたけど、腹パン食らわせてやった。ここで魔法使ったりすると食えなくなる肉が出てきそうで嫌だしな。


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!


 俺が本気でドラゴンを殴る音が響き渡る。アルは顔を歪めてこちらを見ている。数日前に自分も殴られた事を思い出しているのだろう。あの時も強めに殴ったしなぁ。


「わ、わかった。こうしよう。お前と俺様は今から仲間だ。仲間は殴り合わないだろう?」


 すると、なんということでしょう。あのドラゴン様が仲間に迎えてくれると言ってくれるではありませんか。人間相手に負け宣言は出来ないから仲間に入れようと言う考えだろうが。


「そりゃあいい考えだ。実は俺は今腹が減っててな、肉を食べたい気分なんだ」


 俺は殴るのを止め、話す。


「そうかそうか!それじゃあ俺様の住処の方に行こう。美味しい魔物が多いぞ!」


「いやぁ、遠いんでしょ?俺は今すぐ食べたいの」


 さすがに無茶がすぎるか?


「それはちょっと難しいな!でも俺様が獲物を探すのを手伝ってやるぞ!」


「ほんとか?じゃあ、お前が俺の獲物なれ。それで全て解決だな。俺たちは仲間だ。助け合おうじゃないか」


「……へっ?」


 俺の言葉に変な声が漏れるドラゴンさん。


「後で美味しくいただくよ」


 スパッ!


「ッッッ」


 ドン!


 俺に首を切られ、飛ぶことの出来なくなった体は大きな音を立てて地面に落ちた。いやぁ君はいい反面教師になったよ、ありがとう。


「よし、アル、こいつを回収して城に戻ろう」


「そうじゃな」


 アルはどこか吹っ切れたような笑顔を見せてくれた。


 それからは落ちたドラゴンさんを異空間収納にしまい、城に帰った。


 ◇

「……ただいまです」


 城に着くとまたもやみんなが出迎えてくれていた。が、ほんとなにやってんのお前みたいな顔で見られてしまっていた。

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