第53話 ドラゴンは自分勝手


「……ただいまです」


 終わった。みんな、何してんだこいつみたいな目を向けてきてる。ここで、夕飯狩りに行ってました、なんて言えるわけないだろ。


「リュークハルトよ、お主先程、レッカー鳥を捕まえたなどと言っていたな?今回は何をしにいったのだ?」


「ドラゴンが現れたと聞いたので、帝国のためにも、やっぱり危険なモノは排除するべきかなと。対話も出来なかったので。あ、あと、レッカー鳥はアングラックが今は面倒見てくれているらしいです」


「そんなことは聞いていない。なぜ何も言わずにドラゴンの元に飛んで行ったのか聞いているんだ」


 これは逃げきれないっぽいぞ?


「で、ですから、帝国のために――」


「夕飯の為と抜かしておったではないか。今日はドラゴンの肉で焼肉パーティーだなどとほざいておったでは無いか」


 あれ?アル裏切った?こいつも賛成してたじゃんドラゴンの焼肉パーティー。


「い、いや、帝国の為というのは本当です。ドラゴンの焼肉パーティーはそれの副産物にしかすぎません!」


「良い良い。余もドラゴンの肉は食べて見たかったのじゃ。ワイバーンなら食べたことがあるんだがな、ドラゴンの肉は初めてだ」


 なんだ、父上も賛成じゃんか。なら、へいきだね。


「それなら良かったです。それでは俺は先程倒したドラゴンの血抜きを済ませて来ますので夕飯までお待ちください」


「あいわかった」


 隠しきれていないが、父上はウキウキしているっぽい。



 ◇


 ――帝都近郊


 俺とアルは先程倒したドラゴンの血抜きをするために帝都の外にやってきた。城でやるには汚いしデカすぎるということで、やってきたと言うわけだ。


 既に首は切り落としているのでそのまま逆さまにして吊るすだけでドラゴンは血抜きができるらしい。


 そして、血抜きをしている間は……


 ドン!ドン!


 アルと一緒に格闘術と魔法の訓練をしていた。


 ここ一週間、遠征していて、満足にトレーニングに励めなかったため、こうして今やっているのだ。


 アルの攻撃は実に多彩だ。レントは単調ながら素早さで圧倒してくるのに対して、アルは多彩なリズムで崩し、数ある攻撃の引き出しから最良のものを持ち出し、素早いスピードで攻撃する。


 正直こいつからレントが1本とったのが信じられないくらいだ。


 それにプラスして魔法も駆使してくる。レントと同じで炎系の魔法が強力なのだが、そこはやはり原初のドラゴン。魔法ひとつとっても人間とは格が違う。


「やっぱりすげぇな。原初のドラゴンってのはみんな強いのか?」


「そうじゃな、皆が皆体術を心得ている訳では無いが、それぞれの得意の魔法は全ての生物のトップに君臨すると言っても過言ではないのじゃ。お主がいなければな」


「はっ、そりゃどーも」


 俺はあえて右手で大振りの攻撃を放つ。もちろんアルも交わすのだが、距離が距離な為に、少し大きめに躱さなくてはならなくなり――


 ――ボンッ!


 空いている左手で魔法を繰り出しアルにぶつける。


 しかし威力が弱すぎたためか、アルは何も怪我をしていないようだった。


 今のタイミングでもう少し溜めて強力な魔法を放とうものならアルに躱されていただろう。弱い攻撃でちまちまやるのは性にあわないが、いずれこのような戦闘スタイルをとる相手と対峙した際、役立つだろう。


 ――チラッ、


「そろそろ、終わりのようじゃな」


 アルは、軽く左側を見る。すると既に吊るしたドラゴンからは違う流れていなかった。時間的に10分も経っていないが、どうやらこれで完成らしい。てっきり何時間もかかるもんだと勝手におもっていた。


「じゃ、決着もまだ着いていないが、こいつを捌こうか。俺は出来ないから頼むな」


「あぁ、任せておくのじゃ」


 そういうとアルはどこからか取り出したナイフで迷いなく元旦那のドラゴンを解体し始める。


 スパッ!スパッ!ツーーッ!スパッ!


 ナイフを突き立てそのままスライド。ところどころ丁寧にやっているところもあるが、基本的にスパスパやっている感じ。


「おぉ」


「どうじゃ?」


「すごいな。今までどれくらいのドラゴンを解体してきたんだ?」


 純粋に気になったので聞いてみた。


「いや、ドラゴンの解体はしたことないな。じゃが、ワイバーンは数え切れないほど解体してきたのじゃ」


 あれ?こいつ禁忌に触れなかった?


 ドラゴンはワイバーンと一緒にされることを嫌うらしい。それなのにこいつは「ワイバーンはいっぱい解体してきたから、ドラゴンも余裕」

 みたいなこと抜かしやがった。え?自分で言う分には平気なん?


「はぁ。妾は原初のドラゴンぞ?こんな若造と一緒にするでない」


 ありゃ。思考を読まれてしまっていたらしい。


「じゃあなんでそんな若造とやらと結婚したんだ?」


「それは、その――~~ッ!そんなのどうでもいいでは無いか!うるさいぞ!」


「え?あぁ、ごめん」


 あとから聞いたことだが、数匹いるうちの原初のドラゴンのうち、アルだけが結婚していなかったのだかとか。それでちょうどいい相手を探していた時にまたまた求婚されたので結婚したらしい。


 なるほどなぁ。別にこいつのことは好きではなかったと言うことか。それに向こうから求婚しておいて浮気したらそりゃあ怒るな。


 まあ、仕方ない。悪いのはもう死んだドラゴンだ。俺には関係ない。


「そろそろ完成するぞ」


「お、いいじゃん、そしたら俺はどんどん仕舞ってくわ」


 そりゃ、こいつの解体に気合いも入るってもんだな。

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